スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

アイスランド語

2008-07-06 08:34:53 | Yoshiの生活 (mitt liv)

眼前に迫る氷河、と不毛な荒野


アイスランドはスウェーデン・ノルウェー・デンマークと同じく、バイキング達が作った国だ。だから、アイスランド語の系統もゲルマン語系・北欧語系で他の3カ国の言葉と共通のはず・・・!?

いや、確かにこれらの言語の先祖は共通なのだろうが、現在使われている言葉を見る限り、共通性がなかなか見出せないのだ。アイスランドを除く他の3国は中世から近代にかけて大陸ヨーロッパ諸国からの影響が様々な形で入ってきたために、本来の古北欧語から多かれ少なかれ変化を遂げてきたようだ。例えばスウェーデン語には、ハンザ同盟の影響でドイツ語の語彙がたくさん入って来たし、19世紀初めには王室(ベルナドッテ朝)の関係でフランス語の語彙がたくさんスウェーデン語に取り入れられた。(ベルナドッテはもともとナポレオン軍の将軍であり、スウェーデンに迎え入れられた)そして、今では英語の語彙がたくさんスウェーデン語に入ってきている。

では、アイスランド語はどうだったかというと、ヨーロッパ大陸からかなり離れていたために、他国の言語の影響をほとんど受けてこなかったらしい。そのため、13世紀ごろまでにまとめられたというバイキング時代の様々な英雄の物語をまとめた伝説は、現在のアイスランド語の知識でもほとんど読めるという。だから、古北欧語の研究者にとって、現在のアイスランド語は、バイキングの時代の言葉が「冷凍保存」された形でほぼそのままの原型を留めたものだと言っても過言ではないという。

実際、アイスランド語を聞いていても、スウェーデン語とあまり似ていないし、全然聞き取れない。それもそのはず。一つ一つのボキャブラリーを取ってみても、ごく基本的な語彙を除き、スウェーデン語とはかなりかけ離れているようなのだ。ニューヨークのJFK空港でアイスランド行きの搭乗を待っているときに聞いたアナウンスは、てっきりスペイン語だと思っていたが実はアイスランド語だった。

他の言語の影響をあまり受けなかったアイスランド語。しかし、産業革命以降、新しい言葉や概念が英語圏を中心に次々と生まれ、世界中の主要な言語の多くはそれらを取り込んできた。(「テレビ」「コンピュータ」「インターネット」など) だから、アイスランド語もグローバルな社会発展の中で英語の影響を受けずにはいられないのでは!? と思われるかもしれない。

しかし、さすがに古い昔の言語を維持し得たアイスランドであるだけに、外来語をそのまま取り入れるようなことはしたくないようだ。だから、新しい語彙が外国から入ってくると、アイスランドの「言語委員会」がアイスランド語の本来の語彙を頼りに、独自の単語を発明するのだという。

例えば、警察(police)は、lögreglaと呼ぶのらしい。lögは「法」、reglaは「統治・規則」の意だから、直訳すれば「法を管理する者」という意味になる。スウェーデン語はpolis、デンマーク語・ノルウェー語はpolitiだから、英語をほぼそのまま輸入しているので分かりやすいのに・・・。

コンピューターは、tövla。これは「tala」(数字・計算する)と「völta」(オラクル・預言者)の造語だという。つまり「数字を操るオラクル」ということになる。ファンタジー溢れる発想だ。

電話は、sími。直訳すれば、電線とかケーブル、とかと言った意味。携帯電話は、farsímifar「携行する」というという意味らしい。「mobil(e)」や「モバイル」などといった言葉が世界的に使われる中でかなり珍しいと思う。

ヘリコプターは、þyrla。意味は聞いたけど忘れた。ちなみに「þ」は「p」ではなく「th」の音。

自動車は、bifreið。直訳は「動く物」。ただし、スウェーデン語の「bil」に似た「bíll」という単語もよく使われるらしい。ちなみに「ð」「dh」の音。

ここからが笑える! 音楽グループの「Spice girls」は、英語のままで呼ぶ人がある一方で、それぞれの単語をそのままアイスランド語に訳して呼ぶ人もいるらしい。つまり「kryddpíurnar」。kryddは「香辛料・胡椒」でpíurnarは「少女」の複数形。

男性歌手の「Justin Timberlake」も、「Just in timberlake」と解して「Bara í Vattnaskógi」と呼ぶ人もいるらしいから、おかしい。


スウェーデン語はむしろこの逆で、英語がどんどんスウェーデン語に取り入れられているし、若い世代も英語の単語やフレーズをわざと会話の中に交えるのが「ナウい」と思っている。だから、私の友人でも会話やチャットの中でいきなり「najs!」(nice!)なんて言う人がいるし、英語のcoolをスウェーデン語的に語尾変化して「Det är coolt!」(It’s cool!)と言ったりもする。さらには、スウェーデン語の会話の途中に「That’s life!」(人生にはそういうこともあるさ!)と言ってみたり。これには私も顔をしかめてしまう・・・。

だから、人口30万人のアイスランドで、いつまで「アイスランド語」らしさを保つことができるのか、興味深いところだ。

後記:
そういえば、クロアチア語でも外来語を極力避けて独自の語彙を作ろうとしていたのを思い出す。例えば、「大学」はsveučilišteと呼んでみたり、「ヘリコプター」を全く別の言葉で呼んだりしていた。ただ、こちらのほうは、もともと外来語も使っていたのに、ユーゴスラヴィア崩壊以降の内戦を経る中で、他のユーゴ諸国とは違う「クロアチア」らしさを無理やりに作り出そうとするナショナリズム的な色合いも濃かったように思う。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
言語 (alexmom)
2008-07-13 01:12:36
私が、初めて生のスウェーデン語を聞いた時、「フランス語っぽい音できれい♪」というのが第一印象でした。
文字で見るとドイツ語っぽいんですけどね…。

アイスランド語は一度も聞いた事ないです。
アイルランド語(ゲーリック)とも違うんですよね、きっと。(国の名前が似てるだけで、文化とか全く違うでしょうし…。)

ところで、アイスランド語のtövlaの"ö"は、スウェーデン語の"ö"と同じ音ですか?
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Unknown (Yoshi)
2008-07-15 08:25:58
>アイルランド語(ゲーリック)とも違うんですよね、きっと。

実は、バイキングが移住する前は、アイルランド出身のキリスト教僧侶が静かな地を求めて移住し、細々と生活をしていたそうですよ。ただし、すぐに途絶えてしまい、その後にバイキングたちがやってきたそうです。

なので、まんざら間違いではなかったり。

ただし、言葉の面では、アイスランド語はやはり古北欧語系で、アイルランド語とはほとんど関係がないのではないかと思います。

"ö"はスウェーデン語と同じだと思いますよ。少なくとも私の耳にはそう聞こえました。
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