スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

バルト海の3つの現象の共通点とは?(2)

2009-11-20 02:34:50 | コラム
前回紹介したバルト海における3つの現象、つまり(1) アオコの大量発生(2) 海鳥の大量死・発育不良(3) タラの枯渇、に共通するものは何だろうか? 答えは、3つとも互いに関連し合っているということだ。

より正確に言えば、(3) タラの枯渇 が(1) と (2) と (3) の背景にあるということだ。((3)が(3)の背景にあるというのは、タラの枯渇がさらにその枯渇を助長している、という悪循環に陥っているということ)

バルト海の生態系は、次のような食物連鎖の絶妙なバランスの上に成り立っている。

他の魚を食べる魚(タラ・サケ)やネズミイルカ
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動物プランクトンを食べる魚(ニシン・スプラット)
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動物プランクトン

植物プランクトン


一番上に位置する魚としては、ネズミイルカ(トゥンムラレ:tumlare)が以前から数を減らしてきただけでなく、既に触れたようにタラが過去20年ほどで激減した。
(ちなみに、サケは野生種はほとんどいなくなり、現在バルト海に生息しているのは人工孵化され放流されたサケがほとんどだ)

そして、これらの動物が数を減らすと、彼らの餌であったニシンやスプラット(ニシン科の小魚)が天敵がいなくなったのをいいことに数を大きく増やすことになる。実際にこれらの魚の大量繁殖は確認されている。すると今度は、ニシンやスプラットが餌としている動物プランクトンが枯渇することになる。そして、逆にこのことによって今度は動物プランクトンが餌としてきた植物プランクトンが大量発生する、という連鎖反応が起きることになる。

アオコ植物プランクトンの一つだ。だから、この説が正しければ、生態系の頂点に立っていた肉食魚やイルカが姿を消したことが、巡りめぐってアオコの大量発生につながっているということになる。

他の魚を食べる魚(タラ・サケ)やネズミイルカ[枯渇]
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動物プランクトンを食べる魚(ニシン・スプラット)[大量発生]
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動物プランクトン[枯渇]

植物プランクトン[大量発生]



また、食物連鎖の途中に位置している動物プランクトンは、先に触れた理由で数が減っており、それを増殖したニシンやスプラットが奪い合う状況になっている。その結果、ニシンやスプラットの一匹あたりの重量が大きく減少し、痩せた魚が多くなっている、という現象も確認されている。

前回書いたように、海鳥の大量死の原因は、ビタミンB1(ティアミン)の不足によることが明らかになっているが、ティアミン不足の原因は、実は海鳥が餌としているニシンやスプラットの組成に何らかの変化があったためではないか?という説が近年浮上している。(私は正確なことは分からないが、ティアミンは動物プランクトンによって生成されるということだと思う)

さらに、タラの枯渇によって、ニシンやスプラットが大きく増えたために、これらの魚にタラの卵や稚魚が食べられやすくなり、タラの減少にさらに拍車がかかるという悪循環に陥っている。

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複雑な相互依存関係の上に成り立っている自然の生態系。一つの魚の枯渇や絶滅は、その種の存続だけでなく、その生態系を織り成している他の種にも大きな影響を及ぼすことになる。(続く・・・)