スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデン警察の悩み

2005-09-09 23:34:24 | コラム
スウェーデンでのテロ対策にちょこっと触れてみたけれど、実際にはアメリカやイギリスでのようなテロの危険性はずいぶん小さいとされている。一方で、現実にはそんな大事件とは全く違った犯罪にスウェーデン警察は頭を悩まされている。

現金輸送車襲撃事件
ここ数ヶ月立て続けに起きている。日本や他の国でも同じかもしれないが、スウェーデンでも現金輸送は民間の警備会社が請け負っているようだ。拳銃を持った強盗に襲われたら、ひとたまりもない。輸送車の荷台にある金庫は強固で、非常時には警備員のカギでも開けられない仕組みになっているようだが、そんなことは襲う側もお見通し。威力のある爆薬で金庫ごと爆破して、その中のスーツケースを奪ってしまう。

数年前には、ストックホルムのアーランダ空港で空輸されてきた現金を滑走路の端のほうで輸送車に積み込もうとする作業中に、どこからともなく重武装した強盗が襲い、奪った後はまた跡形もなく逃げてしまう、という事件があった。後で分かったのは、空港を取り巻く森から、フェンスに穴を開けて滑走路に進入したことだった。

数週間前には、担当する警備会社のストックホルムにある収集基地が、ブルドーザーに破られ、集められていた現金がごっそり持っていかれてしまった。このおかげで、その週末はストックホルム各地の現金引き出し機で現金不足が起こったほどだった。

そして、極めつけは数日前。ストックホルムを走り抜ける幹線高速道路E4の路上で白昼に現金輸送車が狙われた。しかも、やることがすごい。まず、襲撃に先駆けて、共犯者が現金輸送車の前後の高速道路上、そしてインターチェンジの乗り入れ口で複数の乗用車を燃やし、警察車両や一般車両が現場に入って来られなくしてしまった。その上で、輸送車を襲撃し、ワゴンごと金庫の壁を爆破。この間、3分から4分。現場には渋滞ができ、多くの一般人が目の当たりにした。みな口々に、ハリウッドのアクション映画のようだったと印象を語る。そして、現金を奪った後は、車で逃走。その際も念入りに、トゲ状の突起がある金属片を路上にばら撒き、追跡車両が追って来れなくした。どうやら十数人がかりの大きな犯行のようだが、そのうちの一人、車に乗り切れず、原付バイクで現場から逃げる羽目になった20歳の少年が幸い捕まった。

現在、捜査が続いているようだが、警察はストックホルム郊外に住み、警察には以前から知られていた、若者の犯罪グループを絞り込み始めている。どんな若者に容疑がかけられているか、気になるところだが、スウェーデン・メディアや警察は世間の過剰な反応を避けるために、例えば“移民グループ”などとは極力発言しないようにしているようだ。でも、実際はやはり外国系のスウェーデン人と(スウェーデン系)スウェーデン人の混成のようだ。

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それにしても、これまでの滞在の中で、スウェーデン警察が貧弱だ、という印象は何度も受けてきた。実際に、警察に直接お世話になるようなことは今まで経験していないので、もしかしたら、メディアの否定的な報道に惑わされているだけかもしれないけれど。警察の脆弱さがスウェーデン社会が普段は温和であることの証拠であればいいのだが。(これを書いている横で、テレビのニュースが経費削減のための警察のさらなるリストラを伝えている・・・)

かつて、ヨンショーピンの同僚で、大学に入る前には警備会社で警備員をしていた男の子がいたけれど、彼がある日、病欠をし、彼が本当は警備するはずだった輸送車が強盗に襲われたそうだ。比較的平和なヨンショーピン県で、十数年ぶりに起きた現金強奪事件だったのだそうだ。悪運の強い彼は、病欠のおかげでうまく免れたわけだ。

そんな彼にこんな質問をしたことがあった。「こんなに強奪事件が多いなら、民間警備員も武装したらどう?」「拳銃なんか持っていたら、我々警備員は襲撃の際に真っ先に撃たれて、確実に命がなくなっているだろうね」たしかに、ごもっとも。撃たれるよりも、地面にうつ伏せて、ハイどうぞ持っていってください、と叫んだほうが賢いわけだ。これだったら、一般人にもすぐにできそうな気がするが、一般人との違いは、迅速に警察に連絡して逮捕を容易にする、訓練をしているか、ということのようだ。
ようだ。