まずルネサンスとは何か。これはフランス語で復活とか再生という意味です。何を復活させるのか。ヨーロッパの過去の文化です。
この時代のヨーロッパの文化の中心はキリスト教です。ほぼキリスト教一色といってもいい。
しかしここで、そのキリスト教以前のヨーロッパ文化を復活させようという動きがでてきます。
キリストが生まれる前の古代のヨーロッパ文化といえば、まずはギリシアです。ローマと合わせて、ギリシア・ローマです。古代ギリシャの時代にはキリスト教はまだ発生していません。そのギリシア文化を復活させていく動きです。ギリシャ文化を難しくいうと、ヘレニズムです。
キリスト教以前の文化には、もう一つヘブライズムがあります。ヘブライとはユダヤ文化のことです。キリスト教の母体はユダヤ教です。そしてユダヤ教を否定することからキリスト教が生まれてきます。しかしここで、ユダヤ教を否定したキリスト教文化をもう一度否定する動きが出てきます。ルネサンスの隠し味として出てくるのが、このヘブライズムの復活です。これが宗教改革です。
このことは二つとも、ヨーロッパで絶対的な価値を持っていたキリスト教を否定することにつながります。反ローマ教会の動きにつながっていきます。このような反ローマ教会の動きは、18世紀末のフランス革命まで、さらに19世紀に思想家ニーチェが「神の死」を宣告するまで、このあとずっと続きます。
そしてそのなかで、ルネサンスからは宗教改革と結びつきながら民主主義が生まれ、もう一方の宗教改革からはユダヤ人の活動を通して資本主義が生まれます。
※ フロイトがうるさく強調するように、抑圧されたものは決して消滅せず、いつかは必ず回帰します。どれほどキリスト教が土着の多神教的なものを根絶しようとしても、それは深く潜行するだけで、そのうちいつかは抑圧の壁を破って噴き出してきます。ヨーロッパ近代の混乱は、それまで二重構造ながら辛うじて何とか維持されていたヨーロッパ文明のかりそめの安定がついに崩れた結果であると見ることができます。(一神教 VS 多神教 岸田秀 新書館 P29)
今までヨーロッパ人はキリスト教を中心にして、まず神様のことを考えていました。しかしこのルネサンスは「神様じゃなくて、ギリシャ人のように人間のことを考よう」というわけです。人間のことをヒューマンといいます。それがちょっと意味が変わって今のヒューマニズムになりますが、もともとのヒューマニズムとは今のような人道主義のことではなくて、人間の欲求を肯定する人間中心主義のことです。それは神様の否定と同時に、人間の欲望の肯定につながります。
なぜこんな事が起こったのか。ギリシアの2000年前の文化というのは、まずどこに伝えられたか。
今までやったヨーロッパ以外の文明は大きく分けて3つあります。1番目は中国文明、2番目はイスラーム文明、3番目はインド文明です。
これに比べれば小さい文明ですが、ヨーロッパのはじまりはギリシャ文明です。しかしこのギリシャ文明は滅んだ後、どこに伝えられたか。それはヨーロッパではなくて、まずイスラーム世界に伝わったんです。当時このイスラーム地域は、世界で最も進んだ先進地帯でした。
この世界最先端のイスラーム世界とはじめて接したのが、この時代から約300年前の十字軍です。キリスト教徒が胸に十字架のマークを縫い付けて、大挙してイスラーム世界に戦争をしかけに行く。このイスラーム世界との接触によって、そこに保存されていたギリシャ文明がヨーロッパにもたらされ、そこから火がついていくのです。
そんななかで今も「オレはヨーロッパのマネはしない、キリスト教のマネはしない」というのがイスラーム世界です。
そこでは女性は伝統的なチャドルを着て、「女性は人前では顔を見せたらいけない」というイスラームの教えにしたがってスカーフをまいています。男性は、「髭ぐらい剃らないか」と日本人はいいますが、「髭のない男なんかみっともなくて外を歩けない」と、イスラームの男は髭を蓄えます。髭はイスラーム世界の男の威厳なのです。そういう点でもヨーロッパ文明とはかなり違う。
日本はいち早く明治維新の時に「そうだ、そうだ、これからはヨーロッパの時代だ」といって、まっ先にヨーロッパ流に変わった。我々はチョンマゲしているのか。紋つき袴をしているのか。髪型でも、ズボンでも、スカートでも、ネクタイでもヨーロッパ流です。このように全世界的にヨーロッパ文明が覆っているのが現代の社会です。
例外的に「そこまで変えていいのかな」というのが、西郷隆盛です。あの人は少し、このことに疑問をもっていたところがあります。あの人は自殺に2回失敗していますからね。「あとの人生、どこだって死んでやる」という人です。実際に死んでいきますが。
最初の人はダンテというイタリア人です。小説「神曲」を書きます。
それからもう1人、ボッカチオ。これは「デカメロン」といって・・・・・・デカいメロンではなくて・・・・・・話の内容は腐敗したキリスト教のお坊さんの私生活、隠れてお金を貯めていたり、人には「神を信じなさい」といいながら自分は神を信じてなくて、贅沢な生活をしていたりする。そういう宗教界の裏話を暴露する。
次の1400年代になると・・・・・・昔の絵は非常に神様っぽくて肉付きのいい女性とか描かなかったのですが・・・・・・非常に有名な絵、モナリザが描かれます。これを描いたのはレオナルド・ダ・ヴィンチです。この人は絵を描くために、死体を墓場から持ってきて、夜の夜中に自分の部屋で解剖して筋肉の動きまで徹底して調べる。そのうちに絵が本業なのか、医学が本業なのか分からなくなって、めっぽう科学に強くなる。そんな人で「万能人」といわれる。天才でしょうね。
それから、キリストのお母さんのマリアさんの像で、マリアさんと赤ちゃんのキリストです。それを普通の親子の若いお母さんと赤ちゃんの姿で描く。みんな驚くんです。マリアさんはこんなに綺麗だったんだと。これがラファエロです。
次に、ダヴィデ像という。昔のイスラエルの王様です。ミケランジェロです。1501年。
次に、芸術ではないですが、この時代に印刷技術が一気に拡大していく。グーテンベルクという人が活版印刷術を発明する。これがなぜ大事件なのか。庶民が聖書を読めるようになるからです。紙がないところでは庶民は字を読めないです。紙があることによって本が安く手に入り、読み書きができるようになっていく。当時の本というのは聖書なんです。これが読めるようになる。中国ではそんなことは当たり前なんですけどね。ヨーロッパがやっと中国なみに本が読めるようになる。
それから、「太陽が地球を回っているなんてウソだ」と見抜いた人。「そうじゃなくて地球が回ってるんだ」と言った。「バカじゃないかおまえ」と最初言われたけど、彼をバカだという人は今はいない。太陽が動いているんですか。小学校レベルですね。地球が自転してるんです。これが地動説です。コペルニクスです。ここらへんで科学水準が、今までの中国のレベルをヨーロッパが一気に追い越していくんです。
その中心がやっぱりイタリア。中心となるのはフィレンツェです。
この国が滅んで、そこにいた学者が命からがらヨーロッパに逃げてきた。学者の亡命です。それをかくまったのがイタリアの金持ちたちです。その中心がフィレンツェです。フィレンツェには、ヨーロッパでナンバーワンの金持ちがいる。金持ちは金貸しです。
その中にメディチ家がいます。金貸しはお金が儲かる。銀行業はお金が儲かる商売です。これにいち早く目をつけて、腐るほどのお金をもっている。芸術家の一人や二人、三人、四人、ドンと来いです。才能があれば、なんでも材料与えてやって、「給料100万やるから、何でもいいからつくれ」と、どんどんつくらせる。そういったことで文化が発展していく。
ただこれは一方では反キリスト教的な動きです。「キリスト教中心に考えていたものを、逆に人間中心に考えていく」ということは、それまでのように教会中心には考えないということです。
【大航海時代】 こういうキリスト教反対の動きと同時に、まったく関係のないことが起こっていきます。
これがヨーロッパ世界がどんどん、海の向こうに乗り出していくきっかけになります。イギリスなどはもともとはバイキングの子孫です。海賊の伝統がある。海が大好き、船が大好きなんです。
ただ昔の地球は、ここにヨーロッパがあるとすると、船乗りたちは海岸の近くだけしかいかない。海岸から離れて遠くの海に行こうとすると喧嘩が起こる。それでも船長が行こうとすると、船長は殺される。
なぜか。この当時、地球は人間の感覚として平面でしょう。海があっても、どこまでも海が続いているわけはない。どこかで終わるはずだ。そこまで行ったら地獄に落ちる滝の流れがある。その滝の流れに巻き込まれたらもう助からない。地獄に落ちるしかない。船乗りたちはこれを怖がったんです。地球が丸いというのはまだ信じられないのです。
「そんな地の果てまで行っていい」というのは、命知らずの荒くれ男たちですよ。つまり海賊です。「命なんか惜しくないわい。100万円儲かるなら、命なんかくれてやる」と。そうなると賭けです。そんなことをどんどんやっていく。そんな男たちだから、人殺しだってしていく。
【ポルトガル】 そういったことに乗り出していく国がまずポルトガルです。今は小さな国です。スペインの西のほうにあるヨーロッパの西の端にある小さな国です。しかし大西洋に面している。ここがまず海に乗り出して行きます。
地中海貿易でアジアの香辛料を高値で取引し、それに成功していたイタリアは、オスマン帝国に遮られたため、地中海以外の新たな交易ルートを開発し、大西洋経由で直接アジアと取引しようと試みていました。そこで彼らはポルトガルに莫大な投資をし、造船をさかんにおこない、ポルトガルやその国王を新航路開拓へと駆り立てました。
※ 15世紀の大航海時代は、ベネチアに苦汁を飲まされたジェノバの逆襲として幕を開けるといっても過言ではありません。・・・ジェノバはポルトガルに積極的に資金を拠出し、これを支援しました。(世界史は99%経済でつくられる 宇山卓栄 育鵬社 P117)
その船乗りの親分さんがバスコ・ダ・ガマです。いかにもという名前です。ガマといえば、なんか恐そうです。そんな荒くれ男の、海賊たちの棟梁だから、歴史に登場するようなエリートじゃない。やくざの親分みたいな人です。若い頃は何をしていたかよく分かっていません。
それがなぜ歴史に名が残るか。ヨーロッパからこんなアフリカの南に行ったら、地球から落ちると、乗組員たちの大暴動が起こる。それをなだめる。命知らずの男たちを。「オレに任せろ。悪いようにはしないから」。どうするのか分からないけど、そういう親分さんです。
彼が行った航路は、ポルトガルから赤道へと南下し、赤道はアフリカのまん中に通っているから、だんだん暑くなってくる。暑くて仕方がない。これもイヤなんです。
そこを通り過ぎて、さらに南下すると、今度はだんだん寒くなる。今度は逆に寒くて寒くて仕方がない。不安も大きくなる。世界の滝から落ちる不安。これをなだめて「つべこべ言わずでオレに着いてこい、バカたれが」となだめる。
その大親分はどこに行きたかったか。結局ここです。インドです。これはヨーロッパ人の羨望の的です。うらやましくて、うらやましくて、ここに行きたくて行きたくてしかたがない。それまでインドとの貿易をしていたのは、イスラーム圏です。イスラーム商人がインドから買ったものが、地中海経由でヨーロッパに運ばれていた。だから中間マージンが発生して値段が高くなる。インドに直接行けたら、安く買うことができて、戻って来れたら高く売れる。それだけで億万長者になれる。胡椒を一袋もってきたら金と同額だから億万長者です。そんなぼろい儲けができる。
そのインドに行くために、イスラーム商人たちが牛耳っていたインド洋を、ポルトガルが戦争して取る。これが制海権です。海の支配権を握る。これが1509年のディウ沖の海戦です。
しかし胡椒は胡椒に過ぎません。それに高値がつくということ自体が実体のないバブルです。胡椒バブルが崩壊すると、莫大な資金を投じて世界各地に港湾を建設して香辛料貿易を行っていたポルトガルの利益は著しく減少します。ポルトガルは破産し、1580年に隣国スペインに併合されます。
※ (ポルトガルは)小国ポルトガルの予算だけではその費用を負担できず、ジェノバ資本に依存しなければなりませんでした。その結果、香辛料貿易の利益のほとんどをジェノバに取られ、ポルトガル王室は慢性的な財政難に陥っていました。・・・・・・ポルトガルは身の丈に合わない開発話に乗り、負債とその利払いに追い立てられ疲弊していったのです。・・・・・・1578年、モロッコを心配していたイスラム王朝サアド朝に大敗します。この戦いに負けたポルトガルは、負債の返済の目処が立たなくなり、デフォルト(破産)します。そして1580年、隣国のスペインがポルトガルを併合します。(世界史は99%経済でつくられる 宇山卓栄 育鵬社 P123)