佐賀の乱は、よく、このドラマの中の名場面の中のひとつに数えられるのですが、それは江藤新平を演じる隆大介さんのハマリっぷりと、キャラクター造形の丹念さに尽きると思います。江藤のセリフの中には、「断じてあってはならない!」「断じて許されることではない!」等、「断じて…」というのが口癖のように頻出してきましたが、そういう中にも、自分の考える正義が微塵も揺ぎ無く、頭は素晴らしく良いんだけど人の話を聞けないという、清廉さとともに残念な感じも丁寧に描かれてて、秀逸だったと思います。
江藤と西郷の対話と、桜の木の下での別れは、忘れられない名場面のひとつですよね。明治という時代に、ひとつの精神が殺されていく。殺す大久保も殺される江藤も、それを見つめている西郷も、ともに悲壮感と、はかない感傷も漂う。ほんとうに美しいシーンでした。
というわけで、返す返すも残念な名物キャラ・江藤新平のサヨナラ公演、第2部の13・14話を見ます。
第2-13話「佐賀の乱」
いよいよ第2部も大詰め。クライマックスのカタストロフの、口火を切る佐賀の乱です。
佐賀征討の陣頭指揮を買って出た大久保(鹿賀丈史)は、福岡の連隊と合流、前線の佐賀入りしますが、まだ訓練不足の応召兵は、佐賀士族の抵抗に大苦戦です。
この叛乱を全国規模にしたい江藤(隆大介)から、鹿児島にも合流の呼びかけがきます。久光(高橋英樹)は西郷を呼び出し、兵児どもをひきいて佐賀に乱の鎮撫にいき、薩摩の名をあげてこいと、あいかわらずのムチャな要求を突きつけます。が、西郷は、引退したものが兵を集めて武力行使するなど良いことではないと、久光の命令を拒否。これでますます心証を害し、大山(蟹江敬三)をうろたえさせますが、「江藤という人は、並ぶ者のないほど頭のよか人じゃっどん、機っちゅうもんな知りもはん」、と。江藤の弱点と、それゆえの末路を見抜いていたんですね。
結局、佐賀の乱は、大久保の素早い決断が幸いし、江藤が胸算用していた他県の士族の糾合が出来ないまま、政府軍は佐賀城を包囲します。想定外の事態に弱い江藤は、アッサリ「佐賀城は放棄して降伏する」と。えええーっ、そんな、先生と戦って死ぬつもりだったのに!と混乱する書生達に、シャアシャアと「大勢の決まった戦で死ぬのは匹夫のやること、私には天下でなすべきことが山ほどあるのだ!」と言い放つ江藤。
佐賀を脱出した江藤はどこに行ったのかというと、鹿児島に向かったんですね。鹿児島の西郷家を訪ねるも、西郷は狩猟に出ていて留守です。江藤の薩摩入りに驚いた小兵衛(金山一彦)八方手を尽くして探したところ、鰻温泉でみつかります。
温泉宿で、西郷と江藤は再会します。他日を期して逃れてきた自分に薩摩の力を貸してくれないか、我らは同志じゃないですか、政府が佐賀に銃口を向けたのは薩摩にも向けたのと同じこと、かくなる上は政府がもっとも恐れる薩摩兵児とともに、兵を挙げて立って欲しい!と、この立て板に水のような申し出を、西郷は厳然と断ります。自分は官職を退くにあたり、政治的な意図はまったくなかったし、誰とも気脈を通じたつもりはないと。
そんなことより自分の身の始末をどうつけるつもりかといわれた江藤は、「おのれ一身のことなどどうなってもかまいません、わたくしはわたくしの政治信念のためのみに生きます。それゆえ何としてでも立っていただきたい、さすれば土佐も呼応して立ち…」と、なんか勇ましげなことを言いながら、どこか他力本願なところはあいかわらずです。
西郷は、そんな江藤に「江藤ドン、今夜は一緒に寝もんそ」(!!)と言って毒を抜きます。ふたりは一緒に温泉に入り、枕を並べて眠り、翌朝、やはり説得に応じない西郷を前に、江藤はガックリ肩を落して泣き崩れる…という結末になります。
「オマンサアが生き延びる方法がひとつだけある。久光公にすがるがよか」と西郷。指名手配されている江藤に、天が下に行くところはなく、唯一の安全地帯は、治外法権みたいになっている久光の保護下だけだと。わたくしは命乞いに来たのではない、説得に来たのです!どうか立ってください!とあくまで言い募る江藤を、西郷は残酷に突き放します。
「江藤どん。おはんな、三千の兵を見殺しにして来やった。そげな大将とともに行動することはかないもはん」
全ての道を絶たれた江藤は、「自首する」と決めます。堂々と出頭し、自分の申し分を太政官に対して述べる。その江藤を、ものすごく痛ましげな目でみつめる西郷…。そして、ふたりは桜の花の舞う中で別れていくのですが、この場面の悲痛にして美しいことよ!
江藤は捕らえられ、佐賀に連行されます。大久保は、佐賀に司法権を持ち込んだことを利用し、東京に送らずに佐賀で江藤を裁いてしまいます。判決は、除族の上、梟首。
「裁判長、一体これは何だ。これは、裁判ではない!」
荒れ狂う江藤を冷たく見つめる大久保。刑は即日執行され、江藤の首は(ほんとに隆さんのデスマスクが!)、見せしめのため佐賀城下にさらされます。その竹矢来の前には、号泣する八郎太が…。「江藤先生は、法のもとに万民が平等だという理想を純真なほど信じ、実行された。あの先生がどう裁かれるのか、見届けなければ僕の再出発はありえないんです!」といって、八郎太は江藤を追い、東京から出てきたんですね。
江藤を東京で正式な裁判にかけたら、根性無しの岩倉や三条が、あの弁舌に負けて江藤を無罪にしたかもしれない。そうしたら、過激な不平士族の暴発は抑えられなくなる。それをとりあえず抑え、政府を守るには、あの方法しかなかった。「憎まれるのは一人でよか…」そう述懐する大久保の方に、また重ーいものが乗せられたのでありました…。
第2-14「それぞれの薩摩」
大久保(鹿賀丈史)が江藤の処刑を強行したことで、不満士族の憎しみは新政府、特に大久保の一身にあつまります。臨界に達した士族の不満を回避する目的もあって、新政府は台湾との国際紛争に、はじめて軍事行動を起こします。この台湾出兵は、政府内にも賛否利両論あるのですが、大久保は、国の基礎固めの為だと、少しもブレずにこれをやりぬきます。
鹿児島の西郷家も、不満で一杯のおいどん連中の溜まり場と化し、桐野(杉本哲太)たちいつものメンバーが、「大久保は冷血漢ごわす、変節漢ごわす、おなじ薩摩人とは思えもはん」とか、罵倒の限りを尽くしているわけですが、たまたま西郷家に立ち寄っていた満寿(賀来千香子)がこれを聞いてしまい、ものすごく傷ついてしまうんですね。怒りを覚えたいと(田中裕子)は、西郷に、「おなごにとって宿んしの悪口を言われるのがいちばん辛か」と若いものたちの態度を非難します。
東京では、フランスに行っていた村田新八(益岡徹)が帰国。西郷・大久保の決裂の経緯をはじめて大久保から聞いた村田は、あんなに一心同体だったふたりが…と嘆きますが、大久保は、「また吉之助サアに会えるのは、自分たちの時代が終わったときだろう」と。そして、新しい時代を支える後継者として、実は新八どん、おはんに期待しておるのだと。村田の有能さや、人格高潔なところ、スケールの大きさなど、大久保は幕末のころから高く評価していたわけです。
このように大久保に買われた村田ですが、「吉之助サアの言い分も聞いて、考えてみたい」ので、薩摩に里帰りしてくると言って出かけてしまいます。気楽な里帰りのつもりでも、薩摩に入ったら新八は二度とでてこられない!大久保は無念さを噛み締めます。
佐賀から帰った八郎太(堤真一)は、海老原穆(草野大梧)の主催する集思社の門をたたきます。政府に率直な批判をくだす新聞社に、是非自分もくわわりたいと思った…というんですが、ここが千絵(有森也実)の実家とは知らなかった八郎太は、バッタリ再開してびっくり。千絵は、八郎太に疑いの目をむけます。政府の密偵をやっていた八郎太は、集思社にもスパイにはいったのではないかと。いや、そうではなくて、「僕はこの時代に自分をぶつけてみたい、僕は僕らしく、正直に生きていくつもりです」と、真剣に訴える八郎太に、千絵の心は簡単に氷解してしまいます。
大久保の読みはあたり、鹿児島に帰って西郷と再会した村田新八は、「このまま鹿児島にいて、吉之助サアと行動をともにする」と決めてしまいます。あたら将来を棒にふって…と止める西郷でしたが、村田は、「吉之助サアに手風琴を教えたか」と。口には出しませんが、本人の意志と関係なく西郷の存在が一人歩きし、不満士族の頭領に祭り上げられ、いつか破局が来ることを、明晰な村田は読んでしまったんですね。なので、西郷を守るためにも、もう側を離れることはできないと。この男気が、うわ~泣かせます~~。
村田を迎え、不満で一杯のおいどん連をまとめるためにも、西郷の肝煎りで鹿児島に「私学校」が開かれます。これは当然、当局には「鹿児島に反政府結社の動きあり」と取られてしまいます。
村田新八に続いて、ヨーロッパから帰ってきた大山巌(坂上忍)も鹿児島に里帰りします。外国の土産話で盛り上がるなか、巌は「吉之助サアも洋行されるがよか、目がひらけもす」とかいってしきりに奨めます。もちろん西郷は、洋行なんかとても…と冗談にして流すのですが、実は、そこには深刻な思いがありました。鹿児島を見た巌は、村田と同じように危険な暴力の匂いを感じ、ここに吉之助サアを置いてはいけない、と直感したんですね。
西郷家からの帰路、村田とふたりになった巌は、その危惧を率直に訴えます。村田は、こういう状況だから説得はあきらめて、私学校の二才に囲まれて身動きがとれなくなる前に東京に戻れとすすめます。が、巌は「説得できんときは、そんつもりごわした」と。
「村田サアじゃっで同じこっごわんそ。オイは、幕末の京都で働いたころは、いつでん六連発を懐に入れて吉之助サアと行動をともにしちょいもした。あん頃は、幸せごわした。オイは吉之助サアの側に残りもす」
うわー、またミイラとりがミイラに…。どんだけ西郷を愛しているか、っつうかほとんど呪縛になってしまうような、この西郷の影響力! ですが村田は「そいはならんど弥助どん!」と厳しく止めます。自分が最後まで吉之助サアの側にいるから、おはんは戻れ、と。西郷が鹿児島を去ったら、西郷教の信者が何をするかわからない、だから吉之助サアは離れられない、オイも離れられない…と。これもものすごい呪縛ですよねえ。「村田サア、こいが別れになりもんそかい…」って、辛いなあ。
東京に戻った弥助どんから、鹿児島は大久保憎しで結束していて、満寿が四面楚歌で大変だと聞いた大久保は、「そろそろ潮時」と、満寿を東京に呼び寄せることにします。ですがこれは、単に家族が一緒に暮らすというだけの話じゃなく、かなり複雑な感情をはらんでいるんですね。西郷は、「一蔵ドンはいよいよ腹を決めた。薩摩にはもうもどらん覚悟じゃ」と見抜きます。
そして、東京に引っ越す満寿は「なんか追い出されるようで…」と、ものすごく複雑。そして、「わたしは大久保家の嫁でございもす。大久保家の墓を守れないのが何より辛か」と、また鹿児島に帰る日までと、いとに墓守を頼んでいくのですが、どうですどうです!大河ドラマの主人公の妻とは、かくあるべきですよ。亭主のお株を奪い、日本史を裏から操るような存在じゃない。家を守る誇りを静かに持ち、日のあたらない台所で凛として気概を磨く。これぞ日本の婦道です。
こうして、夫達にまけないくらい「戦友」であった満寿といとは、東京と鹿児島に別れていくのですが、夫達と同じように、これが最後の別れになろうとは…。
(つづきます)
江藤と西郷の対話と、桜の木の下での別れは、忘れられない名場面のひとつですよね。明治という時代に、ひとつの精神が殺されていく。殺す大久保も殺される江藤も、それを見つめている西郷も、ともに悲壮感と、はかない感傷も漂う。ほんとうに美しいシーンでした。
というわけで、返す返すも残念な名物キャラ・江藤新平のサヨナラ公演、第2部の13・14話を見ます。
第2-13話「佐賀の乱」
いよいよ第2部も大詰め。クライマックスのカタストロフの、口火を切る佐賀の乱です。
佐賀征討の陣頭指揮を買って出た大久保(鹿賀丈史)は、福岡の連隊と合流、前線の佐賀入りしますが、まだ訓練不足の応召兵は、佐賀士族の抵抗に大苦戦です。
この叛乱を全国規模にしたい江藤(隆大介)から、鹿児島にも合流の呼びかけがきます。久光(高橋英樹)は西郷を呼び出し、兵児どもをひきいて佐賀に乱の鎮撫にいき、薩摩の名をあげてこいと、あいかわらずのムチャな要求を突きつけます。が、西郷は、引退したものが兵を集めて武力行使するなど良いことではないと、久光の命令を拒否。これでますます心証を害し、大山(蟹江敬三)をうろたえさせますが、「江藤という人は、並ぶ者のないほど頭のよか人じゃっどん、機っちゅうもんな知りもはん」、と。江藤の弱点と、それゆえの末路を見抜いていたんですね。
結局、佐賀の乱は、大久保の素早い決断が幸いし、江藤が胸算用していた他県の士族の糾合が出来ないまま、政府軍は佐賀城を包囲します。想定外の事態に弱い江藤は、アッサリ「佐賀城は放棄して降伏する」と。えええーっ、そんな、先生と戦って死ぬつもりだったのに!と混乱する書生達に、シャアシャアと「大勢の決まった戦で死ぬのは匹夫のやること、私には天下でなすべきことが山ほどあるのだ!」と言い放つ江藤。
佐賀を脱出した江藤はどこに行ったのかというと、鹿児島に向かったんですね。鹿児島の西郷家を訪ねるも、西郷は狩猟に出ていて留守です。江藤の薩摩入りに驚いた小兵衛(金山一彦)八方手を尽くして探したところ、鰻温泉でみつかります。
温泉宿で、西郷と江藤は再会します。他日を期して逃れてきた自分に薩摩の力を貸してくれないか、我らは同志じゃないですか、政府が佐賀に銃口を向けたのは薩摩にも向けたのと同じこと、かくなる上は政府がもっとも恐れる薩摩兵児とともに、兵を挙げて立って欲しい!と、この立て板に水のような申し出を、西郷は厳然と断ります。自分は官職を退くにあたり、政治的な意図はまったくなかったし、誰とも気脈を通じたつもりはないと。
そんなことより自分の身の始末をどうつけるつもりかといわれた江藤は、「おのれ一身のことなどどうなってもかまいません、わたくしはわたくしの政治信念のためのみに生きます。それゆえ何としてでも立っていただきたい、さすれば土佐も呼応して立ち…」と、なんか勇ましげなことを言いながら、どこか他力本願なところはあいかわらずです。
西郷は、そんな江藤に「江藤ドン、今夜は一緒に寝もんそ」(!!)と言って毒を抜きます。ふたりは一緒に温泉に入り、枕を並べて眠り、翌朝、やはり説得に応じない西郷を前に、江藤はガックリ肩を落して泣き崩れる…という結末になります。
「オマンサアが生き延びる方法がひとつだけある。久光公にすがるがよか」と西郷。指名手配されている江藤に、天が下に行くところはなく、唯一の安全地帯は、治外法権みたいになっている久光の保護下だけだと。わたくしは命乞いに来たのではない、説得に来たのです!どうか立ってください!とあくまで言い募る江藤を、西郷は残酷に突き放します。
「江藤どん。おはんな、三千の兵を見殺しにして来やった。そげな大将とともに行動することはかないもはん」
全ての道を絶たれた江藤は、「自首する」と決めます。堂々と出頭し、自分の申し分を太政官に対して述べる。その江藤を、ものすごく痛ましげな目でみつめる西郷…。そして、ふたりは桜の花の舞う中で別れていくのですが、この場面の悲痛にして美しいことよ!
江藤は捕らえられ、佐賀に連行されます。大久保は、佐賀に司法権を持ち込んだことを利用し、東京に送らずに佐賀で江藤を裁いてしまいます。判決は、除族の上、梟首。
「裁判長、一体これは何だ。これは、裁判ではない!」
荒れ狂う江藤を冷たく見つめる大久保。刑は即日執行され、江藤の首は(ほんとに隆さんのデスマスクが!)、見せしめのため佐賀城下にさらされます。その竹矢来の前には、号泣する八郎太が…。「江藤先生は、法のもとに万民が平等だという理想を純真なほど信じ、実行された。あの先生がどう裁かれるのか、見届けなければ僕の再出発はありえないんです!」といって、八郎太は江藤を追い、東京から出てきたんですね。
江藤を東京で正式な裁判にかけたら、根性無しの岩倉や三条が、あの弁舌に負けて江藤を無罪にしたかもしれない。そうしたら、過激な不平士族の暴発は抑えられなくなる。それをとりあえず抑え、政府を守るには、あの方法しかなかった。「憎まれるのは一人でよか…」そう述懐する大久保の方に、また重ーいものが乗せられたのでありました…。
第2-14「それぞれの薩摩」
大久保(鹿賀丈史)が江藤の処刑を強行したことで、不満士族の憎しみは新政府、特に大久保の一身にあつまります。臨界に達した士族の不満を回避する目的もあって、新政府は台湾との国際紛争に、はじめて軍事行動を起こします。この台湾出兵は、政府内にも賛否利両論あるのですが、大久保は、国の基礎固めの為だと、少しもブレずにこれをやりぬきます。
鹿児島の西郷家も、不満で一杯のおいどん連中の溜まり場と化し、桐野(杉本哲太)たちいつものメンバーが、「大久保は冷血漢ごわす、変節漢ごわす、おなじ薩摩人とは思えもはん」とか、罵倒の限りを尽くしているわけですが、たまたま西郷家に立ち寄っていた満寿(賀来千香子)がこれを聞いてしまい、ものすごく傷ついてしまうんですね。怒りを覚えたいと(田中裕子)は、西郷に、「おなごにとって宿んしの悪口を言われるのがいちばん辛か」と若いものたちの態度を非難します。
東京では、フランスに行っていた村田新八(益岡徹)が帰国。西郷・大久保の決裂の経緯をはじめて大久保から聞いた村田は、あんなに一心同体だったふたりが…と嘆きますが、大久保は、「また吉之助サアに会えるのは、自分たちの時代が終わったときだろう」と。そして、新しい時代を支える後継者として、実は新八どん、おはんに期待しておるのだと。村田の有能さや、人格高潔なところ、スケールの大きさなど、大久保は幕末のころから高く評価していたわけです。
このように大久保に買われた村田ですが、「吉之助サアの言い分も聞いて、考えてみたい」ので、薩摩に里帰りしてくると言って出かけてしまいます。気楽な里帰りのつもりでも、薩摩に入ったら新八は二度とでてこられない!大久保は無念さを噛み締めます。
佐賀から帰った八郎太(堤真一)は、海老原穆(草野大梧)の主催する集思社の門をたたきます。政府に率直な批判をくだす新聞社に、是非自分もくわわりたいと思った…というんですが、ここが千絵(有森也実)の実家とは知らなかった八郎太は、バッタリ再開してびっくり。千絵は、八郎太に疑いの目をむけます。政府の密偵をやっていた八郎太は、集思社にもスパイにはいったのではないかと。いや、そうではなくて、「僕はこの時代に自分をぶつけてみたい、僕は僕らしく、正直に生きていくつもりです」と、真剣に訴える八郎太に、千絵の心は簡単に氷解してしまいます。
大久保の読みはあたり、鹿児島に帰って西郷と再会した村田新八は、「このまま鹿児島にいて、吉之助サアと行動をともにする」と決めてしまいます。あたら将来を棒にふって…と止める西郷でしたが、村田は、「吉之助サアに手風琴を教えたか」と。口には出しませんが、本人の意志と関係なく西郷の存在が一人歩きし、不満士族の頭領に祭り上げられ、いつか破局が来ることを、明晰な村田は読んでしまったんですね。なので、西郷を守るためにも、もう側を離れることはできないと。この男気が、うわ~泣かせます~~。
村田を迎え、不満で一杯のおいどん連をまとめるためにも、西郷の肝煎りで鹿児島に「私学校」が開かれます。これは当然、当局には「鹿児島に反政府結社の動きあり」と取られてしまいます。
村田新八に続いて、ヨーロッパから帰ってきた大山巌(坂上忍)も鹿児島に里帰りします。外国の土産話で盛り上がるなか、巌は「吉之助サアも洋行されるがよか、目がひらけもす」とかいってしきりに奨めます。もちろん西郷は、洋行なんかとても…と冗談にして流すのですが、実は、そこには深刻な思いがありました。鹿児島を見た巌は、村田と同じように危険な暴力の匂いを感じ、ここに吉之助サアを置いてはいけない、と直感したんですね。
西郷家からの帰路、村田とふたりになった巌は、その危惧を率直に訴えます。村田は、こういう状況だから説得はあきらめて、私学校の二才に囲まれて身動きがとれなくなる前に東京に戻れとすすめます。が、巌は「説得できんときは、そんつもりごわした」と。
「村田サアじゃっで同じこっごわんそ。オイは、幕末の京都で働いたころは、いつでん六連発を懐に入れて吉之助サアと行動をともにしちょいもした。あん頃は、幸せごわした。オイは吉之助サアの側に残りもす」
うわー、またミイラとりがミイラに…。どんだけ西郷を愛しているか、っつうかほとんど呪縛になってしまうような、この西郷の影響力! ですが村田は「そいはならんど弥助どん!」と厳しく止めます。自分が最後まで吉之助サアの側にいるから、おはんは戻れ、と。西郷が鹿児島を去ったら、西郷教の信者が何をするかわからない、だから吉之助サアは離れられない、オイも離れられない…と。これもものすごい呪縛ですよねえ。「村田サア、こいが別れになりもんそかい…」って、辛いなあ。
東京に戻った弥助どんから、鹿児島は大久保憎しで結束していて、満寿が四面楚歌で大変だと聞いた大久保は、「そろそろ潮時」と、満寿を東京に呼び寄せることにします。ですがこれは、単に家族が一緒に暮らすというだけの話じゃなく、かなり複雑な感情をはらんでいるんですね。西郷は、「一蔵ドンはいよいよ腹を決めた。薩摩にはもうもどらん覚悟じゃ」と見抜きます。
そして、東京に引っ越す満寿は「なんか追い出されるようで…」と、ものすごく複雑。そして、「わたしは大久保家の嫁でございもす。大久保家の墓を守れないのが何より辛か」と、また鹿児島に帰る日までと、いとに墓守を頼んでいくのですが、どうですどうです!大河ドラマの主人公の妻とは、かくあるべきですよ。亭主のお株を奪い、日本史を裏から操るような存在じゃない。家を守る誇りを静かに持ち、日のあたらない台所で凛として気概を磨く。これぞ日本の婦道です。
こうして、夫達にまけないくらい「戦友」であった満寿といとは、東京と鹿児島に別れていくのですが、夫達と同じように、これが最後の別れになろうとは…。
(つづきます)