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前回はヨーロッパ人が新大陸を見つけたという話をしました。新大陸というのはアメリカ大陸のことです。
それを見つけて、ヨーロッパ人は最初はそこをインドだと思っていて、そこに住んでいた人たちをインディアンと名付けたりまたはインディオ・・・これもインド人という意味です・・・そういうふうに名づけたりしたんだけど、結局インドではない、自分たちの知らない新しい大陸だったということを発見したのがアメリゴ・ベスプッチだった。だから、彼の名を取ってアメリカと名がつく。ちなみにコロンブスの名前はコロンビアに残っています。
するとヨーロッパ人がそこに乗り込んできて、ここは自分の土地だといって、そこに住んでいる人を強制労働させたり、インカ帝国という文明を滅ぼして金銀財宝を全部もって帰ったり、そういうことをスペイン中心にやっていったわけです。そういった話をしました。
コロンブスが最初に、西インド諸島を・・・西インド諸島というのはインドにあるんじゃないです・・・インドだと思っていた。今のアメリカの南のカリブ海に浮かぶ島々です。ジョニーデップのパイレーツオブ・カリビアンという映画、あの舞台です。ああいうところにヨーロッパの海賊がわんさか入ったりしたわけです。
コロンブスが発見したのが、1492年。すぐ1500年代になっていく。そうやってヨーロッパ人がアメリカ大陸に乗り込んでいく一方で、ヨーロッパの国内ではどうだったか、という話を今日はします。時代は同時代です。新大陸にヨーロッパ人が乗り込む一方で、ヨーロッパでは何が起こっていたかということを話します。
【宗教改革】
まず宗教戦争が起こるんですね。大航海時代とほぼ同時です。大事なことというのは、何も起こらない時は100年も200年も何も起こらないけど、何か起こる時は2つも3つも同時に起こる。もうちょっとゆっくりとわかりやすく起こってくれたらいいと思うけど、そんなことは過去に生きていた人たちの預かり知らぬところで、起こるときはランダムに一気におこっていく。これが1500年代です。
まず宗教改革が起こります。改革というけど、実際に人が死んで殺されて血が流れていく。何百万人も。ドイツの人口はこれによって、100人いれば30人以上死ぬ。3割、4割方死んでいく。日本が1億2000万の人口であったら、2万人死ねば大事件ですが、それが4000万人死ぬとなると、とても想像できない大惨事です。これでヨーロッパが激変するんです。こんなとんでもない戦争になっていく。宗教戦争というのはよく人を殺します。特にヨーロッパの歴史では。
【ルター】
その発端が1517年、1人の牧師さんです。ドイツのルターです。
キリスト教会の親分、これは今のローマ教会です。正式な名称は聖ピエトロ教会といいます。今はイタリアのローマ、ヴァチカンにある。ここは独立国ですよ。面積は大学のキャンパスぐらいしかないのに歴然とした独立国です。別名、ローマ法王庁です。
※ 1517年、カトリック教会は、第5回ラテラン公会議で利子徴収を解禁しました。(宇山卓栄 経済)
【贖宥状】 この壮大な立派な建物は、この時代にできたものです。その建物をつくる時には莫大なお金がいるんです。でもお金がない。だからそのお金を稼ぐために、このローマ教会が何をしたか。字がやたら難しいだけれども、贖宥状(しょくゆうじょう)という。ただもっとわかりやすい別名がある。別名の方が覚え安い。免罪符という。日本流にいえば・・・誤解をおそれずにいえば・・・おみくじみたいなものです。
正月に三社参りしておみくじ引いて、大吉、それです。ただ違うのは、おみくじは100円で引けるけど、これは100万円です。または1000万円です。額が大きくなるほど、罪を免れる可能性が増すという。地獄の沙汰も金次第みたいなものです。これを販売するんです。これを買えばあなたは間違いなく天国にいけますよと。
これにみんなコロッとくる。ドイツを中心にこれを売り出し、そのお金でローマ教会は今の建物を建て替えたんです。
しかしルターは、それはおかしい、そんなことはウソだと言った。
そしてそのついでにローマ教会に対して自分が疑問に思ってることを、ずっと書いていったら95個見つかった。これを95カ条の論題という。
今で言えば、公開質問状みたいなものです。これだけおかしいことがある。なぜだ、答えてくれ、というわけです。こういうのを学校の正門の前にピタッと大きな張り紙で張り出した。これが問題の種になる。
これにローマ教会は腹を立てて、おまえは破門だという。破門というのは、キリスト教徒と認めないということです。ヨーロッパ人はインディアンでもボコボコ殺すでしょう。あれはキリスト教徒以外は人間じゃないと思っているからです。人としての人格を認めないからです。だからキリスト教徒と認められなかったら、何されるかわからない。ものすごく危険な状態になるんです。キリスト教徒でない人間は、殺されても文句いえない状態になる。
それでもルターは自分の説は撤回しない。この時よく間違われるのは、ルターはなぜ反対したのかということに対して、ローマ教会がぼろ儲けしたからだ、と思っている人が多いけれども、実はそうではありません。
キリスト教の教えというのは、日本人とかなり違っていて、未来に起こることはすべて神様が決めているんです。例えば私が死んで、天国に行けるかどうかはすでに神様が決めてるんです。君たちが信じる信じないは別にして。それを信じてる人たちがキリスト教徒なんです。すべては神様が決めていると。
しかしローマ教会が今やってることは、お金持ちが、贖宥状つまり免罪符を買って、地獄に行く人を天国に行けるといっている。これは神様が決めるんじゃなくて、神様の決めたことを人間が変えていることなんだとルターは言う。決めているのは神様じゃなくて、人間じゃないか、それはおかしいという論理です。
お金の問題じゃなくて、非常に論理的な問題なんです。これが真面目に考えれば考えるほど、どうしてもわからないという。すべてはここから始まります。
キリスト教の基本は、神が人を動かすのであって、逆に人間が神を動かしてはならないということです。
もっと言うと、彼が言いたいのは、人間の救いというのは、天国に行けるかどうかは神様が決めることであって、これは昔から決まってる。天国に行けるかどうかは、人間の努力は関係ないんだという。人間が努力して天国に行けるのだったら、それは人間が神を動かしたことになる。しかしそれはできないことだ、という。人間はそういう神様の決定を覆すことはできないから、神の決定には従うしかないんだ、とルターは言うわけです。
この考えは一神教の基本的なものです。ルターはその基本原理に戻ろうとしたわけです。基本原理を作りかえようとしたわけではありません。そして人間は、そういう非常に大きな神様の前で、神様と一対一でサシで向き合って、その教えに従わないといけない、という。こういう神と人間との一対一の関係が個人主義の母体なんです。
【聖書中心主義】 自分の意識の中で神様と向き合う。でも神様は話し掛けてくれないんですよ。ではその教えは何に書いてあるかっていうと聖書しかない。聖書の教えに従いなさい、とルターは言った。
今から見ると当たり前なんですけど、この時代のヨーロッパ人、キリスト教徒は字が読めないんです。聖書なんか読んだことない人が多い。多分見たこともない。そういうなかで、とにかく聖書を読みなさい、ということをルターが言い始めた。これが聖書中心主義です。
【ローマ教会否定】 聖書を読んでいくと、キリストさんはローマ教会のことには触れていないし、これが正しいとも一言も言ってない。ローマ教会があっていいとも言ってない。なんで、おまえたちローマ教会が威張っているのか、と言うんです。ローマ教会なんかなかったし、なんでおまえたちが建物を立てるために、おみくじみたいなものを100万円で売っているのか。おかしいじゃないか、と言うんです。これはローマ教会否定です。ルターは自分の職業である牧師さんも否定していく。そんなのいらないと。こうやって教会否定につながっていく。
【プロテスタント】 この考えに実は非常に近いのがイスラム教なんです。イスラムはモスクという教会があっても、そこにお坊さんはいません。モスクに何か役割があるんではなくて、あれは屋根があって夜露がしのげればいいんです。あれはただの箱なんです。ただの礼拝する場所なんです。そこには神に仕えるお坊さんはいない。
こうやって今まであったローマ教会に反対する人たちの集団がでてくる。彼らをプロテスタントという。プロテストというのは抗議するという意味です。反対する人たちです。この宗派を、新しく生まれた宗派だから新教ともいう。
ではいままで何百年も続いてきたイタリアのローマにあるローマ教会は、カトリックという。これは昔からあったから旧教という。この対立が起こっていく。
これがヨーロッパを2分していく。お互い一歩も譲らない。オレが正しい、いやオレが正しいと、とことんやる。上から下まで。
【利息】 ちょっといらんことを言うと、このちょうど同じ年の1517年にローマ教会がやったことが、とにかくお金欲しいんです。今までキリスト教会は金儲けは卑しいことだ、人にお金を貸して利息を取るなんてとんでもないことだ、と言ってきた。しかし、いや取っていいよ、と同年の1517年にカトリック教会が利息を認める。ローマ教会は金儲けにシフトするんです。
利息が取れると、次に何をするか。お金を人に貸したら、それだけ儲かる。ちょうど儲かるところがアメリカ大陸なんです。
あそこに植民地会社ができていくんです。そこに100万円貸すというか、出資する。それで株式会社の原型のようなものができる。会社の株100万円を買うと、1年間でそれが200万に値上がったりする。そういう時代とかぶっていく。
【政治ルールの変化】 いろんなことがここから発生するけど、次に世の中の政治のルールは誰が決めるべきか、という問題がヨーロッパで発生する。今までそれを決めていたのは・・・笑うかもしれないれど・・・神様なんです。でも神様はものを言わない。語りかけない。では神の考えてることがどうやってわかるか。今まではそれがローマ教会だったんです。
ローマ教会の親分のことをパパという。パパ、ママのパパというのはそこから来る。これが教皇です。この教皇が任命したのが皇帝です。おまえを皇帝にする、どこの皇帝かというと神聖ローマ皇帝です。
【皇帝と諸侯】 ルターの考えに賛同した人たちは、この皇帝にずっと反発していた地方の親分さんなんです。これを諸侯といいます。日本の江戸時代の大名みたいなものです。ちょっとした田舎のお城の主人、そういった人たちが、新教つまりプロテスタント側につく。まずここで血で血を洗う戦いが始まる。
お互いに相手の人格を認めないんだから徹底してやります。どっちかというと、プロテスタント側が優勢です。プロテスタントが強いということは、だんだんカトリック側は没落していく。神聖ローマ皇帝はカトリックの権威のもとに成り立っていますから、神聖ローマ皇帝の命令を誰も聞かなくなっていく。こうやって力を失っていくのが神聖ローマ皇帝です。これはドイツの王です。
【王権神授説】 では国の命令を最終的に決めるのは誰になっていくか。ドイツの王以外の王、例えばフランスの王、イギリスの王です。皇帝がだめなら王だという。王が決定していいんだ。この説が、王権は神によって教会を経ずに直接授けられたんだという王権神授説です。難しい名前ですけど、考え方そのものはそう難しいものではない。 王のワンランク上の皇帝に正当性がなかったら、その下のフランス王とかイギリス王が国家の命令権を持つ。もともとドイツ王が皇帝を兼ねていて1ランク上なんです。王にもいろいろあって皇帝がナンバーワンです。その下が王です。その下が大名というか諸侯です。 しかし世の中は・・・このあと説明していきますが・・・これもダメになる。
イギリスの王は、約100年後、ピューリタン革命が起こって殺されていくんです。その200年後にはフランスの王様もギロチンでスパーンと首を切られていく。
【社会契約説】 そしたら誰が国のことを決めるのかというのは、皇帝でも王でもなく、オレたち庶民だとなっていく。これが民主主義です。民主主義どこから来たのか。江戸時代の日本はぜんぜん民主主義ではなかった。それはこのヨーロッパの考え方を真似したんです。これを社会契約説という。
だんだんと皇帝から王へ、王から庶民へと、主権が移っていく。政治を決定できる権利のことを主権といいます。今の日本の主権者は誰ですか。内閣総理大臣ですか。天皇陛下ですか。われわれ国民ですよ。それはこういう理屈です。
民主主義の裏には、神様がいるんです。そこには宗教改革以来、神と人が一対一で向き合うプロテスタント的考え方があります。神は、皇帝のものでもなく、王のものでもなく、オレたち庶民のものだというわけです。神は、皇帝でもなく、王でもなく、オレたちを選んだんだという宗教的確信が、民主主義を生み、また個人主義を生んでいきます。個人に対する圧倒的信頼があります。
以上をまとめると、主権は皇帝のものでなかったら、その下の王のものだというのがイギリスなどの王権神授説です。そして革命が起こって王が殺されると、主権は我々国民のものだ、というのが現在の社会契約説です。
【宗教戦争】 またもとに戻ってルターです。ルターがこれだけおかしいじゃないかと、ローマ教皇に反抗した。すると、そうだ、そうだ、ルターの言うとおりだと、まず農民がルター派になる。そして徹底して戦う。これが1524年のドイツ農民戦争です。たった7年後です。たんにドイツの農民が戦ったんではなく、農民がルター派になって戦った。相手は皇帝です。負けるんですけど。
次に今度は、日本の江戸時代でいうと大名クラスがルター派になって同盟を組んで・・・この同盟は土地の名前をとってシュマルカルデン同盟といいますが・・・そういうルター派の大名たちが戦争した。これが1546年、シュマルカルデン戦争といいます。また負けますけど。これで多くの人が死にます。
【商業革命】 この間にもう一つ起こっているのが、アメリカでの出来事です。
アメリカでは、そこに住んでるインディアンたちを働かせて、山に連れて行って、穴を掘らせて、死ぬまでこき使って銀を掘らせる。当時のお金は、金と思うかも知れませんが、この時代は銀なんです。そしてその取れた銀を、丸ごとヨーロッパに持っていく。
持って来て、もうちょっと豊かになるために使えばいいけれども、ヨーロッパでは7割方は戦争のための資金です。宗教戦争のための資金です。
【アウグスブルクの和議】 こういったことが30年も40年も続いて、どうにか一応の手打ちになった。解決にはなってないけれども。これが1555年。これも土地の名前をとってアウグスブルクの和議という。手打ちですね。大名は、信仰はどっちでもいい、あんたのいいようにしていいと信仰の自由を勝ち取る。カトリックになれとは強制されなくなった。ただ農民にはまだ信仰を選ぶ権利はないです。
こういうルター派はどこに広がっていくかというと、その中心はドイツです。南にはいかない。南にはイタリアのローマ教皇いるから。そこから遠いところへ向かって広がります。北に行ってノルウェー、スウェーデン、デンマーク、こういった北欧がプロテスタントになる。
【カルヴァン】
その後、さらに2人目のルターが出てくる。彼はまた言うことがルターと違う。これがスイスの中心都市ジュネーブというところの牧師さんで、カルヴァンという。
この人は、さらにルターの考えを徹底して、世の中は何億年も前からたった1人の神様によってすべてが決定されているとした。予定されてるとした。
キリスト教徒にとっては、そんなことは実はどうでもいいんです。自分が死んで、地獄に行くのが怖くて怖くて仕方がない。どうにか天国に行きたい。バカだなあと思うかも知れませんが、宗教というのはそういうものです。君たちは、まだ死ぬことを考えていないかも知れませんが、50年も60年も生きていると、死ぬことの準備は無意識のうちにするものです。みんな死ぬんだから、それは人生の重大関心事になる。高齢になるにつれ、関心が高まると思う。どうやって死のうかと。今までの人間もそうしてきましたし、これからもそうではないでしょうか。そんなことを人間は繰り返してきました。
▼ヨーロッパの宗教分布
【富の肯定】 彼はどうしたら天国に行けると言ったか。仕事して金を儲ければそれは成功した印だから、それは神様が選んだ証拠だと言うんです。何と言うことだと思うかも知れませんが、それを聞いて喜ぶ人がいたんです。一生懸命仕事して金を儲けたら、あなたは少なくとも神様から嫌われていない。たぶん好かれている。それは神様から選ばれたからた。だから天国に行ける、と言う。
※ カルヴァンは5%の利子取得を認めた。(宇山卓栄 経済)
【予定説】 それで天国に行けるなら、とにかく仕事に成功して富を蓄えよう、これで天国に行けるんだ。こういう考え方が流行って、それが社会を動かすほどに広がっていくんです。私は宗教家ではないから、それが正しいかどうかは、分からない。信じる人が、百人、2百人、何万人となっていけば、社会がどんなに変わるか、問題はそこなんです。これが予定説です。予定とは予とは、あらかじめです。人間誰が救われるかは予(あらかじ)め定まっていて、それを人間が変えることできない。
しかしそれを死ぬ前に知れたいと思う。これが職業での成功次第だとしたら、職業の価値というのがグンと上がっていく。職業というと労働です。労働はきつい。休みたいんです。土曜、日曜は休みがいい。しかし労働の価値が上がって、そこで成功すれば天国に行けるとなると、職業は天職・・・英語でコーリングというんですけど・・・職業こそがすべてだということになって、プロテスタント、特にカルヴァン派では人々がやたら働き出す。
キリスト教には、この選ばれたという思想、俺は特別だという思想が、時々出てくる。キリスト教の母体であるユダヤ教には・・・これには教科書に太文字で書いてあるけど・・・選民思想があった。ユダヤ民族だけが神に選ばれている。だからユダヤ民族だけが救われるんだという思想です。誰によってか。救世主によってです。早い話、スーパーマンがユダヤ人だけを救いに来てくれるんです。彼らが待ち望むのはスーパーマンです。
【私的所有権】 今までのキリスト教では、貧しいこと、貧しい中で一生懸命に働く姿、これこそが神様が望んでいたことなんだという考えだった。清貧の思想です。それが180度変わって、貧乏人なんか怠け者のしるしだ。この怠け者、貧乏人は神に捨てられたしるしだというふうに変わっていく。こんな考え方の変化にそう時間かからなかった。変わるときには一気に変わる。
そうなると働いて得た富は誰のものか、ということが問題になっていく。それは働いて努力した者のものだろう。これが私的私有権の確立です。
当たり前だと思っているかもしれませんけど、その前まで、農民が持っている財産は、お殿様のものだったんです。
おまえ家を退けと言われると、家を立ち退かないといけなかった。私的所有権が保障されるということは、この家はオレが生まれて育った家だから、一億円包まれても動かないし、売らないと言えば、絶体動かなくてよい。今の日本の法律ではそうなっています。
こういうカルヴァン派が広まったのが、実はイギリスなんです。そこでこのあと王が殺されていくんです。
【オランダ】 もう一つがオランダです。オランダには風車がある。あの風車がなんのためかというと、水を出すためです。なぜ水を出すか。オランダというのはネーデルランドという。ネーデルは低い、ランドは土地です。低い土地で、周りを堤防で囲って海を陸地化した土地です。昔は干拓地です。水が高潮がすぐ入ってくる。これをしょっちゅう出さないといけない。人の手でかきわけていても、ラチがあかないから風車を回して水を出すんです。それで風車が立っていく。もともと人が住んでないところです。こんな所にカルヴァン派が広まっていく。
【イギリス国教会】 この考え方とは全く別に、イギリス国王はローマ教会と縁を切ります。これは教義上の問題ではなく、嫁さんと離婚したかった王のわがままです。
それで教会が独立する。今でもイギリスの教会はローマ教会の下の組織ではなくて、独立した教会です。これをイギリス国教会という。その時の王をヘンリー8世といいます。まだ1500年代です。
ローマ教会は離婚を認めてない。ヘンリー8世は、嫁さんの他に若い女の子が好きになって、離婚したくなった。しかしローマ教会は離婚を認めないという。
それならいい、オレは別に教会を作るという。王のわがままです。これで一国の教会が成立するところがヨーロッパの王権のすごいところです。国というのは国王の私有物なんですね。ヨーロッパはパブリックの観念が行き届いていると言われますが、政治を見ると非常に私的な政治が行われています。
【イエズス会】 こうやってローマ教会は力を失っていきますが、このままでは済まない。盛り返さないといけない。その中心がスペインです。スペイン中心にカトリック教会が盛り返すための団体をつくる。これがイエズス会です。
イグナチウス・ロヨラという人、これがナンバーワンです。ではナンバーツーはというと、フランシスコ・ザビエルです。聞いたことないですか。日本にキリスト教を伝えた人です。長崎に来た。世界遺産になった長崎の平戸の隠れキリシタンも、ここからです。彼が日本に来た。そして日本にキリスト教を広めようとする。ヨーロッパでの運動がこういう形で日本にも及びます。
しばらくしたら、本格的に宗教戦争がまた始まります。しかしいったん、ここで切ります。
【主権国家】 次に何が起こるか。さっきの話と関係するのは、形上はドイツの王様が神聖ローマ皇帝として、ヨーロッパ全体を支配するという考え方が、何百年も続いてきた。しかしそれがルターによってダメになった。
俺が決定者だと、フランスやイギリスの王が言い始めた。そういう国を主権国家といいます。王がオレがナンバーワンだと言い始める。1500年代からです。
【植民地戦争】 ちょうどその頃、アメリカ大陸が発見されて、海の向こうのアメリカで植民地をめぐって国同士の対立が始まる。その中心はイギリス・フランスです。その植民地争奪戦です。こういうことがヨーロッパの宗教戦争と同時に起こります。
戦争するのに忙しい。ヨーロッパで戦争して、太平洋の向こうのアメリカ大陸でも戦争して、植民地ぶんどり合戦をやる。そして強い者が勝つ。ただそれだけのルールです。だから軍事力が発展する。
これが1600年代まで続いて、このあとでいう最大の戦争は三十年戦争です。これで人口の3分の1が死ぬ。ひどい戦争です。徹底して殺していく。そういったなかで、国のことは王が決めるんだという主権国家が、実はこの戦争の中から生まれてくる。ヨーロッパはとにかく戦争、戦争です。
だからペリーが来たときに日本がこれは勝てないと思ったのは、豊かさや頭のよさではない。武力です。戦争技術だけが圧倒的に強くなるんです。
大砲の飛距離というのは、10メーター飛ぶ大砲を10本100万円で買うのと、100メーター飛ぶ大砲を1本100万円で買うのは、どっちを買うか。1本よりも10本のほうが強いような気がしませんか。でもこれは絶体に迷うことなく、100メーター飛ぶ大砲を1本買うべきです。100メーター飛ぶ大砲の前では、10メーター大砲など、こんなもんが10本、100本あろうが、何の役にもたちはしない。大砲は飛距離なんです。飛距離のある大砲の前では、飛距離のない大砲が10本あろうが、100本あろうが何の役にも立たない。このような軍事技術の点で、圧倒的にヨーロッパが強くなる。このあと300年間、戦争ばっかりしているから軍事力が発達するんです。
【絶対主義】 こうなって誰が権力を握っていくかというと、民主主義の前までは、まず王様なんです。王が殺されることもこのあと起こるんですが、まず王様です。王様の力が強い国家、これを絶対主義国家といいます。絶対主義という言い方をするけど、実際は絶対というほど強くはないんだけどね。少なくとも以前よりも強くなる。
そして王の力が地方にまで及ぶようになる。こういうのを中央集権国家といいます。政治上の言葉の問題として、この反対語は今でもよく出てくる。地方分権といいます。地方分権の反対語が中央集権です。
そこで王は誰と結びつくか。農民と大名は、王は大嫌いなんです。喧嘩している、戦争している、殺されている、血が流れている。王は他のお金持ちと結びつく。大名なんか関係ない、農民は相手にしない。王様はお金が大好きな大商人と結びついていく。
商人はアメリカ大陸が発見されて、そことの貿易が当たれば、一獲千金で儲かるんですよ。そういう外国貿易をしている。難破したら命がないけど、その危険のなかでどんどん行く海の荒くれ男たちが、この商人と結びつくんです。それを国王が後押ししていく。
こういう外国貿易によって、ガッポリ利益をあげようという金儲けの方法を、重商主義という。日本の江戸時代のような農民中心の社会じゃない。とにかく商売だ。ぼろ儲けだ。一獲千金だとなっていく。
【スペイン】 それでガッポリ儲けるのは、まず第一はスペインです。次にイギリスが出てきて、世界をまた変えていくんだけれども、まずはスペインです。
スペインは次のイギリスと何が違うかというと、王だけが貿易を独占したということです。商人と組んではいたんだけれども、その商人の利益をガバッと王が自分の懐に入れたということです。一時、スペインはその100年間ぐらいは強かった。
そのスペインの王様は・・・1500年代でちょうどルターの時代です・・・カルロス1世という。1516年に即位します。
強いと言っても、この時代はまだ世界ナンバーワンはイスラーム圏のオスマン帝国なんです。
ヨーロッパまだ田舎が今から盛り上がろうとしていくところです。カルロス1世は、実はもともとはドイツ人なんです。これが複雑なのは、お母さんはスペインの王女だった。そのスペインで、王様の息子たちが次々と死ぬんです。だいたい5人に2人は成人前に病気で死ぬ。半分生き残ればいいほうです。だからこの時代は多産なんです。
スペインで王の跡継ぎがみんな死んでしまった。それで母親がスペイン王女だったことから彼はスペイン王になり、その上にさらにドイツの皇帝の位が回って来た。だから2カ国の王です。スペイン王としてはカルロス1世、同時にドイツの神聖ローマ皇帝としてはカール5世です。3年後の1519年に即位します。わかりにくいのは、カルロス1世、カール5世、使い分けて出てくる。なんだこの人は、と思うと同一人物です。一人の人物がカール5世と言ったり、カルロス1世と言ったりする。
※ スペインもポルトガルと同じく、ジェノバの資本に支援され、利益の多くを利払いに充てていました。スペインの国家収入の約7割が対外利払いに回されていたのです。ただ、スペインは、ポルトガルと異なり、強国であり、ジェノバの資本にだけ依存していたわけではありません。スペインは、スペイン領ネーデルラントの中心都市アントワープを特区地域として開放していました。 ・・・スペインはこのアントワープで起債し資金を調達していました。・・・スペインにとって、高出払いを要求されるジェノバよりも、アントワープの方に魅力があったことは言うまでもありません。(宇山卓栄 経済)
ということは、この人はドイツ王としての広大な領地を持っているということです。どれくらいの領地をもっていたか。もともとのドイツの領域の他に、まずスペイン本国です。それからネーデルランド、これはオランダです。それからイタリアの南半分。
▼16世紀中頃のヨーロッパ
【オランダの独立】 特に大事なのはここ、オランダがスペイン領・・・オランダはまだ国じゃないんです・・・スペイン領です。次に起こることは、オランダがスペインから独立したいといったことです。そして戦争が起こり、人が死んで、血が流れる。オランダ人も戦争好きです。オランダは小さい国だけれども自分の利益は手放しません。
※ 16世紀前半、経済特区アントワープには新しい世代、カルヴァン派新教徒たちが集まりました。(宇山卓栄 経済)
では終わります。ではまた。