第3話 「風雲児」
風雲児…って誰のことを指すのかかよくわかんないサブタイですが、この回はとても面白いです。
わたし、序盤第3話は大河ドラマの面白さを決定する、と常々思っていましたが、これはその大事な第3話のお手本のような出来。感服しました。
ここでは、後醍醐天皇のクーデター未遂「正中の変」への流れが描かれるんだけど、けっこうややこしいし、時代的にも「暗黒」と言われるくらい込み入った時代背景なんですよね、そこへ視聴者をポーンと放り込む、ドラマの勢いや、説明の手際のよさはみごとです。こういうのは昨今の大河ドラマにも見習ってほしい。
京都にはいった高氏(真田広之)は、ママの実家の上杉家に厄介になりますが、もう最初からハイテンションでおのぼりさん丸出し。ウロウロしてたら右馬之介(大地康雄)とはぐれます。
せっかくひとりになったので、高氏は、例の山伏がくれたメモの住所をたずねることに。そこは「醍醐寺」というお寺で、足を踏み入れてみると、それはそれは雅な…この世のものとも思われぬふぜいの貴人が、優雅に和歌を詠んでおりました。
文願(麿赤児)、所望の歌じゃ…と、扇にサラサラと書いて飛ばしたその和歌を、思わずキャッチしてしまった高氏は、取り巻きの者に、何者ぞ!と厳しく誰何されます。が、そこにまた、優雅な貴公子が雅に現れて、「小野僧正殿、その者、この俊基の供にて候えば心安き者にて…」と、エレガントな文語体で庇ってくれます。
これが、山伏姿とはうってかわった日野俊基(榎木孝明)。明かされたその身分もですが、歌を詠んでいた貴人が、後醍醐帝(片岡孝夫)その人ときいて高氏は驚愕します。
後醍醐帝は、雰囲気がとても柔和で、すごく温かい魅力的な人に見えるんですね。セリフ(まだ)ひとことも無いんですが、高氏が強く惹かれたのもわかります。その、英明ただならぬという帝が、醍醐寺に、ときおり心安い仲間を集めている。そして「詮無き話をしている」と。
「戯れと思われても良い。されどわれらはその詮無き話に命を懸けている。我らは鎌倉殿を、討ちたいのです」
そして俊基は、「足利殿が動けば、幕府に反旗を翻す武士がすべて動くのです」高氏にとっては寝耳に水の話をします。山伏姿で諸国をめぐり、同志を募る活動の間に各所でそう言われた、特にクーデターの要と見込んだ河内の楠木正成に強く言われた、と。そ、そんなこと言われても…とうろたえる高氏に、ぜひとも楠木殿を紹介したいと、俊基は高氏を淀の津へ連れ出します。
そこで目にしたのが、庶民の商業地を強引に支配しようとする六波羅の役人と、息のかかった高利貸し、それにパワフルに抵抗する庶民の姿。その庶民を代表しているのが、正成の弟・楠木正季(赤井秀和)でした。
正季は俊基に、「京は六波羅の素破がウヨウヨしている。お気を付けなさい」と大阪弁で(笑)忠告して去っていきます。そのとき、俊基には逮捕状が出て、捕り方に狙われていたんですね。
こっそり高氏を助けにきた右馬之介にそう聞かされた高氏は、発作的に、捕り方に囲まれた俊基を引っさらって馬で逃亡します。
俊基がそのまま高氏と駆け込んだ、京の町中にある風流なお屋敷。そこは、近江の守護・佐々木道誉(陣内孝則)の京屋敷なんですね。この回はいろんな人が登場しますが、さばき方が上手なので、散漫な感じは全然しません。
ばさら大名・佐々木道誉は、すごい奇抜な派手な着物を着て、背丈くらいある花で前衛的な立花をやっています。これがまた、登場からめちゃめちゃカッコいい。立ち姿がサマになり、異様なハイテンションで目がイッちゃってるとことかも含めて、圧倒的にカッコいいのです。
この道誉が生け花の講釈からはじまって、すごい長セリフで、今の鎌倉幕府はもう長くない、世の中は動き始めた、腐った大樹にしがみついているときではない…みたいな、幕府転覆の企てと世の流れについて、一気呵成に説明してくれます。
あまりのアバンギャルドさに気をのまれて、一言も出ない高氏…なんですが、このドラマの序盤の上手いところは、高氏を無色透明の青年に設定して、くせのない感性のフィルターを通して歴史背景を手際よく説明するところなんですよね。見ているほうとしては、すうっとその時代の世界に入って行かれます。こういうのは大河ドラマの技法のひとつだと思うし、見直されていいと思うなあ。特にいまは…。
佐々木道誉に圧倒されるまま、酒宴に座らされた高氏は、そこで、あの旅の途中に会った花夜叉(樋口可南子)一座に再会。美少女白拍子・藤夜叉(宮沢りえ)と出会います。
藤夜叉の可愛さにクラクラっと来た高氏は、そのまま酒を飲みすごし、気が付けば、なぜかりえちゃんの膝枕で寝ていて。そしてそのまま一夜の過ち、童貞喪失…。
っという次第は、夢うつつのようなフィルターをかけつつもけっこうネットリみせてくれて(笑)。
道誉のシュールな宴会から一夜あけ…高氏が目を覚ますと、誰もいない。全員消え失せています。なにがあったのか全然わかんない高氏が、人の気配に外をみると、なんと、武装した六波羅の機動隊が道を埋め尽くしており、これが
「世に言う正中の変のはじまりである」
…と。
いやほんとに巧いと思いますね。ここまでテンポよく、歴史の事件に視聴者を引き込んでいくのが。このへんの歴史に詳しくなくても、よく知らなくても、次を見なくちゃいられなくなるじゃないですか。
第4話 「帝、ご謀叛」
時代背景のさばき方の上手さっていうのは、結局のところ、時代を背景にしない(って矛盾した言い方ですが)ことだと思います。
すぐれた大河ドラマってそうだとおもうんですが、序盤、まだ若き主人公が、ポーンと時代の事件に投げ込まれて、その中で翻弄されるわけですよね。それで、主人公の紹介込みで時代事情を説明していくんですけど、ここは直球のスピード命、だと思います。序盤数回で一気にトップギアへ持っていく勢いは、1年にわたるドラマをけん引するのにとても大事ですよ。
思うに、ここ4年の駄作続きの大河ドラマは、この序盤で、いらんエピソードを連ねて主人公の人となりを説明(おもにヨイショ)したり、どうでもいいご家庭ドラマとか友情ドラマで手間を食って失速してるんですよね。二流の脚本家の作家性など二の次のことで、序盤はとくに、こういう「太平記」のような職人技的脚本を見習ってほしいです。
で、若き高氏は、後醍醐帝のクーデター未遂である「正中の変」に巻き込まれます。佐々木判官の屋敷から朝帰りしてみると、都は大捕物で騒ぎになっており、京都各所で反六波羅の挙兵を企てた者たちが次々逮捕されています。
下宿先の上杉家へ戻ると、右馬之介が半泣きで待っていて、何をやってたんですか若殿。若殿にも六波羅探題から出頭命令が出ているんですよ!と。日野俊基と一緒にいるところをあちこちで目撃されていたんですね。
任意出頭を求められた高氏は、六波羅探題の取り調べでも、日野俊基なんて知らない、会ったことも名前を聞いたこともない、と言い張ります。六波羅探題が聞き出そうとしているのは、高氏の関与というよりも逃亡した俊基の行方であり、俊基が逃げおおせたらしいと知った高氏は、ひとまず安心です。
ですが、どうも、クーデター発覚の裏事情がきな臭い。京都の屋敷から一夜で消え失せた佐々木道誉と花夜叉一座は、近江の佐々木家の地元に戻っているのですけど、そこで花夜叉が、京都の某所に隠れている日野俊基に文を送ろうとしてます。道誉はそれを一笑し、「日野俊基はもはや詮無き者よ。目立ちすぎてしくじった。終わった男だ、文などよせよせ」と。
花夜叉は、「そういえば六波羅の動きの速さは解せないところがございます。判官様はもともと執権・北条高時様ご寵愛のお小姓、よもや…」と疑いを向けますが、道誉は笑って、それを肯定も否定もしません。うーん、こりゃ悪い男ですね。ミステリアスな黒い魅力。すてきすてき。
花夜叉から文を託されたましらの石(柳葉敏郎)が、俊基の潜伏先に急ぎます。俊基は、下々に身をやつして、糸紡ぎの真似をしながら潜伏してますが、そこにはもう捕方が迫っていて、花夜叉がすすめる逃亡をやんわりと拒否します。六波羅に見つかったら殺されるのですが、「私一人のことで済むならそれでよい。きっと後に続く人が、鎌倉をたおし、良い世の中にかえてくれる」と。
良い世の中ってどういうんですか、と尋ねる石に、「田を耕す者が家を焼かれぬ世の中。母御が子を残して殺されぬ世の中。糸を紡ぎたいものが紡げる世の中」…と。
これは、ありがちなユートピア発想にすぎる気もするんですけど…。でも、欲得抜きにそう信じている、と思わせるところが榎木さんのストイックな雰囲気に漂ってて、村を焼かれて親を殺された石が本気でグッとくるあたりとか、イイんですよね。
俊基は石に、手持ちの短剣をわたし、「河内の楠木正成殿に届けてください。これが日野俊基です、と」と言い残し、捕方に身を預けるのでした。
後醍醐帝の内裏では、クーデター発覚の件について、鎌倉に詫び状を送る送らない、で議論になっています。主に、日野俊基ひとりにおっかぶせて帝の安泰を図ろうというんだけど、公家さんたちも屈辱的に思っており、納得できないんですよね。
まして後醍醐帝は、自分の手足となって働いた俊基に罪をおっかぶせるなんて、とても自分に許せないんですけど、乳父の吉田定房に「いまの世には御上の叡慮をもってしてもかなわぬことがございます」と、やんわり、いまは抵抗しても鎌倉の武力で潰されることを示唆されるんですね。
こうして、鎌倉を打倒して天皇親政をめざす後醍醐帝のクーデターは、道半ばにいったん頓挫。六波羅探題の取り調べを受けていた高氏も、俊基の逮捕とともに放免になります。「もはや京に長居はご無用…」と暗に追放を示唆されながら。
で、娑婆にでたところで、逮捕された俊基が縄で縛られ、馬に乗せられて連行されるところに行き会うんですけど…。
ここで、当然ですが両者言葉を交わしたりしないわけですよね。表情もあまり動かしません。ニッコリうなずくとか、ウルウル涙を流すとか、わかり易い感情表出はありがちですが、そんなことしたら関係がバレますから。だから表情も変えないんだけど、目だけで会話する。何かを訴え、受け取るやりとりがハッキリ見えるのです。で、それが今後の展開に繋がっていくという。
しょうもない感情表出が多いドラマではできない、サイレント演出の極致です。
で、鎌倉に帰る途中の高氏。鎌倉に帰って、明日からまた同じように将軍御座所につとめ、執権や内管領のご機嫌を取って暮らすなんてできるのか。オレは京を見てしまったんだ。帝を拝してしまったんだ。もう、どうしたらいい…と思い悩んでます。
ところが悩んでいる場合じゃなく、鎌倉に入る一歩手前で、幕府の捕方が出迎えて、あっというまに御用。「詮議の筋これあり」ということで、逮捕となってしまいます。
これはどういうことか。お父様の貞氏さん(緒形拳)も、事件を知ってからいろいろ根回しに走って、高氏が罪に問われないようにしてたのに…。
実はこれ長崎円喜(フランキー堺)の胸ひとつだったんですね。執権・高時は、正中の一件で帝の廃位とか、ゴタゴタするのも面倒くさく、やりたくない。まして高氏なんて雑魚はホントどーでもいいんですけど、「面倒なことはすべてこの円喜におまかせくださってましたでしょ?」と囁かれ、足利は、鎌倉幕府が滅ぼしてきた謀叛人の残党ばらを匿って兵力にしているんですよ、そのことも抱合せて炙り出しましょう、などと讒言されて、なにも考えずその気になってしまいます。
ということで、逮捕された高氏と足利家の運命やいかに?…っと。ほんと上手いな、引きが。
風雲児…って誰のことを指すのかかよくわかんないサブタイですが、この回はとても面白いです。
わたし、序盤第3話は大河ドラマの面白さを決定する、と常々思っていましたが、これはその大事な第3話のお手本のような出来。感服しました。
ここでは、後醍醐天皇のクーデター未遂「正中の変」への流れが描かれるんだけど、けっこうややこしいし、時代的にも「暗黒」と言われるくらい込み入った時代背景なんですよね、そこへ視聴者をポーンと放り込む、ドラマの勢いや、説明の手際のよさはみごとです。こういうのは昨今の大河ドラマにも見習ってほしい。
京都にはいった高氏(真田広之)は、ママの実家の上杉家に厄介になりますが、もう最初からハイテンションでおのぼりさん丸出し。ウロウロしてたら右馬之介(大地康雄)とはぐれます。
せっかくひとりになったので、高氏は、例の山伏がくれたメモの住所をたずねることに。そこは「醍醐寺」というお寺で、足を踏み入れてみると、それはそれは雅な…この世のものとも思われぬふぜいの貴人が、優雅に和歌を詠んでおりました。
文願(麿赤児)、所望の歌じゃ…と、扇にサラサラと書いて飛ばしたその和歌を、思わずキャッチしてしまった高氏は、取り巻きの者に、何者ぞ!と厳しく誰何されます。が、そこにまた、優雅な貴公子が雅に現れて、「小野僧正殿、その者、この俊基の供にて候えば心安き者にて…」と、エレガントな文語体で庇ってくれます。
これが、山伏姿とはうってかわった日野俊基(榎木孝明)。明かされたその身分もですが、歌を詠んでいた貴人が、後醍醐帝(片岡孝夫)その人ときいて高氏は驚愕します。
後醍醐帝は、雰囲気がとても柔和で、すごく温かい魅力的な人に見えるんですね。セリフ(まだ)ひとことも無いんですが、高氏が強く惹かれたのもわかります。その、英明ただならぬという帝が、醍醐寺に、ときおり心安い仲間を集めている。そして「詮無き話をしている」と。
「戯れと思われても良い。されどわれらはその詮無き話に命を懸けている。我らは鎌倉殿を、討ちたいのです」
そして俊基は、「足利殿が動けば、幕府に反旗を翻す武士がすべて動くのです」高氏にとっては寝耳に水の話をします。山伏姿で諸国をめぐり、同志を募る活動の間に各所でそう言われた、特にクーデターの要と見込んだ河内の楠木正成に強く言われた、と。そ、そんなこと言われても…とうろたえる高氏に、ぜひとも楠木殿を紹介したいと、俊基は高氏を淀の津へ連れ出します。
そこで目にしたのが、庶民の商業地を強引に支配しようとする六波羅の役人と、息のかかった高利貸し、それにパワフルに抵抗する庶民の姿。その庶民を代表しているのが、正成の弟・楠木正季(赤井秀和)でした。
正季は俊基に、「京は六波羅の素破がウヨウヨしている。お気を付けなさい」と大阪弁で(笑)忠告して去っていきます。そのとき、俊基には逮捕状が出て、捕り方に狙われていたんですね。
こっそり高氏を助けにきた右馬之介にそう聞かされた高氏は、発作的に、捕り方に囲まれた俊基を引っさらって馬で逃亡します。
俊基がそのまま高氏と駆け込んだ、京の町中にある風流なお屋敷。そこは、近江の守護・佐々木道誉(陣内孝則)の京屋敷なんですね。この回はいろんな人が登場しますが、さばき方が上手なので、散漫な感じは全然しません。
ばさら大名・佐々木道誉は、すごい奇抜な派手な着物を着て、背丈くらいある花で前衛的な立花をやっています。これがまた、登場からめちゃめちゃカッコいい。立ち姿がサマになり、異様なハイテンションで目がイッちゃってるとことかも含めて、圧倒的にカッコいいのです。
この道誉が生け花の講釈からはじまって、すごい長セリフで、今の鎌倉幕府はもう長くない、世の中は動き始めた、腐った大樹にしがみついているときではない…みたいな、幕府転覆の企てと世の流れについて、一気呵成に説明してくれます。
あまりのアバンギャルドさに気をのまれて、一言も出ない高氏…なんですが、このドラマの序盤の上手いところは、高氏を無色透明の青年に設定して、くせのない感性のフィルターを通して歴史背景を手際よく説明するところなんですよね。見ているほうとしては、すうっとその時代の世界に入って行かれます。こういうのは大河ドラマの技法のひとつだと思うし、見直されていいと思うなあ。特にいまは…。
佐々木道誉に圧倒されるまま、酒宴に座らされた高氏は、そこで、あの旅の途中に会った花夜叉(樋口可南子)一座に再会。美少女白拍子・藤夜叉(宮沢りえ)と出会います。
藤夜叉の可愛さにクラクラっと来た高氏は、そのまま酒を飲みすごし、気が付けば、なぜかりえちゃんの膝枕で寝ていて。そしてそのまま一夜の過ち、童貞喪失…。
っという次第は、夢うつつのようなフィルターをかけつつもけっこうネットリみせてくれて(笑)。
道誉のシュールな宴会から一夜あけ…高氏が目を覚ますと、誰もいない。全員消え失せています。なにがあったのか全然わかんない高氏が、人の気配に外をみると、なんと、武装した六波羅の機動隊が道を埋め尽くしており、これが
「世に言う正中の変のはじまりである」
…と。
いやほんとに巧いと思いますね。ここまでテンポよく、歴史の事件に視聴者を引き込んでいくのが。このへんの歴史に詳しくなくても、よく知らなくても、次を見なくちゃいられなくなるじゃないですか。
第4話 「帝、ご謀叛」
時代背景のさばき方の上手さっていうのは、結局のところ、時代を背景にしない(って矛盾した言い方ですが)ことだと思います。
すぐれた大河ドラマってそうだとおもうんですが、序盤、まだ若き主人公が、ポーンと時代の事件に投げ込まれて、その中で翻弄されるわけですよね。それで、主人公の紹介込みで時代事情を説明していくんですけど、ここは直球のスピード命、だと思います。序盤数回で一気にトップギアへ持っていく勢いは、1年にわたるドラマをけん引するのにとても大事ですよ。
思うに、ここ4年の駄作続きの大河ドラマは、この序盤で、いらんエピソードを連ねて主人公の人となりを説明(おもにヨイショ)したり、どうでもいいご家庭ドラマとか友情ドラマで手間を食って失速してるんですよね。二流の脚本家の作家性など二の次のことで、序盤はとくに、こういう「太平記」のような職人技的脚本を見習ってほしいです。
で、若き高氏は、後醍醐帝のクーデター未遂である「正中の変」に巻き込まれます。佐々木判官の屋敷から朝帰りしてみると、都は大捕物で騒ぎになっており、京都各所で反六波羅の挙兵を企てた者たちが次々逮捕されています。
下宿先の上杉家へ戻ると、右馬之介が半泣きで待っていて、何をやってたんですか若殿。若殿にも六波羅探題から出頭命令が出ているんですよ!と。日野俊基と一緒にいるところをあちこちで目撃されていたんですね。
任意出頭を求められた高氏は、六波羅探題の取り調べでも、日野俊基なんて知らない、会ったことも名前を聞いたこともない、と言い張ります。六波羅探題が聞き出そうとしているのは、高氏の関与というよりも逃亡した俊基の行方であり、俊基が逃げおおせたらしいと知った高氏は、ひとまず安心です。
ですが、どうも、クーデター発覚の裏事情がきな臭い。京都の屋敷から一夜で消え失せた佐々木道誉と花夜叉一座は、近江の佐々木家の地元に戻っているのですけど、そこで花夜叉が、京都の某所に隠れている日野俊基に文を送ろうとしてます。道誉はそれを一笑し、「日野俊基はもはや詮無き者よ。目立ちすぎてしくじった。終わった男だ、文などよせよせ」と。
花夜叉は、「そういえば六波羅の動きの速さは解せないところがございます。判官様はもともと執権・北条高時様ご寵愛のお小姓、よもや…」と疑いを向けますが、道誉は笑って、それを肯定も否定もしません。うーん、こりゃ悪い男ですね。ミステリアスな黒い魅力。すてきすてき。
花夜叉から文を託されたましらの石(柳葉敏郎)が、俊基の潜伏先に急ぎます。俊基は、下々に身をやつして、糸紡ぎの真似をしながら潜伏してますが、そこにはもう捕方が迫っていて、花夜叉がすすめる逃亡をやんわりと拒否します。六波羅に見つかったら殺されるのですが、「私一人のことで済むならそれでよい。きっと後に続く人が、鎌倉をたおし、良い世の中にかえてくれる」と。
良い世の中ってどういうんですか、と尋ねる石に、「田を耕す者が家を焼かれぬ世の中。母御が子を残して殺されぬ世の中。糸を紡ぎたいものが紡げる世の中」…と。
これは、ありがちなユートピア発想にすぎる気もするんですけど…。でも、欲得抜きにそう信じている、と思わせるところが榎木さんのストイックな雰囲気に漂ってて、村を焼かれて親を殺された石が本気でグッとくるあたりとか、イイんですよね。
俊基は石に、手持ちの短剣をわたし、「河内の楠木正成殿に届けてください。これが日野俊基です、と」と言い残し、捕方に身を預けるのでした。
後醍醐帝の内裏では、クーデター発覚の件について、鎌倉に詫び状を送る送らない、で議論になっています。主に、日野俊基ひとりにおっかぶせて帝の安泰を図ろうというんだけど、公家さんたちも屈辱的に思っており、納得できないんですよね。
まして後醍醐帝は、自分の手足となって働いた俊基に罪をおっかぶせるなんて、とても自分に許せないんですけど、乳父の吉田定房に「いまの世には御上の叡慮をもってしてもかなわぬことがございます」と、やんわり、いまは抵抗しても鎌倉の武力で潰されることを示唆されるんですね。
こうして、鎌倉を打倒して天皇親政をめざす後醍醐帝のクーデターは、道半ばにいったん頓挫。六波羅探題の取り調べを受けていた高氏も、俊基の逮捕とともに放免になります。「もはや京に長居はご無用…」と暗に追放を示唆されながら。
で、娑婆にでたところで、逮捕された俊基が縄で縛られ、馬に乗せられて連行されるところに行き会うんですけど…。
ここで、当然ですが両者言葉を交わしたりしないわけですよね。表情もあまり動かしません。ニッコリうなずくとか、ウルウル涙を流すとか、わかり易い感情表出はありがちですが、そんなことしたら関係がバレますから。だから表情も変えないんだけど、目だけで会話する。何かを訴え、受け取るやりとりがハッキリ見えるのです。で、それが今後の展開に繋がっていくという。
しょうもない感情表出が多いドラマではできない、サイレント演出の極致です。
で、鎌倉に帰る途中の高氏。鎌倉に帰って、明日からまた同じように将軍御座所につとめ、執権や内管領のご機嫌を取って暮らすなんてできるのか。オレは京を見てしまったんだ。帝を拝してしまったんだ。もう、どうしたらいい…と思い悩んでます。
ところが悩んでいる場合じゃなく、鎌倉に入る一歩手前で、幕府の捕方が出迎えて、あっというまに御用。「詮議の筋これあり」ということで、逮捕となってしまいます。
これはどういうことか。お父様の貞氏さん(緒形拳)も、事件を知ってからいろいろ根回しに走って、高氏が罪に問われないようにしてたのに…。
実はこれ長崎円喜(フランキー堺)の胸ひとつだったんですね。執権・高時は、正中の一件で帝の廃位とか、ゴタゴタするのも面倒くさく、やりたくない。まして高氏なんて雑魚はホントどーでもいいんですけど、「面倒なことはすべてこの円喜におまかせくださってましたでしょ?」と囁かれ、足利は、鎌倉幕府が滅ぼしてきた謀叛人の残党ばらを匿って兵力にしているんですよ、そのことも抱合せて炙り出しましょう、などと讒言されて、なにも考えずその気になってしまいます。
ということで、逮捕された高氏と足利家の運命やいかに?…っと。ほんと上手いな、引きが。