スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

国政選挙を1年後に控えて

2013-09-11 09:24:18 | スウェーデン・その他の政治
来年9月に国政・地方同時選挙がやって来る。政策議論は各政党が普段から展開しているので、選挙前に公約・マニフェストが深い議論もなくにわかに発表される日本の選挙とは異なる。政策議論が次第に激しさを増していき、本格的な選挙キャンペーンが早くもスタートするのが、選挙までの1年間である。

スウェーデンは6月半ばから次第に夏休みに入り、7月中は国中がバカンスとなる。政界も7月初めのゴットランド島での政治ウィーク「Almedalen」を除けば全く静かであり、8月に入ってから再び通常営業に戻る。

そんな8月に恒例となっているのは、各党の党首による「夏の演説」。それぞれの党が8月中旬から下旬にかけての1日を選び、メディアを集めて演説を行う。スウェーデンの気候から言えば8月は晩夏か初秋なので「夏」というイメージは必ずしも当てはまらないが、いずれにせよ、9月に入ってから開会されるスウェーデン議会での政策議論に向けた、各党の所信表明演説という役割を持っている。特に今回は国政選挙を1年後に控えていることもあり、各党は公約に盛り込みたい政策・改革案をここで発表して、世論の注目を集め、メディアを通じた議論を起こそうとしたりもする。

注目が集まったのは、当然ながら与党第一党である穏健党(保守党)の党首であり、首相でもあるラインフェルトの演説。


彼を中心とした連立政権も任期2期目の後半に入り、政権交代時に感じられた改革の意気込みも、目新しさもほとんど感じられなくなってしまった。だから、選挙を前に、この社会のこれからについてのビジョンと、新たな改革への意気込みを示してくれることが期待された。

しかし、全くつまらない演説だった。それはなにも、その日は天気が悪く、重い雲が空にどっしりと垂れ込めていたことだけが理由ではなかった。

演説の焦点は「160億クローナの減税」だった。しかも、その減税の大部分は政権交代直後から導入してきた勤労所得税額控除(jobbskatteavdrag)の拡大に過ぎず、多くの有権者にとってもう飽きるぐらい聞いたであろう減税政策だった。

・第5次 勤労所得税額控除(jobbskatteavdrag)(120億クローナ)
・高齢者を対象とした減税(11.5億クローナ)
・所得税のうち国税分の課税対象となる最低所得額の引き上げ(30億クローナ)

確かに、勤労所得税額控除は一番最初の導入時には意味があったと私は思う。もともと凸凹だった所得税の限界税率が綺麗に階段状にならされ、低所得階層の限界税率がそれなりに低くなった。しかし、それをその後、ただ拡大するだけの政策には大きな意義は感じられない。減税の直接的な狙いは、家計の手取りが増え、消費が拡大することによる景気上昇であるし、もちろん家計にとっては嬉しいことではあろうが、一方で税収が削られてしまう。その税収を意味のある政策に充てるという選択肢もありうる。学校教育や高齢者福祉の分野では、もっと多くの予算が必要だと私は思うから、ラインフェルト首相が演説で掲げた ”Mer kvar av lönen”(よりたくさん手元に残るように)というスローガンには賛同できない。

この第5次 勤労所得税額控除は2010年の国政選挙の時の選挙公約だった。だから、それを任期最後の1年に実現させようということは分かるが、2014年の国政選挙を勝ち抜きたいのであれば、今後の社会の進む道を指し示す、新たなビジョンの提示が必要だったと思う。ラインフェルト首相も就任からすでに8年目に入り、政権疲れに苛まれているように感じる。

世論調査ではここ1年半近く、左派ブロック(社会民主党・環境党・左党)が右派ブロック(穏健党・自由党・中央党・キリスト教民主党)を上回っており、一番最近の世論調査(8月)でも左派ブロックが51.0%に対し、右派ブロックが39.0%となっている。このまま行けば、1年後の国政選挙では政権交代も考えられるが、その1年の間に世論が大きく変化することも大いにありうる。


今後は、来年9月の選挙に向けた政策議論について、なるべく頻繁に書いていきたいと思う。

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