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como siempre 遊人庵的日常

見たもの聞いたもの、日常の道楽などなどについて、思いつくままつらつら書いていくblogです。

「太平記」を見る。その24

2012-10-18 23:31:57 | 往年の名作を見る夕べ
第47話 「将軍の敗北」

 ラスト3/1です。
直義(高嶋政伸)が決起し、しかも南朝の綸旨を得て官軍になったという知らせは尊氏(真田広之)を驚愕させます。とりあえず直冬(筒井道隆)追討は中止して「都に帰るぞ!」というのですが、師直(柄本明)はどや顔で、「だからあのときご舎弟を殺しておけば…」と言わんばかり、というか言います。
 直義の陣には、「高兄弟に不満を持つ」各地の武家が結集し、大軍を形成しています。それにしても当時の「各地の武家」って節操がないよね。ホイホイとあっちへついたり、こっちへついたり。まあ、それだけ権力基盤が脆弱で、あすはどうなるかわかんなかったのでしょうが。
法体なので金茶色の頭巾をかぶって出陣してきた直義。絶対の忠臣である桃井直常(高橋悦史)や、高兄弟に父を殺されて(例のクーデター未遂のとき)恨みに燃える上杉・畠山のジュニアなどを擁し、都をにらんで男山八幡に布陣します。

 都の防衛は義詮(片岡孝太郎)の責務なんですけど、周りが合戦支度で殺気立っている中、このパッパラ坊ちゃんは、ひとり平服で野良犬に餌をやって遊んでたりして、なんかかわいそうな子みたい。
 義詮もなんとか武装して、直義軍を迎え撃つ準備をするのですが、味方からどんどん寝返りが流出してしまい、何万もいた軍勢が気付けば二千くらいに…。対するは合計五万の軍での挟み撃ちです。
 腹心の仁木頼章・義長兄弟が、ここはいったん都を引き払い、摂津山崎まできている大殿と合流して雪辱を期しましょうとすすめ、「(パパの言いつけどおり)ぜったい都を動かない、守り抜く」と言ってた義詮も、「しかたあるまい」と折れて、輿に乗って(ここが情けない)すたこら都落ちします。
 この体たらくを尊氏は、さすがに責めるかと思ったら、山崎で義詮と合流すると、「無益な戦をせず戦略的に都をあけわたすとは上出来じゃ」とか言ってべた褒めするんですね。
 ところが、「上皇様と帝は御無事にお移りいただいたでありましょうな」と師直に言われた義詮の顏が、さっと青ざめます。忘れて、都に放置してきちゃったんですね。鎌倉育ちの義詮の頭には、院と帝って存在自体がインプットされてなかったらしく。
 これにはさすがに尊氏も、特大の雷を落とします。「都の守りをまかせたは朝廷の守りを任せたることぞ。なんたる愚か者よ!!」。南朝の帝をかついだ直義が、北朝の帝と通じてしまったら、尊氏は一転して逆賊になってしまいますからね。大変な事態です。

 この泥沼の骨肉の争いを、賀名生の仮御所から高みの見物してるのが、北畠親房(近藤正臣)と阿野廉子(原田美枝子)。兄弟の潰しあいは、こじれればこじれるほど傷が深くなり、見てても面白いと、親房卿は心底嬉しそうです。
 また近藤さんがすごい悪相なんだよね。なんか人間性の一部が崩壊したみたいな。当時はまだ40代だったので特殊メイクでしょうが、眉なしの化粧顔のシワといい、老人班といい、往年の二枚目のなごりもなく、妖怪じみた公家の陰謀家を嬉々として演じる凄みったらないです。
 で、この人たちは基本、直義を応援してるんだけど、それは「直義が勝てば世はおさまるどころではありません、さらに乱れます」と。直義には人望が無いので、尊氏を殺したらさらに足利家が分裂し、戦いは泥沼化する。それが望ましい。「そのときこそ我らが当今とともに都に戻るとき…」、しばらくそれをのんびり見物しましょう、と、陰惨にほくそ笑む親房卿。

 帝を押さえられた尊氏は必死に反撃。いよいよ実弟と、戦場で対峙することになります。
尊氏の正規軍のほうが数は優勢にも関わらず、勢いにます直義軍は(あの戦ヘタレの直義とは思えないね)、圧倒的な勢いで尊氏の軍を蹴散らしてしまい、寝返りも続出。気づけば将軍の正規軍は千騎程度になってしまってました。この時代の戦ってそんなんばっかりだねえ。ついでに合戦映像も過去の使い回しで、根津甚八とか武田鉄矢がどっかに映り込んでないか(笑)。
 退却した尊氏は、完敗を悟ります。そして師直に「一緒に死ぬか…?」(!!)と、心中を持ちかけるのですね。それも本気で。とんでもないこと、ご舎弟殿は師直の首を差し出せといっているのだから、この首を差し出してくれという師直に、尊氏は「わしは出さぬぞ」と。
「いま戦場で血で血をあらう殺し合いをいたしておるのは、昔なじみの身内ばかりぞ。まことの敵は、味方の中にあったのじゃ。こんな世を誰が望んだ。わしの目指した美しい世は、美しい世とは、いったい何だったのじゃ」
 そしてヤケ気味に大の字にひっくりかえった尊氏は、「師直、そなたわしを敵に回し、あわよくばと思うておったのう」と。「それもこれも、ここでともに果てれば意味がなくなるのう」
 そんなところに右馬介が、直義からの伝言を持ってきます。直義は、尊氏との和議に応じる。それには師直・師泰兄弟の身柄を差し出すことが条件だ、というのですね。
 首を要求しているのではないですが、身柄を出せば惨殺されるに決まっている。尊氏はきっぱりと拒否します。「われらと師直兄弟は、親にもまさり子にも劣らぬ深き仲。両名をとりあげての和議はありえん」と。
 尊氏の言葉を聞くうちに、師直の心が崩壊します。号泣し、「この師直、不遜にも大殿になり変わろうと思うたことがございました…」。そして自分の首に刃をあて、「それがし今にして、大殿のためならば命を捨てても尽くさんとの思いが、心に生まれたように思います。どうぞこの首ぞんぶんにお使いくださいませ」
 ですが、尊氏はしずかに、こう言うのですね。「のう師直…。ともにしばし、生きてみぬか。命を捨つる気なら、それもできよう」と。
 家臣たる師直と一緒に運を天に任せる、という尊氏の態度に、師直は、人格が根本から変わるような衝撃を受けます。

 結局、足利兄弟の和議は成立し、高兄弟はその場で出家の身となることで、身柄引き渡し要求は取り下げられました。
 戦を終えた尊氏は都に帰還。その行列のなかに、墨染めの衣に身を包んだ高兄弟もいました。「情けない…神も仏も信じたことがないのに」とぼやく高・兄に対し、師直は、すがすがしい笑顔で「それがしは信じることにいたした…」。神でも仏でもない、「もっと、たしかなものをじゃ」と。
 そのうち、尊氏軍に合流する各地の武家が増えて(ほんと節操がないね)、行列が長くなり、師直兄弟は、尊氏から離れてしまいます。やがて直義軍の武将が、「おい、そこな遁世者」と兄弟に声をかけるのですが、これが、仇討の機会を狙っていた上杉のジュニアだったんですね。
 高兄弟の必死の抵抗にもかかわらず、仇討に逸ったジュニアは、丸腰の出家姿の兄弟を、その場でメッタ斬りにしてしまいます。
 行列の先頭で、ふいに虫の知らせを感じた尊氏は、素早く馬首をめぐらし、行列の後尾に向かって駆けます。
 やがて嵐になり、豪雨のなか、尊氏は、藪の中で血が筋を引いて流れているのを見けます。見ると出家姿の師直の死体が、水たまりを赤く染めて雨に打たれている。駆けつけて亡骸を抱きしめて、師直~師直~~、とかやんないで、すごい虚ろな顔で、馬上から、じっと声もなく見つめる尊氏…。
 いやもう、これはほんと、残酷ですよね。師直の死の無残さと、尊氏とふたり歩んできた道の果てにあった虚無…。なんともいいようのないシーンです。

第48話「果てしなき戦い」

 ラスト3/2。プレ最終回です。
 師直をうしない、敗軍の将としてガックリと打ちひしがれて都に帰ってきた尊氏ですが…ここは、この足利尊氏という人の不思議というか、面白いところで、負けてもぜんぜんめげないんだよね。なんだろうねこの人は。
 勝者である弟の直義に呼びつけられた尊氏は、ぜんぜん低姿勢じゃないどころか圧勝したかのような尊大な態度で、直義たちの上座に座ります。尊氏が来る直前まで、さぞ尾羽打ち枯らして惨めな姿でくるだろう、みたいに噂して意地悪に笑ってた直義の腹心たちも、尊氏の超でかい態度に圧倒され、おもわずひれ伏してしまいます。この勢いで尊氏は、「恩賞はまずわしについて闘った佐々木、仁木らの大名たち、そのあとその方らにくれてやる」みたいなことを言い放ちます。
 そんなことがあるものか、勝ったのはこっちですぞ、といきり立つ直義に対し、尊氏は、「直義、そのほう誰と戦うたのじゃ」と突っ込みます。直義は、実質兄の尊氏と戦ったとしても建前上「…高師直です」というしかないのですね。つまり、尊氏はこの戦の敗軍の将ではない。そして論功行賞の権利は将軍がもっているので、それを好きに行使できるわけです。
 もちろん懲罰も。尊氏は、直義の腹心である石塔頼房を名指しし、「わしの命に背いて師直殺害を直義にそそのかしたその方は許さぬ。疾く出ていけ」と命じ、「さらに師直を殺した上杉能憲は断じて許さぬ。死罪に処する」。もう直義も黙っていられず、怒りにかられて立ち上がるのですが、尊氏はしゃあしゃあと、「直義、そなたもわしに背いて勝手に戦をした咎人なれど、弟なれば是非もない、意見くらい聞いてやる」。
 すごいすごい。こんな高飛車な敗軍の将がいるだろうか。ってか、敗れたことをなかったことにしてしまう将軍オーラに、おもわず巻き込まれてしまう直義のなかまたち…。
 これではどっちが勝ったかわからんではないかっっ!!と激怒するのが、桃井直常です。論功行賞が、イヤミみたいに尊氏がわの諸将に手厚く、直義がわはおこぼれで、そのうえ上杉ジュニアは死罪などと。こんなことがあるか、突っ返してこい!!と、細川顕氏と斉藤利康をどなりつけ、尊氏のところに使いに出します。
 しかたなく出かけた細川・斉藤コンビに、尊氏邸の侍女が「将軍は薪を割っていらっしゃいます」と。べつにいいようなもんですが、この名もなきチョイ役の侍女が常盤貴子なので、特筆しときます。人に歴史ありだなあ(笑)。
 尊氏は、ホントに斧をふるってマキ割りをやっており、ふたりの若者がくると、「いいところへ。手伝ってくれ」と斧を手渡します。将軍といっしょに肉体労働に汗をながし、あとでビールを(うそ。お水)おごってもらって、メシでも食っていけ、とかいわれて「押忍!」と、すっかり部活後の運動部状態。そこへ「お前ら桃井刑部に怒鳴られて来たな」と。直義もこまったもんだ、桃井あたりに仕切られて、戦に負けたオレを追い出す器量もなくてな、ほんとに正しいと思うならオレを切って捨てればいいんだけどよ、とか言って若いモンふたりの方をポンと叩く。
 オヤジ!かっけえっっ!!…と、若いふたりはもうイチコロ。すごいわあ。長年の戦や駆け引きでいつのまにか身に着けた人心掌握テクですね。

 すっかり尊氏ファンになった細川・斉藤は、直義から離れて、露骨に尊氏にすり寄り始めます。これでは直義が面白くないわけです。桃井にも「殿が弱腰だからかかる裏切者をだすのです」と責められますし。
 イライラした直義は、師直一族の残党とか、尊氏派に寝返った者とかを、これ見よがしに弾圧しはじめます。どんどん人が処刑されたり、家が焼かれたりします(家が焼かれる場面は、とことん使いまわす同じ建物の炎上映像だ 笑)。斉藤利康も刺客に襲われて殺されてしまい、ほとんど尊氏派への徴発みたいなんですね。
 しかも、ひところの仕返しみたいに義詮を政治から干してしまいます。直冬(筒井道隆)を鎮西探題に任じて、いずれ都へ呼び戻して自分のあとをつがせるのではないか、そうなったら完全に直義に幕府が乗っ取られる…と、いらだつ登子(沢口靖子)と義詮。尊氏に御灸をしながら、登子はそのことをグチグチグチグチ…と突っ込むのですが、尊氏は「このごろ登子の灸はあつい」とかいって、彼女が可愛いお嫁さんから毒妻に変貌したのを当てこすったりします。

 まあ、一度義詮も直義も同席して一同に会し、なごやかに話でもする機会があればいいよ…と、公家の勧修寺経顕主催の猿楽を見る宴に、尊氏は関係者一同をあつめます。幕府の分裂がおさまったと世間に誇示する目的もあったのですね。
 といってもこの雰囲気が最初から殺伐としてて。ホストの勧修寺卿が、世はおさまり、幕府も安泰、幕府も安泰なら朝廷も安泰でめでたいめでたい、とか言って座持ちをするのに、道誉が「さよう、斉藤利康どのが闇討ちされても幕府はびくともせん」「世情のうわさでは利康殿は桃井殿が…」と茶々をいれ、一気に空気が険悪に。
 そして尊氏を真ん中にはさんで直義・桃井と、義詮・道誉が、タッグを組んで、唾を飛ばして罵り合う修羅場になります。「いいかげんにしろ」と叱られた義詮は、「義詮は我慢がなりませぬ」「では帰れ」と、追い出されてしまいます。
道誉もそれに続いてイヤミたっぷり席を立ち、桃井が、そうじゃそうじゃ皆帰れ、と調子にのるところへ、「刑部、誰にむかってその口を利く。斉藤利康を殺した血で手が汚れておるぞ。手を洗わないものは帰れ」といって、桃井も帰らせてしまい、「栄達しかあたまにない男」と桃井を非難された直義も憤然と帰ってしまって、気の毒なのはホストの勧修寺卿ですが、とっくにこの空気に耐えられず、主人なのに帰ってしまいます。
で、ぽつねんと一人になった尊氏。その前に、進み出た男女の芸人がいました。「花夜叉どのか…舞を見てもしやと思ったが」。
 ひさびさ登場の花夜叉(樋口可南子)は、ひとりむすこの清次(=のちの観阿弥)を連れていました。「楠木正成殿の甥ごが…」と、親子ともに芸の道に精進する姿に、すがすがしい感動を覚える尊氏。
兄上(正成)は、花夜叉どのをうらやましいと思われたのであろう。世の流れにも、いくさの勝った負けたにも、無縁なのじゃ。舞を舞ってその道を子に伝え、子がその道をきわめていく。戦のようにそれをさえぎることはできぬのじゃ」
「親子兄弟が仲良う暮らし、親が子になにかを伝えていく。みながこのように生きていけたら、どれほどよかろう。それが美しい世というものじゃ。この尊氏はその夜を見んとして、いまだにたどり着けずにおる。戦うても戦うても、うつくしい世はみえぬ。ふりかえれば幾万もの屍が累々と連のうておる。それがしも、花夜叉どのがうらやましい」

 花夜叉は、なにを仰せられます、わが子の行く末は足利さまがおつくりになる世にかかっております、よい世であればこそ舞を伝えることもできるのです、清次の舞を美しく大成させるのはおん殿です、と、尊氏をやさしく励まします。思えばこういう真摯な励まし方をしてくれた人は、もうほんとに花夜叉しかいなくなっちゃった…。

 現実をみればうつくしい世どころではなく、九州で直冬がいよいよ反乱の決起。怒りが高じて義詮が桃井直常を襲撃したことで、直義派とも全面戦争。そして、信濃でも直義派と尊氏派の代理戦争がはじまり、内戦は全国で同時多発的に発生。尊氏の苦悩はつづく…ってもう最終回ですけどーーっ!! いやあ、最後まで濃いドラマだなあもう(笑)。


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