スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ノーベル経済学賞の記念講演

2005-12-14 23:27:20 | コラム
ノーベル賞の授賞式が12月10日に行われたが、毎年、それと前後して、受賞者がスウェーデンのいくつかの大学で記念講演を行う。ストックホルム大学、ストックホルム商科大学(Stockholm School of Economics)、ウプサラ大学、そして、ヨーテボリ大学などが定番だ。時には、ヨンショーピン大学のような地方大学でも記念講演が開催された年もあった。

経済学賞受賞者の記念講演は今日、ヨーテボリ大学で行われた。400人が定員の大ホールは満席だった。申し込みをしていなかった私は、何とかもぐりこめた。今年の経済学賞は、ゲーム理論を発展に貢献した二人の研究者に授与された。

一人はアメリカ人のThomas C. Schelling。講演のテーマは “Game Theory: a practical application to arms control”。「囚人のジレンマ」やいくつかの2人ゲームを発展させながら、Nash均衡を乗り越えて、協力関係を導くためにはどのような条件が必要か、という話を、軍縮を具体例に挙げながら、簡単に説明していた。ふとしたところに登場するジョークが面白かった。

もう一人は、イスラエル人のRobert J. Aumann。アメリカの大学で長い間、活躍していたようだ。孫が30人余りもいるという、子宝に恵まれた人で、授賞式にあわせて、家族や親類が100人近い大規模でスウェーデンにやってきたという。講演のテーマは “War and Peace”。彼も「囚人のジレンマ」を用いながら、一回きりのゲームでは非協力解が均衡解になるが、繰り返しゲームでは協力解も均衡解になりえることを説明。彼の解釈では、冷戦中の核兵器による軍備も、合理的な判断の結果であって、軍備を拡大することが、敵の侵略に対する反撃の脅威を作り出すことで、平和を維持することができた、という核・軍備の持つ抑止力の意義を主張していた。軍縮はその意味であまり意味がないとのことだ。授賞式に前後してメディアが伝えたところでは、彼はイスラエルの中でも、タカ派の論客だという。そのため、彼の主張はあちこちで議論を呼んでいるそうだ。それはともかく、今回の受賞は、理論の発展に対する彼の貢献を評価したものだ。

軍縮や平和など外交問題へのゲーム理論の応用は、今後もいろいろな形で発展していきそうだ。上に書いたように、軍縮に関して意見が大きく違う二人。どうやら、あまり仲が良くないようで、今日でこそ、記念講演に同席してにこやかに言葉を交わしていたが、10日の授賞式の際に、受賞者二人の代表としてスピーチをしたAumannは相方のSchellingの名を一言も口にしていなかった。



参考までに、ノーベル賞委員会のホームページへの リンクです。