スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

Absolut Vodka、仏企業に売却される

2008-04-09 10:22:39 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンのお酒といえば「Absolut Vodka」(アブソルート・ヴォッカ)が有名だ。アルコール度は40%を越えるウォッカだ。


スウェーデン北部キルナの「アイスホテル」に行けば、Absolut Vodka提供の「アイスバー」があるし、同様のコンセプトで、ヨーテボリの遊園地Liseberg(リセベリ)内にも「アイスバー」がある。それから、噂によると東京にもあるとか。

ともかく、積極的なマーケティングのおかげで、Absolut Vodkaの売り上げはスウェーデン国内だけでなく、むしろ世界的に大きく伸びているそうだ。これを製造しているのが「Vin & Sprit」(ヴィーン・オ・スプリット)というスウェーデンの株式会社。アルコールの製造、特に強酒の製造メーカーとしては世界でも有数だとか。

そんなスウェーデン企業も、実はこれまでスウェーデンの国有だったのだ。もともと1917年に国営企業としてスタート。当時は、禁酒法の制定が議論されていた時代であり、アルコール産業から営利目的の民間企業を追い出すために、この国営企業が設立され、アルコール製造の独占権が与えられたのだとか。戦後は、民間の製造メーカーも登場したものの、このVin & Spritは国有の株式会社として存在し続け、Absolute Vodkaのブランドの拡大で大成功したのだった。その結果、毎年、多額の配当金を国庫に納めてくれる、国にとっては美味しい企業となっていたのだ。(昨年の国庫への配当金は7.1億クローナ、つまり125億円)

しかし、現在の中道右派政権の方針は「国有企業および国の持ち株の順次民間売却」。民間企業が競争しあう市場の中で、国が営利ベースで企業を運営する必要はない、という考えからだ。

それに、スウェーデンではアルコール依存症やアルコールによる暴力に対し、国が頭を悩ましてきている。そのため、お酒の流通は国の独占にして、自由な流通に歯止めを掛けるという政策を国が採ってきた。だから、こんな政策の一方で、国有企業が営利ベースでウォッカのような強酒をバンバン売り込んでいる現状は、矛盾をはらんでいる。このような理由から、Vin & Spritの売却を望む声も上がっていた。

そのため、2006年の新政権誕生以降、地方自治体および金融市場担当大臣に任命されたMats Odell(マッツ・オデル)大臣が、Vin & Spritを含めた国有企業の売却を担当してきた。Vin & Spritの売却に関しては、投資銀行Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)が入札プロセスを担当し、最終的に4つに絞られた候補の中から、フランス企業Pernod RicardがVin & Spritをまるまる買収することになった。

この仏企業Pernod RicardはJameson、Havana Club、Martell、Chivas Regal、Mumm、Jacob’s Creekといったお酒の銘柄を所有する大企業とのこと(私自身はよく知らないが)。実は、この企業、一番高い額を提示しただけではない。Vin & Spritを傘下に入れた後もこの本社をストックホルムに置くこと、そして、Absolut Vodkaの生産拠点をスウェーデンに維持し、この生産と販売に今後も責任を負うことをしっかり約束しているという。なので、今回の売却には労組側も賛意を示している。

この企業の売却により、スウェーデン政府は554億クローナ(1兆円)の収入を得る。これは外貨建て国債の償還に当てるのだとか。そうすれば、今でも低いレベルだといわれる債務残高がさらに減少し、毎年の利払いも20億クローナ(350億円)減少するらしい。これをこの企業の毎年の配当金(昨年7.1億クローナ)と比較すれば、売却益が売却しなかった場合に比べていかに大きいかが分かる、と担当大臣は説明する。

入札では、スウェーデンのリスクキャピタル公的年金基金なども名乗りを上げていたようだが、これらスウェーデンの資本が優遇されることはなかったようだ。

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フランスの企業に買われても、スウェーデンに拠点を置く企業であり続けると見られているVin & Sprit。いくらフランス企業の所有になったからといって、Absolut(絶対)と中世の絶対王政との連想で、ウォッカのラベルにルイ16世の肖像画を貼ったりはしないよね!?