スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「中国・チベット」がどのように伝えられているのか?

2008-03-23 08:52:23 | コラム
チベットの僧侶や民衆のデモを、中国政府が治安部隊や軍隊で封じ込めている。ビルマ(ミャンマー)でも昨年秋、僧侶を中心とする大規模なデモがあり、中国の後ろ盾を受けているビルマの軍事政権が武力で抑え込んでしまった。あの時は国連が動き、特使が派遣されたりはしたが、どうも軍事政権の思うままにされ、そのうち国際ニュースの陰に隠れてしまい、うやむやになった感がある。今回のチベットや他の地域におけるチベットの人々の動きも時間と共にうやむやにされるのではないかと気になっている。

スウェーデンでは今回の事件がどのように伝えられているのか、とのご質問を受けたので、私の感じる範囲でまとめてみたい。

日本で判明したギョーザ事件のことは、スウェーデンでは全く伝えられなかった。一方、昨年アメリカで大きな問題になった玩具塗料の毒性毒物の混入したペットフード事件についてはある程度、取り上げられていた。

「中国」というと、スウェーデンではこれまではポジティブな捉え方が大勢を占めていたように思える。未知なる文化と文字に対する羨望、高い成長を遂げる経済への関心、急激に増える中国人観光客の歓迎、優秀な中国人留学生を獲得したいという焦り。さらに、これまで貧しかった人々が急速に所得を上昇させ、購買力をつけているから、この巨大な市場にスウェーデン企業も遅れを取らず参入していくべき、などを含めた、文化面や経済面でのポジティブな捉え方がメディアでは大きく伝えられてきた。

他方で、人権侵害や報道・言論の自由の欠如、といったネガティブな面は、新聞やテレビでも取り上げられてきたものの、ポジティブな報道の影に隠れてきた感じがする。ビルマの軍事政権北朝鮮の独裁政権を中国が支援してきたことや、アフリカ・スーダンのダルフール地方における紛争においても中国が武器・資金供与の形で暗躍していることはスウェーデンでも伝えられている。経済力と政治力を着実に蓄えつつあるこの大国に、どうやら影の部分がたくさんあることはスウェーデンの人々も気づいてはいるのだろうが、とはいっても、長期休暇には中国に旅行に行って文化を味わってみたいし、影といわれる部分もこれから中国が経済発展をさらに遂げるにしたがって、次第に解決されるのではないのか?、それに、以前に比べれば自由な社会になってきたではないか!、という楽観論が強いようにも思える。

これは私の見方に過ぎないが、中国に対する羨望や期待、そして楽観視は、スウェーデン人が従来持ってきたアメリカに対する懐疑心・反感の裏返しではないかと思う。世界の覇権がこれまでアメリカに一極集中し、彼らの思うがままにされてきた。おかしな根拠によってイラク戦争も推し進めてきた。しかし今、そのアメリカが軍事的にも経済的にも覇権的な力を失いつつある。そしてまさに今、興隆しつつあり、アメリカの一極集中を崩そうとしているのが中国なのだ! という注目の仕方。

ただ、残念ながら「敵の敵」が必ずしもいい奴とは限らない。もしかしたらもっと危険な存在かもしれない。アメリカにしろ、ヨーロッパの国々にしろ、植民地化の時代から今にかけて、世界で様々な罪を犯してきたのは確かであろう。しかし、これらの国々が現在は民主主義国であり、言論や報道の自由が保障されている以上、社会を構成する様々な人々・団体・報道の監視の目により(原則として)悪はいずれは暴かれる、という「自浄能力」がシステムの中に組み込まれていると思う。しかし、そうではない中国ではこれが機能しているとは思えない。この危険性が果たしてどこまでスウェーデンにおいて認識されているのか・・・?

とはいえ、オリンピックが近づくにつれ、真面目な日刊紙などは、中国の影の部分にもより強い光を当てるようになって来た。アムネスティ・インターナショナルの情報をもとに、中国において政治犯に仕立て上げられたり、人権侵害を受けたりした人々を毎日一人ずつ取り上げている。殺人事件の犯人に仕立て上げられ、明確な根拠もないまま死刑に処され、あとから真犯人が見つかったという出来事。民主化運動に関するメールを国外のジャーナリストに送ったために逮捕され、行方が分からなくなった人。住民デモと警察の争いの場にたまたま居合わせ、携帯のカメラで現場を撮影したために警察に殴り殺された若者。留置所で看守に暴行を受けて死亡した民主活動家・・・。


一ヶ月にわたり毎日一人ずつ紹介したあと、最後のまとめとして「独裁政権の被害者」という社説を日刊紙Dagens Nyheterが掲載している

オリンピックについても、中国がそもそも開催国に選ばれたことを大きな過ちだったとする意見が強くなりつつあるようだ。開催国を選出する段階で、中国政府が国際オリンピック委員会に約束したのは「大会に向けて民主化や政治的自由の拡大に段階的に取り組んでいく」というものだったが、現実はむしろ逆行している。オリンピックを大成功させ、自国の政治的リーダーシップや国力を世界に見せつけるために、負の要素を徹底的に排除しようとする動きが取られている。また、民主化運動の弾圧や不当な土地収用、出版やインターネットに対する検閲の強化がここ数年、どんどん強まっている。ただ、中国のこのような傾向に対し、オリンピックのボイコットで対処すべきかどうか、については意見が分かれている。

「民主主義を目指す闘争」 これはDagens Nyheterのネット版から


そして、今チベットで大変な事態になっている。
(続く)

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3 コメント

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デンマークでも同じですね (Denjapaner)
2008-03-23 19:10:16
興味深く読ませていただきました。デンマークでも同じように、中国のもつエキゾチシズムへの「憧れ」が感じられることが多く、日本の「チャイナフリー」という過激な言葉に見られる温度差が気になっていました。

とくに60年代70年代などは毛沢東はデンマークでも大きな存在だったといいますから、確かにYoshiさんのおっしゃるように、アメリカ(に見られる資本主義的価値)への反感が裏返しとなって、共産主義そして中国への憧憬とつながっている要素はあると思います。

Yoshiさんの紹介されたアムネスティの記事同様、ジャーナリスト組合(デンマークだったか、北欧だったか失念しましたが)も、中国当局の気に入らない真実を報道したという理由で現地で投獄されている報道人たちが多数いる事実を伝え、オリンピック開催と絡めながらそれを糾弾する声明をだしています。

デンマークでは最近、中国に「デンマーク大学」を設立しようという動きまででてきました。イギリスやアメリカはすでに着手しているようですが、デンマークのような小国がそれを追うのはちょっと浅薄に過ぎると思ってみていますが。リンク先に、書いた記事がありますので、お時間がありましたらご覧下さい。
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Unknown (ayako)
2008-03-24 01:20:12
オリンピックに関してはいろいろな報道を見るにつけ、ボイコットどころかもう開催を中止してしまってもいいのではと思い始めています。実際、棄権する選手も出てきていますよね…。

最近のように中国に関するネガティブな報道が盛んになると、「(例えば餃子など)中国産を強調し過ぎ」「マスコミがいたずらに反感を煽っている」などという声も聞かれるようになります。もちろんその可能性は否定できませんが、ごく個人的な印象として、日本における「中国」に関する議論って、感情が先走しってしまうことが多い気がしています。いろいろな確執があるだけに、冷静になるのが難しいのかもしれませんが…。それだけに、スウェーデンでの受け止め方、報道のされ方にはとても興味があります。

とても面白く読ませていただきました。ありがとうございます。
続きも楽しみにしています。
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Unknown (Yoshi)
2008-03-25 17:01:55
コメントありがとう。

時間がないのですが、しっかり目を通しています!
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