スウェーデンのバルト海沿岸部では10~15年ほど前から、アオコの大量発生が問題になってきた。夏になり海水温が上がった頃に、植物プランクトンが大量に発生して、海面を緑色や黄色に変える。植物プランクトンの中には毒素を発するシアノバクテリア(藍色細菌)もあるから、人間や犬がそんな海水の中で泳いだりすると、気分を悪くしたり、神経が障害を受けることもある。だから、7月のせっかくの夏休みなのにバルト海沿岸の海水浴場が閉鎖されてしまう。そんな出来事が、近年ますます頻発するようになってきた。
港町カールスクローナ(Karlskrona)に迫るアオコの潮 写真の出典:スウェーデン沿岸警備隊
バルト海は、スカンディナヴィア半島やフィンランド、バルト三国、そしてポーランドやドイツに囲まれた内海だ。スウェーデンとデンマークの狭い海峡を通じて北海へ、そして大西洋へと通じてはいるものの海水の出入りは少なく、バルト海のすべての海水が完全に入れ替わるまでに30年から60年がかかると言われる。そのため、富栄養化の影響は長期にわたって残ることになる。しかも、外海との出入りが少ないのに対して周辺河川からの淡水流入は常にあるため、バルト海は塩分濃度の低い汽水だ。だから、アオコの発生が容易なのだ。
バルト海の富栄養化(リンや窒素の流入)を抑制するために、スウェーデンやフィンランドでは無リン洗剤の普及や下水処理場の設置が行われ、20年以上も前に完了している。化学肥料の使用規制などを通じて、農業排水に含まれる富栄養化成分の抑制も行われてきた。残る大きな課題は、ロシア・サンクトペテルブルグやバルト三国、ポーランドにおける下水処理場の普及や、農業排水の対策などだ。
しかし、アオコやシアノバクテリアの大量発生が近年、ますます頻発するようになった背景には、富栄養化だけでなく別の原因もあることが濃厚になってきた・・・。それは何か?
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アオコの話とは別に、バルト海沿岸では10~20年ほど前から奇妙な現象が確認されている。カモメやムクドリ、カモ、その他の海鳥の一部で大量死が頻発しているというのだ。鳥が次第に力を失って飛べなくなったり、飛んだ鳥が墜落したりして、岩場にたくさんの死骸をさらしている。また、産み落とされる卵の数が減っただけではなく、無事に孵化したり孵化後に生き残る可能性も低くなっている。
この原因はしばらくの間、環境ホルモンではないかと疑われていたが、繁殖能力や卵の孵化だけでなく成鳥の成育や飛行能力にも影響が出ていることから、もっと別の原因があるのではないかと考えられるようになった。
そして明らかになったのは、ビタミン不足という要因。ビタミンの中でもB1(ティアミン)は脳や神経の発育に欠かせない重要な栄養素だ。人間でもティアミンが不足すると脚気(かっけ)になるが、この病気がバルト海沿岸の鳥の間に蔓延しているために、大量死が相次いでいるのではないか、というのだ。病気の鳥にティアミンを人工的に投与したところ病気から回復したという。
写真の出典:Dagens Nyheter
では、なぜビタミンB1(ティアミン)が不足するようになったのか・・・? この点については、まだ明確な答えが得られてはいないが、近年、一つの仮説が提唱されている。それは何か?
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バルト海でさらに起きている深刻な問題とは、乱獲による水産資源の枯渇だ。魚の中でも特に、底生魚であるタラの状況が深刻だ。80年代の豊漁をいいことにスウェーデンを含むバルト海沿岸諸国がタラを獲りまくったおかげで、90年代以降はタラの水揚げ漁が大きく落ち込むこととなった。研究者による推計によると、タラの成魚の生息量も過去20年で激減し、BPA(個体群を維持するために必要とされる量)の24万トンを大きく下回るまでに至った。
バルト海のタラ成魚の生息量
タラは肉食魚であり、ニシンやスプラット(ニシン科の小魚)などを食べているが、タラが激減したために、現在はニシン・スプラットが大量発生している。ニシンやスプラットは動物プランクトンを餌としているが、タラの卵や稚魚も食べてしまう。だから、タラの減少にさらに拍車がかかるという悪循環に陥っている。
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さて、バルト海を巡る3つの現象を上に紹介してみたが、一見すると個別に生じていると思われるこれらの現象には、実はある共通点があるのだ。それは何だろうか? 次回のお楽しみ。
港町カールスクローナ(Karlskrona)に迫るアオコの潮
バルト海は、スカンディナヴィア半島やフィンランド、バルト三国、そしてポーランドやドイツに囲まれた内海だ。スウェーデンとデンマークの狭い海峡を通じて北海へ、そして大西洋へと通じてはいるものの海水の出入りは少なく、バルト海のすべての海水が完全に入れ替わるまでに30年から60年がかかると言われる。そのため、富栄養化の影響は長期にわたって残ることになる。しかも、外海との出入りが少ないのに対して周辺河川からの淡水流入は常にあるため、バルト海は塩分濃度の低い汽水だ。だから、アオコの発生が容易なのだ。
バルト海の富栄養化(リンや窒素の流入)を抑制するために、スウェーデンやフィンランドでは無リン洗剤の普及や下水処理場の設置が行われ、20年以上も前に完了している。化学肥料の使用規制などを通じて、農業排水に含まれる富栄養化成分の抑制も行われてきた。残る大きな課題は、ロシア・サンクトペテルブルグやバルト三国、ポーランドにおける下水処理場の普及や、農業排水の対策などだ。
しかし、アオコやシアノバクテリアの大量発生が近年、ますます頻発するようになった背景には、富栄養化だけでなく別の原因もあることが濃厚になってきた・・・。それは何か?
アオコの話とは別に、バルト海沿岸では10~20年ほど前から奇妙な現象が確認されている。カモメやムクドリ、カモ、その他の海鳥の一部で大量死が頻発しているというのだ。鳥が次第に力を失って飛べなくなったり、飛んだ鳥が墜落したりして、岩場にたくさんの死骸をさらしている。また、産み落とされる卵の数が減っただけではなく、無事に孵化したり孵化後に生き残る可能性も低くなっている。
この原因はしばらくの間、環境ホルモンではないかと疑われていたが、繁殖能力や卵の孵化だけでなく成鳥の成育や飛行能力にも影響が出ていることから、もっと別の原因があるのではないかと考えられるようになった。
そして明らかになったのは、ビタミン不足という要因。ビタミンの中でもB1(ティアミン)は脳や神経の発育に欠かせない重要な栄養素だ。人間でもティアミンが不足すると脚気(かっけ)になるが、この病気がバルト海沿岸の鳥の間に蔓延しているために、大量死が相次いでいるのではないか、というのだ。病気の鳥にティアミンを人工的に投与したところ病気から回復したという。
では、なぜビタミンB1(ティアミン)が不足するようになったのか・・・? この点については、まだ明確な答えが得られてはいないが、近年、一つの仮説が提唱されている。それは何か?
バルト海でさらに起きている深刻な問題とは、乱獲による水産資源の枯渇だ。魚の中でも特に、底生魚であるタラの状況が深刻だ。80年代の豊漁をいいことにスウェーデンを含むバルト海沿岸諸国がタラを獲りまくったおかげで、90年代以降はタラの水揚げ漁が大きく落ち込むこととなった。研究者による推計によると、タラの成魚の生息量も過去20年で激減し、BPA(個体群を維持するために必要とされる量)の24万トンを大きく下回るまでに至った。
バルト海のタラ成魚の生息量
タラは肉食魚であり、ニシンやスプラット(ニシン科の小魚)などを食べているが、タラが激減したために、現在はニシン・スプラットが大量発生している。ニシンやスプラットは動物プランクトンを餌としているが、タラの卵や稚魚も食べてしまう。だから、タラの減少にさらに拍車がかかるという悪循環に陥っている。
さて、バルト海を巡る3つの現象を上に紹介してみたが、一見すると個別に生じていると思われるこれらの現象には、実はある共通点があるのだ。それは何だろうか? 次回のお楽しみ。