スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

バーシェベック原発・原子炉の閉鎖

2005-06-01 09:28:29 | コラム
先日、5月31日の真夜中をもって、スウェーデン南部のバーシェベック原発2号機の原子炉が活動を停止した。

1980年に行われた国民投票の結果、原子力発電の放棄が国民によって選ばれた。それから段階的な原発閉鎖を模索するものの、産業界との折衝や、代替エネルギーの確保に時間がかかり、1999年になってやっと、一つ目の原発、バーシェベック原発1号機が寿命がまだあるにもかかわらず閉鎖された。そして、今回が2機目の原発。

70年代は原子力発電の潜在的な危険性が、環境問題の大テーマだった。しかし、それから時代も変わった今、脅威といえば、むしろ化石燃料の使用によるCO2の排出と、それに伴う地球温暖化。この観点からすれば、二酸化炭素を出さない原子力発電は、一つの大きな解決策という見方もある。

国民投票ののち20年以上もかけて、やっと原発削減を実行に移しつつあるスウェーデンの課題は、代替エネルギーをいかに確保するか、ということ。原発でもなく、化石燃料でもない電力源。様々な試みがなされるものの、明るい見通しは立っていない。(ちなみに、一見無理そうな大きな目標を打ち立てて、それを自らに課しながら、解決策を探っていくというやり方は、それはそれでよいことだと思う。京都議定書作成の過程でEUが打ち出した温暖化ガス15%減という目標が、典型的な例だろう。)

今回の原子炉閉鎖の最終的な決定は昨年の10月に与党・社民党と閣外協力の左党(旧共産党)、環境党、それから野党の中央党の合意でなされた。その場の雰囲気というのは、原発廃絶にむけて一歩前進!という斬新たるものではなく、20年以上前に決定された方針への盲目的追従、という惰性的雰囲気が漂っていた。社民党内でも、まだまだ稼動できる原発の閉鎖には疑問の声が上がっていたし、かつて原発廃絶を党是として推し進めた中央党でも、地球温暖化が現代社会に対するより大きな脅威となる中、昔の党の方針を考え直す時期に来ている、と言い出す党員が増えてきていた。にもかかわらず、最終決定の席では、社民党も中央党も(確か、左党も)、党内に荒波を立てかねないこの原発問題を素通りしたく、もう既に決まったことという責任逃れの姿勢で、決断を下してしまった。しかも、今回の閉鎖の背景は今後の電力需要減が見込まれるから、という根拠があるではない。2つの原子炉閉鎖のために減る発電量は、他の原発の原子炉に余分に課すことで解決を図る。

スウェーデンは季節的な電力不足の際には、隣国のデンマークやフィンランドから電力を輸入する。逆にこれらの国は、東欧やロシアから安い電力を輸入している。ということは・・・。そう、ソ連時代のチェルノブイル原発と同型の原発がこれらの地域にはまだ存在するから、そこで作られた電力が北欧に流れ込んでいるということになる。スウェーデンが原発を段階に減らしていくことで、足りなくなった電力がそんな原発から流れ込んでくるようになると、これまた本末転倒というもの。この危険性を唱える者も数多くいる。

何はともあれ、前回に引き続き、今回の原発閉鎖を一番喜んだのは、デンマーク人だろう。というのも、このバーシェベック原発というのはスウェーデンの南部に位置し(ヘルシンボリとルンドの間)、デンマークの首都からは目と鼻の先。実際、デンマークの岸辺から対岸のバーシェベック原発が見えるのだそうだ。それにしても、なんでまたスウェーデンはこんな嫌がらせっぽいところに、原発を作ったのだろう。


ほんと、隣国の首都コペンハーゲンまで目と鼻の先。嫌がらせもいいところ?