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como siempre 遊人庵的日常

見たもの聞いたもの、日常の道楽などなどについて、思いつくままつらつら書いていくblogです。

真田丸 第14回

2016-04-13 23:08:18 | 過去作倉庫15~
 前回で、全体の4分の一にあたる1クールめを終わり、中盤の前半・2クール目にかかりました。ここでガラッと世界を変えてくるというのも大河ドラマの展開の面白いところといえます。
 前回で退場した源次郎(堺雅人)の初恋の人にして最初の妻・梅(黒木華)ですが、局面が変わったとあって実に潔く、回想シーンひとつ入りません。
 というか、わたし思うんだけど、上等な大河ドラマは回想シーンをそんなにいれないものなんですよ。大河ドラマはおしなべて過去の場面のプレイバックで脈絡を説明するような印象があるけど、それはここしばらく駄目な大河に目が慣れすぎたたせいだと思うんですよね。わたし、お梅をみて「風林火山」のミツ(貫地谷しほり)をしきりに思い出したんだけど、彼女はショッキングな死で3話で退場してから、まったく回想シーンがなかったんです。たしか1回だけ?どっかで回想されて、熱心なウォッチャーが沸いたくらいでした。そして最終回の最終シーンを、彼女の声と言葉でしめた。これには本当にグッときました。
 そして2004年の「新選組!」あれも(かなり前なのであまり覚えてないけど)回想シーンがすごく少なかった記憶です。33回で亡くなって退場した山南敬助(堺雅人)がそのあと一回も(たぶん)回想されなかったのが逆にインパクト大で(一回だけ、わざわざ別撮りの過去シーンが用いられたことがあった記憶)、そして最終回の最終シーン、バーッと早回しにそれまでの回想を入れていって、最後の最後を「京では何がおれたちを待っているんだろうな!」という、集合シーンのプレイバックで締めたんですよね。あれも衝撃的な感動でした。
 ことほどさように、回想というのは最小限にとどめ、デリケートに取り扱うほどに、死んだキャラも生きてくる。それがよくできた大河ドラマというものだと思います。
 で、ここで逆の例を出してdisって申し訳ないのですが、この点で駄作の典型例が、あえて名を伏せます「○●○」です。あれは結局、思い付きだけで中身がないので1年の尺がもたなかったんでしょうね、早々にネタが尽たあとは回想シーンばかり延々とリサイクルしており、終盤などはほとんど総集編をやってるみたいでした。あの「天地人」も回想だらけだったけど、こっちは主に主人公の直江兼続をヨイショしてくれたシーンばかり思い出して正当化の根拠にするという、「主人公持ち上げツール」としての回想シーン多用だったような。

 さてその天地人とかぶるシーンになります、上杉主従と源次郎の上洛を描く、第14話「大坂」です。天地人とかぶる…なんて、かなり無理して頭の中で整合しないと、ぜんぜんそんな気になれません。たしか天地人の当該シーンは「戸惑いの上洛」だかなんだか(失笑)。
 今週から秀吉という男が突然大きな存在感を持ってくるのですが、ここでほぼ初登場。たしか中国大返しの噂が聞こえてきたところで、一瞬出ただけでした。主人公サイドには基本的に無関係な存在だったので、当然ノーチェックであり、地方の大名小名に対して「大坂まで仁義を切りに来い」と招集をかけられるくらいの存在になってはじめて、「そういえばどういう男なんだ」と。人物像に関しての情報が全くなかったんですね。
 とりあえず今週もまだ秀吉本人の登場はあとに引っ張り、その存在感だけひとりあるきさせるのは「政宗」と同じですね。秀吉に呼びつけられた大名たちは、秀吉の思惑についていろいろと憶測し、自分の身の振り方としてはどうするのが一番いいのか、秀吉に下るのか、拒否するのか、それで生き残っていけるのか…などを様々に考えるというのが、今週の話の骨子になります。 
 今回は上田合戦のあと・秀吉の登場の前で、あたらしく登場する人たちの顔見せ中心、そうですね、こってりした料理の合間の口直しの水菓子的な回ではありました。
 それだけに、個人個人の思っていることがそれぞれじっくり見えてとても面白かった。まあ今日の目玉は、石田三成(山本耕史)の登場で津々浦々の歴女がキャー!!てなところなんでしょうが、そんなに三成だけにキャーッとなる余裕もないくらい、みんなの言葉や表情の端々に味があって楽しめました。また三成の登場にさほどのインパクトもなく、というか、そんなに極端なインパクトもなく冷静に登場できるのもまた、演技力のたまものだと思います。

 今週のみどころ

 上洛にまつわる話の前に、徳川家では、石川数正が長年仕えた徳川家を出奔する事件がおこります。これは、上田合戦のあいだ徳川の虜囚になっていた信尹(栗原英雄)が牢の中からひそかに調略し、家康(内野聖陽)を裏切って秀吉の陣営にかけこむよう仕向けたもので、そんなそぶりも感じなかった家康も本田正信(近藤正臣)も大きな衝撃を受けます。なにせ正信が廊下を走って1メートルほどジャンプするくらい。いやあ、近藤正臣さんは多彩な芸風の役者さんですが、こんな体技までみられるとはびっくりポンです。
 そして衝撃のあまり食べていたお膳をひっくり返して咆哮する家康。徳川軍の最高機密を握った数正に秀吉側に亡命され、もう明日にでも秀吉軍が攻めてくるのではと不安でパニック状態になる家康。そしたらそのタイミングで天正大地震が襲い、家康は座布団を頭からかぶって木に登って大騒ぎ。可愛すぎる…
 そんな可愛すぎる小心者が、信尹の牢を訪れて、この恐るべき工作員を「徳川家で召し抱える」というんですね。小心なのか、肝が据わりきっているのか、どっちなんだこの人は。
 わたしは真田安房守の弟、徳川の情報を真田に流すかもしれませんが?と当然のことを言う信尹に家康は「承知の上じゃ」と。「では断る理由はありません」と、信尹はクールに笑って家康と手を握ります。ああかっこいい。どこか別の時空からアイパッチした軍師が下りてきたような家康もかっこいいし、牢の中でやややつれ気味な風情の信尹叔父様もたまらん。

 その信尹叔父様は、以前源次郎に「おれの様にはなるな」といったのですが、今週、二回目の「おれの様にはなるな」が源次郎に発せられます。それは、景勝様から。
 秀吉の招集に応じて上洛することになった景勝様は、源次郎には強気な態度で、秀吉の軍門に下るのではない、上杉はあくまで独立独歩を貫く。その確認のためにあいさつにいくだけだ、どうだせっかくだからお前も一緒にきて見聞を広めては?…と。直江兼続(村上新悟)は、まさか真に受けてないだろうな…と源次郎にそっとフォローします。ああは言うけど、正直秀吉に臣従してしまわないと、倒産寸前の上杉家はとてもやっていけない。御屋形様の強がりに付き合って、大坂まで一緒にいってやってくれと。ようは、今回の上洛があまりにも情けなくて、目下の源次郎にでも虚勢を張っていないと自分が保てない、メンタル的なよりどころというわけですね。
 そういうのは景勝様もわかっていて、大坂に着いて石田三成(山本耕史)の洗練された有能なアテンドをうけたあと、ものすごく惨めな気持ちで「自分がいやになる。義とか言って、ようは長いものに巻かれているだけだ」と弱音を吐きます。源次郎、お前は俺のようになるな。自分の義を曲げずに生きろ、と。自分の力の足りなさをよくわかって、愚痴りながらも若者の反面教師にあえてなろうとする景勝様も、それをわかってしっかりと主を支えている兼続様も素敵だなあ。
 
 さて、三成です。今回初登場の三成は、「政宗」のバージョンみたいではないけどけっこう感じの悪い男で、ようは有能で切れ者過ぎて、周りの人を自分がバカみたいな気持ちにさせてしまうというタイプですね。取りつく島もないような有能ぶりに源次郎は「人を不快にさせる何かを持っている…」と感じます。兼続様は、なにかすごく共鳴するものがあったらしくて、「見たこともないほど切れる男。でもああ見えて熱い男よ…」とか言って、珍しく好意を全開にさせるのですが、きりが「見えませんけどね」と突っ込むのが笑えます。兼続と三成ときり、というかみ合わない組み合わせがおかしいです。
 大坂城入りした景勝一行は、当日秀吉に会見をドタキャンされてしまいます。三成がてきぱきと、上杉様、直江様には城内にお宿をご用意しました、どうかゆるりとお過ごしください、真田君は外だ一緒に来い、と源次郎への扱いがものすごく冷たいようでいて、自分の家に泊めてもてなしてくれたり、失礼なのか親切なのかよくわからないです。
 また三成の奥さんが傑作。源次郎に「関白殿下はどのような方なのです?猿に似ているというのは本当ですか?」と聞かれて、「わたくし、存じません」と。殿下に会ったことがない、ではなく「猿に会うたことが無いのです」と。爆笑しました。なんかもう、慇懃無礼に冷たく扱われる場面でも、ちょっとした可笑しみはかならず添えてあるんですよね。
 この奥さんと加藤清正(新井浩文)との場面とあわせて、初登場の短い出番でも三成という人のキャラがピタッと決まる。怖いくらいブレがない。これは私の中の奥田瑛二フォーエバー三成もあやういです。

ほかにもいろいろ見どころ満載で、ちょっとまとめるのが大変なので、ピンポイントでいかせていただきますと、

○時代劇衣装が素でジャージ(ラメの刺しゅう入り)に見えるようなバリバリヤンキーの加藤清正。それでも加藤清正としか言いようがなくて、ホント居るだけで笑った。加藤主計頭清正の響きが好きなんだ、オフクロも喜んでくれたし、とそのあたりの価値観で官途を量る純朴ヤンキー体質も、目から鼻へ抜けるような三成とのわちゃわちゃした幼馴染感も可愛い。

○天然炸裂の茶々(竹内結子)。美しくて何も考えてなくて徹底的に悪気がない。私の中でこの役のアイコン的な「政宗」の樋口可南子バージョンを思い出させます。まあ、今回の三成と淫靡に絡むようなことはなさそうだけど。かわりに源次郎が…? え…。

○石川数正の源次郎への八つ当たり場面は秀逸だったなあ。一時の心の乱れに任せて家康を裏切ってきたものの、冷静になって後悔し、このあとどうしていいかわからない。その混乱を源次郎にぶつけるのですが、それへ「だって仕方ないですよ。裏切ってしまったんですから」という源次郎の返しも見事です。この時代というものが、一言で集約された感じ。
本意でも不本意でも、裏切ってしまったら引き返しようがない。屍を乗り越えてでも前を向いて進むしかないんだと。これはこの回の冒頭で三十郎に、前を向いて頑張りましょうよ」と励まされて「お前に何がわかるんだ」と反発したことへの、源次郎が自分で見つけたアンサーにもなってるんですよね。
で、数正が年若い源次郎に励まされて一言「…うん!」というんだけど、これがまたよかったの。数正もまた、自分の中にアンサーを見つけたんでしょうね。

きりちゃん!この子が面白くなったら拍手する、と最初のころに言いましたが、すでに拍手ですね。すごい可愛い。なんだろう、この可笑しさは。彼女は「呼ばれもしねえのにやってくるきりです」といってどこにでも顔を出すべきですね。呼ばれもしねえのにやってくる捨助がそうだったように、ほっとくと重くシリアスに傾いていく謀略や権謀術数の世界に、ちょっとツッコミを入れて脱力させてまわる存在なのかもしれない。
 まあ、重くてシリアス(に見える)でないと大河ドラマを見た気になれない向きには、ずっと目障りな存在なんでしょうけど、その目障りさを持ち芸に、元気いっぱい最終回までツッコミを入れて歩いてほしいです。いまのところは拍手だけど、そのうち喝采に変わったら嬉しいな。
 あと、きりちゃんが先週、涙を流して「この子はわたしが育てます…」といった梅ちゃんの遺児を、今週もうもてあまし、泣き止まない赤ちゃんに途方に暮れて自分も手放しでびーびー泣き出すところは、やけにリアルでいとおしく、可愛かったです。

○「大名でもない父上を…」「大名でもない父上を…」「うるさいわ!」の昌幸(草刈正雄)と源三郎(大泉洋)のやりとりも最高でしたし、そのあとの膝枕のくだりもおかしかったですが、この親子が似てないようでなんか似てるのもちょっとキュンとなりますね。膝枕のかっこうとか(笑)。奥さんの膝枕で甘えようとしてひどい目にあうところなんかも。

おもむろに今週のおぢ萌え

石川数正の「うん!」には胸打たれました。負けても、凹んでも、それでも生活というものは続いていくという、平凡なお父さんに後光がさしてみえたようなシーンでした。
あと、細かいようですが、「ふんっ!」と踏ん張って地震を止める本多忠勝(藤岡弘、)ですとか。
上杉主従は、なんだか愛しすぎて胸が苦しいレベルに達してます。もうどうしよう。


 また来週っ!