スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンの 9・11

2007-09-14 05:34:56 | コラム
9・11と言えば、もちろん2001年のアメリカ・テロがまず頭に浮かぶが、スウェーデンでは、もう一つ別の悲劇が思い起こされる。

時は2003年9月10日。スウェーデンの欧州統一通貨(ユーロ)への参加の是非を問う国民投票が、14日に控えており、賛成・反対、それぞれを主張する陣営の投票キャンペーンが終盤に差しかかっていた。

そんな時、当時の外務大臣Anna Lindh(アナ・リンド)は、ストックホルム中心街にあるNKデパートにショッピングに出かけた。国民投票の投票日直前にTV4チャンネルが企画していた討論番組に着る服を買うためだったのだ。公安警察の護衛も付けず、友人だけが一緒だった。

アナ・リンド(右) 写真の出典

その買い物の途中、突然、男に襲われ、ナイフで刺された。多量の出血と共に、すぐさま救急車でカロリンスカ大学病院へ搬送された。
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個人的な話をさせてもらえば、このニュースは速報を見たスウェーデン人のある友達が携帯メールで送ってくれので知った。すぐさま同じ寮に住む別の友達にメールを転送し知らせてあげると、その女の子からは「Anna Lindhは自分が一番尊敬する政治家。ぜひ助かって欲しい」と返事が来た。

次の朝はどんよりした曇り空だった。眠い目をこすりながら、大学へと足を運ぶと、冷たい風の中に半旗が翻っていた。見た瞬間、その半旗が何を意味しているのか理解できてしまったのが怖かった。
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彼女が搬送された大学病院では、夜通しの緊急手術が続いた。肝臓からの出血がひどく、大規模な輸血も行われた。しかし、手術の甲斐なく、彼女の肺は徐々に弱って行き、翌日11日の明け方5時29分、帰らぬ人となった。

その後、犯人は逮捕された。旧ユーゴ・セルビア生まれの男性で、幼少の時に親に連れられスウェーデンへ来たのだが、アイデンティティーの確立に失敗し、精神的な疾患を負っていたという。「内なる声」に導かれ、社会で地位を持つ誰かを殺害しようと犯行に及んだという。国民投票の直前だっただけに、政治的な意図があったのではないか、と疑われたが、そのような事実は浮かび上がってこなかった。(無期刑を受けた)

Anna Lindh(アナ・リンド)は、1994年に環境大臣に着任。当時、スウェーデンは不況にあり、環境政策への予算は削減を余儀なくされたが、一方で、アナ・リンド環境大臣は、国内の環境法制の強化やEUレベルでの環境政策の重点化に力を注いだ。また1992年に国連が開催したリオデジャネイロ会議後の実行プログラムである「アジェンダ21」の実施に努めた。

1998年には外務大臣に任命される(当時41歳)。彼女は、世界の紛争調停に意欲的で、そのためには、EUと国連の強化が鍵だと考えていた。2003年3月に米英軍がイラク侵攻を行った際には、こう言っている。
「"ett krig som förs utan stöd i FNs stadga är ett stort misslyckande".
国連憲章に拠り所を持たずに行われる戦争は、大きな失敗だ


今年も、彼女の死が9月11日に悼まれた。上の写真にあるのは、現在の社会民主党党首Mona Sahlin(モナ・サリーン)前外務大臣のJan Eliasson(ヤン・エリアソン)ら社会民主党の幹部。Jan EliassonはAnna Lindhの外務大臣時代に、外務省事務次官駐米大使を務め、またAnna Lindhのよき友であり理解者であった。 写真の出典

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4 コメント

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私もショックでした (Watanabe,Madoka)
2007-09-15 11:47:03
あの日、私は日本にいたのですが、アンナ・リンドさんのファンであっただけに、非常にショックを受けました。でも、でもですね、その頃は愛媛県にいたのですが、日本の田舎にいても、だ~れも他にショックを受けている方も悲しんでいる方もいず、したがって自分の感情をシェアできず、一人で泣いていました。ただ、親しい研究者とわずかに感情を分かち合えたのと、スウェーデンに住んでいる方々とメールでshare できました。あれから、もう4年たつのですね。
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Unknown (Mario)
2007-09-15 15:05:49
お恥かしながら、そんな悲惨な事件があったとは
何もしりませんでした。。。
何故、人々の為に一生懸命働いている人が命を
失わなければいけないのか…
きっと、それもこれも何か意味があるのでしょう。
彼女の死が無意味にならないよう、残された国&国民
または他の国の人々が出来ることをやらねば行けない
のかな、っと考えさせられました。
もうちょっと彼女について知ろうと思います。
彼女の事を書いてくれて有難うございました!

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Unknown (Yoshi)
2007-09-16 06:12:46
Madokaさん、Marioさん
コメントありがとうございます。

スウェーデンの政治家の中にも、ビジョンを持って、自分のイニシアティブで積極的に行動する人もいれば、長年の議員職に馴れきってしまって、ビジョンもなく、ただポストに座って、官僚の答弁を読んでいるだけの人もいます。

Anna Lindhは前者であっただけに、彼女のいなくなった今が残念でなりません。
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Unknown (Yoshi)
2007-09-16 06:15:05
Madokaさん

先日、東京のTK大学のN先生がヨーテボリに調査のために来られたので、通訳としてお手伝いさせてもらいました。Madokaさんとお会いになられたことがあるとのことでした。
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