スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ムハンマド論争、今度はスウェーデンで・・・(3)

2007-09-12 06:20:03 | スウェーデン・その他の社会
ムハンマド論争において、政府は芸術家や新聞社を罰することはできないし、政府に責任を求めるのも筋違い、と書いた。では、国内外で起きている抗議活動に、政府は知らぬ顔をしていればよいのか・・・?

デンマークの騒ぎの時には、デンマーク政府はまさに「関与せぬ」の立場を最初の段階で貫いた。風刺画がデンマークの新聞へ掲載されたのは2005年9月末。それが国内のイスラム教徒に衝撃を与えた。その翌月、イスラム諸国11ヶ国の大使が、風刺画についての協議をデンマーク首相に申し入れるが、彼はこれを拒否したのだった。そうすることで、「表現の自由」の擁護を断固として示そうとしたのだった。

しかし、それが結果的に、騒ぎを悪化させることになった。12月には、デンマーク在住のイスラム教の代表団が中東諸国を巡り、風刺画とデンマーク政府の態度について現地の人々に伝えて回ったのだった。その結果、翌年2006年1月にはイスラム教諸国のデンマークからの大使召還や、デンマーク製品のボイコット運動が徐々に始まっていき、2月に入ると、デンマーク大使館の襲撃や暴動が各地で起こることになった。(逆に、デンマークの右翼政党などは、中東諸国を巡って情報提供したイスラム教代表団を槍玉に挙げて“売国奴”と非難した)

だから、いくら正論とはいえ、政府の頑な態度が逆に反感を買い、それが3ヶ月かけて増幅して行き、ついに爆発した、とも考えられる。

スウェーデン政府は同じ轍を踏まないように気を配った。スウェーデン首相、ラインフェルトは最初の段階でこそ目立たぬように努力して、

「スウェーデンはイスラム教徒もキリスト教徒も、神を信じる者も信じない者も、共に隣り合って生きていける社会であると強く主張したい。と同時に、表現の自由は、基本法(憲法)で規定されており、我々はそれを擁護している。そのため、新聞で何が書かれるべきか、について政治サイドは決定権を持たない。」

という政府見解の発表だけに抑えたものの、先週の火曜日はストックホルムにあるモスクを電撃訪問し、在スウェーデンのスウェーデン・ムスリム委員会(Sveriges muslimska råd)と話し合いを持った。

スウェーデン・ムスリム委員会への訪問

そこでは、スウェーデン政府としての立場を明確にする一方で、イスラム教徒の側が風刺画掲載に対してどのように感じているか、首相として理解を示すことに重点が置かれたようだ。ダイアログ(対話)は相互理解の土壌を準備し、問題解決の力強い武器になりうる。スウェーデン・ムスリム委員会はスウェーデン首相のこの訪問を積極的に評価し、「我々は、スウェーデン社会の機能の仕方と『表現の自由』の大切さについて、よく理解したつもりだ。この理解を国内および国外のイスラム教の人々に広く伝えていくよう努力したい」「騒動収拾のために我々にできることがあれば、首相を積極的に支援したい」とのコメントを示した。

ストックホルムのモスクにて

また、金曜日には在スウェーデンのイスラム教国20カ国の大使を首相官邸に招き、会談を持った。その会談に先駆けては、エジプトを始めとするいくつかの国が、その会談ではラインフェルト首相に対し、宗教冒涜を罪とする立法を始めとするいくつかの「要求リスト」を提出する、と噂されていただけに、注目された。しかし、会談では、成功裡に終わったようで、会場を後にする各国大使は「満足のいく会談だった」とコメントした。また、噂された「要求リスト」は提出されるどころか、話題にも上らなかったという。

とまあ、ラインフェルト首相の“チャーミング作戦”による積極攻勢は、今のところ効果を発揮しているようだ。これらの国々では、政府や宗教関係者が一般社会に対して持つステイタスが高い。だから、彼らをうまく味方につければ、民衆の大規模なデモやボイコットなど、今後の事態の深刻化を防げる可能性は高いのではないか、という私は気がする。

とはいえ、デンマークの例では、風刺画の掲載から3ヶ月以上も経った後に、騒動が爆発したことを考えれば、まだ予断は禁物だ。しかし、このまま収拾がつけば、危機に際しての政府の対応のお手本として、そして、対話を通して相互理解の態度を維持することの重要性を示す好例として、長く語り継がれるのかもしれない。

(終わり)

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2 コメント

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Unknown (Mario)
2007-09-15 14:50:56
デンマークの経験から学んで、積極的かつ柔軟に問題を解決したとは、ラインフェルト首相立派ですね。このまま何も問題が起こらないことを願います。
あぁ、日本も彼のような立派なリーダーに導いて
もらいたいものです。。。
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Unknown (Yoshi)
2007-09-16 06:19:58
日本は年金の記録漏れが大きなスキャンダルとなり、安倍政権は結果的に退陣に追い込まれましたよね。

彼に首相としてのリーダーシップがあれば、あのような事態には積極的に国民の前に出て、きちんとした説明をするなり、対応策を打ち出すなり、とにかく、国民とのコミュニケーションを図るべきだったのでしょうね。

どうやら現実は、煮え切らない態度をとり続けたようで、それが国民の反感を煽ったのでしょうね。
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