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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

稀な事故が一度起きれば、しばらくは安心か?

2011-10-04 23:21:09 | コラム
1ヶ月ほど前に

「このような原子力事故が再び日本で起これば、日本の国土のかなりの部分は農業も居住もできなくなるという緊張感を持って、今後のエネルギー供給・利用のあり方を議論して欲しいものだと思う。」

と書いたが、その後、別のところで

「原発事故は確かに怖いけれど、『めったに起こらない』と言われる事故が今年3月に起きたのだから、しばらく似たような事故は起きないのでは?」

という内容のコメントを読んだ。

確かに「しばらくは安心だ」と信じたい心理も分からないではないが、確率という観点から考えればそんなことはないだろう。互いに独立した事象が発生する確率は、一つの事象が過去のどの時点で発生したかに依存しないからだ。ある出来事が一日のうちに発生する可能性が1%であるとすれば、それが今日発生しようがしまいが、明日発生する確率もあさって発生する確率も同じく1%である。

例えば、飛行機の墜落事故も統計的に考えれば起きる確率は非常に低いものだが、大きな事故が今日起きれば、「しばらくは事故が起きない」と言ってその後1年くらいは安心できるのだろうか?

東京大学出版会の『統計学入門』という本に、こんなコラムがある。(← 京大時代に古本市で買ったものが今でも研究室の片隅に置いてある。たまに日本語の統計用語が知りたいときに使っている)


原発の事故もこれと同じで、めったに起きないと言われる大きな事故が半年前に起きたのだから、しばらくは安心、というわけではない。

中の見えない袋に999個の白玉1個の赤玉をいれて、その中から玉をランダムに1つ取り出すという例を想定すれば、この航空機事故にしても原発事故にしても、取り出した玉は再び袋に戻して、新たな玉を引くという場合と同じである。だから、ある時にたまたま(0.1%の確率で)赤玉を取り出したとしても、次に玉を引くときにはその赤玉をまた袋に戻して玉を引く。白玉を引き出した場合も同様に戻す。したがって、今回取り出した玉が白玉であろうが赤玉であろうが、次回に赤玉を取り出す確率は今回と同じ0.1%である。「互いに独立した事象」とはそういうことだ。

これに対し、地震はどうだろうか? 大きな地震が発生した場合、その後、1年間に大きな地震が発生する確率は、地震発生以前と同じだろうか? 例えば、大きな地震が一回起きたことによって、その付近の地殻変動や火山活動が活発になり、似たような大きな地震がその後しばらくの間、誘発されることもあるだろう。それとは逆に、それまで貯まっていた大きなエネルギーが一つの大地震によって放出されたおかげで、その後数十年は地震のリスクが大幅に減少する、というケースもあるだろう。地震の専門家ではないのでそのあたりの詳細はよく分からないが、いずれにしろ地震については「互いに独立した事象」とは言えず、飛行機事故の例のような考え方はできないだろう。

ただし、厳密な話をすれば、飛行機事故や原発事故でもそういうケースもあるかもしれない。つまり、一つの事故が起きたことによって、その後、一定期間の間、新たな事故が起きる可能性が減少するというケースである。例えば、深刻な飛行機事故が起きたために、同型機すべての点検が行われた結果、事故以前よりも事故リスクが少し低くなったとか、福島原発の事故を受けて、日本中の原発で安全チェックが強化されたり、ストレステストがきちんと行われた結果、事故リスクが下がったりする場合もある。ただしその場合でも、新たに行われるストレステストがそれまでの安全管理態勢を抜本的に変えるということでない限り、そもそも正確な計量化が不可能なくらい低いリスクがちょっとだけ低くなるに過ぎず(例えば0.1%の確率が0.08%になるとか)、「1回事故が起きたから、今後しばらくは安心」という次元の議論とか、「赤玉を一度取り出してしまえば、もう袋の中には赤玉がなくなる」という考え方とは根本的に異なる。

インターネットによる電子投票の試験的実施(ノルウェー地方選挙)

2011-09-14 18:55:52 | コラム
一昨日は、ノルウェー全土で一斉に行われた同時地方選挙について触れたが、この選挙では「インターネットによる電子投票制度」が初めて適用された。ただ、電子投票には、個人の認証や秘密性の確保など、様々な技術的問題もともなうため、全国一斉に導入するのではなく、10の自治体を選んで試験的に実施することとなった。


結果は大成功だったようだ。この「電子投票制度」期日前投票を行う際にも使えるため、試験的運用のために選ばれた10の自治体では、期日前投票をした人の数が前回の地方選挙よりも大幅に増えたという(期日前投票の4分の3が電子投票制度によるものだった)。また、電子投票ではない通常の期日前投票も、利便性が向上したためか利用者が大きく伸び、ノルウェー全体で見ると前回の地方選挙の時よりも期日前投票が40%増えたという。

さて、気になるのは「電子投票制度」の技術的な側面だ。どうやって有権者本人であることを保証し、他人を偽って投票するような不正行為を防ぐのか? 匿名性はどのように保証されるのか? 投票後に考えを変えて別の党に票を投じたいというときに、既に投じた票をどのようにして特定し無効とするのか?

1. 本人確認

まず、有権者本人であることの保証は、既存の3つの個人認証制度のどれかを利用して行うことになる。


http://www.difi.no/elektronisk-id
それぞれ、事前に登録手続きをして、ログインのためのパスワードを設定したり、制度によっては専用の機器を入手しなければならないようだ。それぞれの制度はノルウェー政府から住民一人ひとりに与えられている住民背番号とリンクされ、安全性や利便性が高められている。

(スウェーデンではまだ「電子投票制度」は実施されていないが、スウェーデンでも実施するとすれば、ネットバンキングでの本人確認のために主要銀行が利用者に提供しているBank-ID制度が主に利用されることになるだろう。このブログでも以前触れたように、民間主要銀行のBank-ID制度は利便性や安全性が高く評価されているため、納税や社会保険などの行政手続きでも既に国が積極的に活用している。)

2. 「電子票」の暗号化

本人確認が無事終了し、投票専用サイトにログインすると、どの党に投票するかという選択肢が表示される(有権者でなければ、空のページか、あなたは有権者ではありません、というメッセージが表示されるのだろう)。そこで、自分の投票したい選択肢(政党)を選ぶと、その選択がその人のパソコン上で暗号化された上で選挙管理委員会のサーバーに送信される。ここでは、public-key cryptography(公開鍵暗号)という暗号化制度が用いられており、このとき暗号化された「電子票」は、開票の担当者が秘密の「鍵」を用いて復号するまでは解読できないことになっている。


ちなみに、暗号化されたこの「電子票」「電子封筒」に入れられた上で選挙管理委員会のサーバーに送信される。この「電子封筒」には投票した人を特定できる情報が記されているため、開票が始まる前の段階で、ある特定の個人の「電子票」を抽出することができる。これは例えば、一度「電子投票」をしたけれど、気が変わって別の政党に票を投じようと新たに投票をした場合に、最初に送信した「電子票」を見つけ出して無効とするとき役に立つのである。


(これに相当することは、スウェーデンでも紙を使った通常の期日前投票において行われている。つまり、有権者はまず自分の投票したい政党名が書かれた投票用紙を小さな封筒に入れて封をする。この封筒には有権者個人を特定できるような情報は示されていないわけだが、それを少し大きめな別の封筒に入れたうえで投票箱に投じる。この封筒には個人を特定できる情報が記載されているため、例えば、期日前投票を既に行ったけれど、投票日当日に投票所で改めて投票した場合に、期日前投票した票を見つけ出して無効とすることができる。)

3. 開票

さて、投票がすべて終了し開票作業が始まると、サーバーに集められていた「電子票」は、物理的媒体(CD-ROM等)にコピーされ、外部との情報通信が完全に遮断されたコンピューターで読み取り、解読作業が始められる。まず、個人を特定できる「電子封筒」を切り離し、「電子票」を無名化する。


その後、解読するわけだが、暗号化された「電子票」の復号に必要な「鍵」はもともといくつかのパーツに分けられ、異なる行政機関の職員や政党の代表者などの元で保管されているため、彼らを開票場所に呼び出して、「鍵」を完成させ、初めて「電子票」の解読が可能となる。


すべての開票作業が終了し、各党の得票数が正式に決定すると、「電子票」や「鍵」など、電子投票に使われたすべての情報は廃棄処分され、将来、何者かがそれぞれの有権者の投じた票の中身を暴いたりすることがないようにする。


ちなみに、電子投票制度は既にエストニアやフィンランド、スイス、フランス、オランダ、イギリスなどでも試験的に行われたり、在外投票の際に用いられたりしたことがあるようだが、全国で正式に導入したようなケースはオランダやエストニアくらいのようだ。ただ、電子投票といっても、自宅でインターネットを使って行うものだけでなく、投票所において紙を使う代わりにパソコンなどの画面上で「電子的に票を投じる」だけの場合も指している。後者の形での電子投票は、ノルウェーでも2003年の地方選挙において4つの自治体で試験的に行われている。

今回ノルウェーで行われたようなインターネットによる電子投票は、たとえばスイスの一部の州で2005年以降、実験が行われた結果、技術の完成度が相当高くなったため、スイス全土での導入が計画されているとのことだ。

一方で、フィンランドの2008年の地方選挙では電子投票(投票所での電子投票)が3つの自治体のみで試験的に行われたが、この時はシステムのトラブルのために、投票所を訪れて票を投じた人の数と、機械に登録された票の数が一致せず、3つの自治体すべてで日を改めて再投票となったという。また、オランダでは投票所における電子投票が一般的に利用されてきたが、2008年に政府がストップをかけたという。技術の確立には時間が掛かるようだ。

(使用したイラストは、ノルウェーの地方自治体・地域発展省のサイトより)

リンゴの木に挟まったヘラジカの真相 - 酔っ払い・・・

2011-09-10 15:47:45 | コラム
ヨーテボリから南に30kmほどの長閑な海岸部。森や林も多い地域だ。ここに一軒家を持つある中年男性は、火曜日の夜10時ごろ、隣の家の庭から響く低音の奇妙な呻き声に気づいた。外は暗く、大雨が降っていたために最初は良く見えなかったが、恐る恐る外に出て近づいてみると、大きなヘラジカが庭のリンゴの木の枝に挟まって、半ば宙ぶらりん状態となり、動けなくなっていたのだった。


この家に住む家族は休暇で留守だった。ヘラジカを発見した彼は、近所に住む狩猟愛好家を呼んで善後策を考えた。猟師は撃たずに助けてやりたいという。

しかし、このヘラジカ、よく見ると目が真っ赤で様子がどうもおかしい。ぐったりしているが、それはただ単に枝に挟まった状態で、もがいたことだけが原因ではないようだ。どうやら酔っ払っている・・・。この家の住人と猟師はそう判断した。この時期は、リンゴが枝にたわわに実っており、地上には熟したものからどんどん落ちてくる。それがそのまま腐って発酵していくわけだが、このヘラジカはそのように地上で発酵したリンゴをたらふく食ったと思われる。そして、それだけで飽き足りずに、まだ木に実るリンゴにも手を(いや足を)出そうとして、自慢の長い前足を木に掛け、上のほうの枝になるリンゴに背伸びしようとしたところで、酔いがほどほどに回ってしまい、バランスを失ったのか、それとも前足を滑らせたのだろう。そして宙ぶらりんという情けない格好となってしまったようだ。

夜の繁華街でグデグデに酔いつぶれている酔っぱらいおじさんの「ヘラジカ版」と言ったところだろうか。いや、ちなみにこのヘラジカは雌だった。

この家の住人はリンゴの枝を木って助けようと考えたが、酔った勢いでヘラジカが暴れても大変なので、警察に電話をしてみたが、警察の管轄ではないと断られた。そして、代わりにレスキュー隊(消防・救急)が出動することになった。現場に到着した彼らは、クレーン車を使ってリンゴの枝を押し曲げて折り、ヘラジカを無事救出した。

疲れ果てていたヘラジカは、地上に降ろされ、そのまま庭で一夜を過ごした。地元の新聞社が取材に訪れた翌日午前中には、まだ庭でぐったりしながら、庭の中をそのそと歩き回っていたという。人間で言うならば、二日酔いの状態だろうか。そして、ある程度回復したのか、その日の午後にのそのそと森のほうに歩いていったという。

地元紙のインタビューを受けたヘラジカ博物館の専門家によると、ヘラジカは甘い果物が大好きで、とりわけ果物が地上で腐って、周囲に甘い香りが立ち込めているようなときは、その香りを遠くからでも嗅ぎつけて、ご馳走を食べにやってくるのだとか。

ヨーテボリの地元紙(写真がいくつか)

このニュースは英米の英語ニュースを通じて、世界に発信された。
米ABC
英ガーディアン紙

今晩: NHKスペシャル「どう選ぶ?わたしたちのエネルギー」

2011-08-24 23:54:35 | コラム
現在、スウェーデン北方の町、Övertorneå(オーベルトーネオ)に旅行中です。川を挟んだ東側はフィンランド。それから、この町から北は北極圏に入ります。

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先日紹介したNHKスペシャルは今日放送です。

日本の電力会社の地域独占を打破し、消費者が電力供給者や発電形態(水力・火力・原子力・太陽光・風力 etc)を自由に選べるようにするための一つの条件が発送電分離であり、日本でも議論が始まっています。それに関連する外国の事例の一つとして、スウェーデンの電力市場が取り上げられるようです。私も番組の企画段階や編集段階で、スウェーデンの電力市場の歴史や変遷、事実関係の確認などについてサポートやアドバイスをしてきました。どのような番組に仕上がっているのか、非常に楽しみです。ぜひご覧ください。



2011年8月25日(木) 午後7時30分~8時43分
【シリーズ日本新生】
「どう選ぶ?わたしたちのエネルギー」


27日(土)の討論番組も必見です。

8月27日(土) 夜
【シリーズ日本新生】
「市民討論 どうする? 日本のエネルギー」

毎日新聞

2011-08-19 00:40:55 | コラム
孫正義氏:「自然財団」理事長にスウェーデン・エネ庁長官

このブログの2つ下の記事でも詳しく触れています。


ISEP 飯田哲也さんのTwitterでも紹介
孫正義氏:「自然財団」理事長にスウェーデン・エネ庁長官(毎日新聞8月19日) スウェーデン保守政権でエネルギー庁長官に任命されたトーマスは「脱原発論者」ではなく「原発合理主義者」。緑の党推薦でエネルギー委員にも。飯田と同じクロスオーバー人種

調整運転と営業運転

2011-08-18 01:09:05 | コラム
「泊原発3号機、営業運転を再開 大震災後初の移行」というニュース(朝日新聞)。

「北海道電力は17日、定期検査で5カ月以上続けていた北海道電力泊原発3号機(出力91.2万キロワット)の調整運転を終え、営業運転を再開した」とのこと。

もう少し読み進めると、
「泊3号機は1月に定検が始まり、3月7日に調整運転に入った。通常は1カ月ほどで営業運転に移るが、北電は東京電力福島第一原発事故を受けて見送ってきた。ただ、すでにフル稼働して電力も供給しており、移行後も運転の状況は変わらない」という。

つまり、調整運転中だったが、すでにフル稼働しているということだ。

そこで、北海道電力のHPで「月別設備利用率」を見てみると・・・



なるほど! 3号機は4月以降ずっと定格電気出力を若干上回る水準で発電を続けてきたことが分かる。

「すでにフル稼働して電力も供給しており」と聞くと、そうか、これまでは調整運転だったのだから、最近、フル稼働に移行したのかな、と読者は思うかもしれないが、調整運転に入った直後の3月のことは分からないにしても、4月以降はご覧の通り、ずっとフル稼働。

出力103%で通常運転と実質的に変わらない調整運転とは何なのか・・・?
本音と建前、形式と実態をごまかすための、日本語の適当な使い分け。

一応、形式上は

調整運転 = ほぼフル出力の運転で、発電もするので実態は営業運転と同じだが、法的には定期検査中になる。電力会社が保安院に最終検査を求め、検査終了証が交付されれば、運転はそのままで営業運転に移行する。(47NEWS・共同通信

ということになっているようだ。

また、産経新聞の記事では、

「委員会では、道側が3号機の営業運転移行について「既に稼働中で『再稼働』に当たらない」とした国の見解などを報告」

とあり、事実上営業運転という既成事実を使って、認可手続きを容易にしようとする魂胆も垣間見える。

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それから、これも憤りを感じた記事。

不吉な放射能拡散予測―住民避難に生かせなかった日本政府

SLOOLYだかSPEEDYだか知らないが、迅速に活用する術(すべ)を知らなければ、高価で素晴らしい機械を持っていても、何の意味もないと思う。

パニックを起こすのが怖いし、情報を公開することに責任が持てないから、条件反射的にすぐ情報隠し。そして、そのこと自体に誰も責任を持たない。情けない。

スウェーデン・エネルギー庁長官が日本の自然エネルギーを推進

2011-08-16 13:14:50 | コラム
スウェーデンのエネルギー庁長官であるトーマス・コーベリエル辞任を正式に発表。日本でこれから創設される「Japan Renewable Energy Foundation」の理事長に就任するためだという。

エネルギー庁は日本と同じように産業省の所轄にあるが、スウェーデンが非常に面白いのは、その長官ポストに政治任用で抜擢されたこのコーベリエル長官再生エネルギーの可能性を高く評価してきた点だ。

非常にエネルギッシュな人物であり、「原発の時代はもう終わった。これからは自然エネルギーの時代」との主旨の発言を、歯に衣を着せることなく、率直にズバズバと行ってきた。

2011-06-08:歯に衣を着せない主張を展開するスウェーデン・エネルギー庁長官

彼はもともと大学の研究畑を歩んできた人(ヨーテボリのシャルマシュ工科大学)であり、資源利用の経済効率性などの研究をしながらルンド大学では教授を務めていたし、それ以前にはスウェーデン最大の環境団体であるスウェーデン自然保護協会において、エネルギー分野の専属エキスパートとして働いた経験も持つ。

だから、そんな彼が現在の日本の窮状を目の当たりにし、自然エネルギーの開発と普及を積極的に舵取りしてくれるのであれば、私は非常に心強いと思う。私も8月はじめに噂は耳にしていたが、やはり本当だったのか、と驚いている。

彼の辞任を伝えるエネルギー庁のプレスリリースは、彼本人の「日本は大きな課題に直面しているが、それを乗り越えるための強い力も持っている。だからこそ、私はこの任務を積極的に引き受けようと思い、スウェーデン政府に対して長官ポストからの辞任を請願した」というコメントを伝えている。

ちなみに、彼はJapan Renewable Energy Foundationの理事長を務めると同時に、彼の古巣であるヨーテボリのシャルマシュ工科大学でも研究活動を行っていくという。

8月25日放送予定: NHKスペシャル「どう選ぶ?わたしたちのエネルギー」

2011-08-14 14:51:40 | コラム
日本でも発送電分離が行われれば、現在のような地域ごとの電力会社による独占ではなく、消費者が自由に電力会社を選べる道が開けてる可能性がある。そうなれば、これまでのように電力会社がどこかで発電してくれた電気を消費者として一方的に使うだけではなくなり、消費者の力も少しずつ増していくかもしれない。それはより幅広い視野でエネルギーの問題を考えていくことにもつながる。

NHKは今月下旬に非常に面白そうな特別番組を放送するようです。25日(木)のNHKスペシャルだけでなく、27日(土)の討論番組も必見です。

NHKスペシャルでは、スウェーデンの電力市場についても取り上げるようです。

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2011年8月25日(木) 午後7時30分~8時43分
【シリーズ日本新生】
「どう選ぶ?わたしたちのエネルギー」(仮)

2011年、未曾有の大震災を経験した日本。私たちは今、これまでのシステムや考え方を大きく変えていかなければならない局面に立たされている。復興を進め、新たに生まれ変わるためには何が必要なのか。新シリーズ「日本新生」では、視聴者にその選択肢を示していく。

第1回のテーマは「エネルギー問題」。これまでは、ほとんど電力会社任せだったエネルギー問題だが、福島第一原発の事故以降、多くの人々が自分たちの問題として意識し始めている。

被災地の自治体の中には、自分たちの地域で必要なエネルギーをまかなうため、自然エネルギーを核にした新たな町作りに取り組み始めたところも出てきている。また国レベルでは、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの普及を狙った施策に注目が集まっている。その一方で、原発を止めても日本は必要な電力を確保できるのか。今は総発電量の1%程度に過ぎない自然エネルギーを大きく伸ばすことは本当に可能なのか。懸念する声は少なくない。

自然エネルギーの利用を拡大するためには、どんな選択肢があり得るのか。企業も含め、私たちはそのコストやリスクを受け入れる覚悟ができるのか。エネルギー問題を通して、この国の未来のかたちを探る。

(以上、番組のホームページより)

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8月27日(土) 夜
【シリーズ日本新生】
「市民討論 どうする? 日本のエネルギー」(仮)

イケアの丸まるコピー(鉛筆までも)

2011-08-09 12:36:39 | コラム
なかなか更新する時間がないので、リンクを一つだけ。

もう1週間前のニュースだが、中国でIKEAそっくりの家具店がオープンしたとのこと。
下のリンクを開けば写真が見られる。写真の右下にある「Bild 1 av 5」の矢印を押せば、全部で写真が5枚見られる。

イケアの丸まるコピー(鉛筆までも)

こういうことをここまで堂々とするのは、むしろ感心させられてしまう。

スウェーデンを訪れるスタディーツアー【8月20日(土)~28日(日)】

2011-07-28 03:06:45 | コラム
更新が滞っていますが、明日くらいに大きな更新をする予定です。(今、更新に使うデータ等を整理しているところです)

今回もイベント案内です。スウェーデンで一緒に活動しているレーナ・リンダルさんやバルブロ・カッラさんの企画したツアーです。



子どもたちに希望を! 新エネルギーに取り組むスウェーデンの人々と出会う旅

■日程
2011年8月20日(土)~28日(日)9日間
■場所
スウェーデン(ストックホルム、ウーメオ、オーベルトーネオなど)

詳しい情報はここをクリック

ツアーで訪れるオーベルトーネオという町は、ドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』に登場した町です。(リンク

日本だけが非核兵器のもとで原発技術開発?

2011-07-18 03:07:35 | コラム
2011年7月17日(毎日新聞)
海江田経産相:インタビュー 菅首相の「脱原発」を批判

「核兵器を持たずに原子力技術を本格開発したのは日本ぐらいなのに人材も育たなくなる」などと述べているが、果たしてそうか? 日本の独自性・唯一性を訴え、「それが廃れてしまう!」と主張することは確かに国民の感情にうまく訴えるが、頭を冷やして事実を吟味する必要がある。

ドイツは核兵器を自前で持っていないが、ジーメンスなどが原子力技術の開発を行い、国内での原発建設を行ってきたし、スウェーデンも国内にこれまで建設された商業用原子炉12基(うち2基は既に廃炉)のうち9基は自国の大手機械メーカーであるASEA(現ABB)の原子力部門であったASEA-Atomが手がけてきた(残りの3基は、アメリカのウェスティングハウスによる)。

スウェーデンも戦後の間もない頃は、東西両陣営の狭間で中立を維持するために核兵器を持つ野望もあったが、60年代に入った頃に既にその路線は放棄。1968年の核拡散防止条約への署名によって完全に終止符が打たれることとなった。

また、日本が「本格開発した」という部分も注意が必要だ。少なくとも当初はアメリカの技術が相当部分を占めていただろうから。


海江田大臣が自分でチェックし確認したことだとは思えないので、おそらく経済産業省のお役人が書いた原稿を読んでいるだけだろう。しかし、官僚機構もときにはタチの悪い広告代理店と化して、自分達の都合の良いように事実を歪めたり、情報を隠したりするから注意が必要だ。鵜呑みすれば、この海江田大臣のように恥ずかしい事態になる。インタビューするメディア側もきちんと勉強して、間違いを指摘して欲しかった。

タイムリーな切手の発売

2011-07-05 12:03:00 | コラム
スウェーデンの郵政公社は今年3月24日に自然エネルギーをモチーフにした切手を発売していた。




太陽光・風力エネルギーに加え、バイオエネルギー波力エネルギーだ。
波力発電に関しては、スウェーデンの中でも私の住むヨーテボリのシャルマシュ工科大学で研究開発が続けられてきており、スウェーデン沿岸で既に大規模な実証実験が行われたり、もっと強い波が期待できるイギリス沿岸でも実験が行われている。

スウェーデンは東はバルト海という内海であるし、西はデンマークとの海峡であるために波の力が弱いが、専門家によるとそれでも西海岸の波をうまく利用すればスウェーデンの電力需要の最大8%くらいは電力を得ることが可能だとしている。

(友人のレーナ・リンダルさんから情報を得ました)

<余談>
スウェーデンの郵政公社は、もともと郵政庁という形で国の行政の一部であったが1990年代に国が全株を保有する株式会社へと形を変え、さらに数年前からはスウェーデン政府デンマーク政府が共同出資して持ち株会社を設立し、その会社がスウェーデンの郵政公社とデンマークの郵政公社の株を保有するという形態をとっている。

これも彼なりの「リーダーシップ」?

2011-07-04 20:09:07 | コラム
再びとんでもない人間が現れた。「リーダーとはどうあるべきか」について様々な意見があるなか、この人物にとってはこれが「リーダーのあるべき姿」なのだろうか?




日経新聞: 松本復興相「突き放すことも」 被災地知事に相次ぎ注文

 松本龍復興担当相は3日、岩手県の達増拓也知事、宮城県の村井嘉浩知事と両県庁でそれぞれ会談し、東日本大震災からの復興をめぐり「知恵を出さないやつ(自治体)は助けないぐらいの気持ちを持って」「こっちも突き放すところは突き放す」などと厳しい口調を交えて注文を付けた。被災地の知事を激励する意味があったとみられるが、野党が国会で追及する可能性もありそうだ。

 松本氏は達増知事に「あれが欲しいこれが欲しいはだめだぞ、知恵を出せということだ」と話した。村井知事には県内の漁港を集約する構想について「県で意見集約をちゃんとやれ。やらなかったらこっちも何もしない」と述べた。〔共同〕

朝日新聞: 松本復興相、岩手・宮城両知事にきわどい発言連発

 松本龍復興担当相は3日、東日本大震災の被災地である岩手・宮城両県を訪ね、両県知事と会談した。前日の福島県に続く就任後初めての被災地訪問だが、被災者の感情を逆なでしかねない発言を連発した。週明けの国会で野党が追及する可能性もある。

 最初に訪れた岩手県庁の玄関前では、衛藤征士郎・衆院副議長からもらったというサッカーボールを持ち出し、「キックオフだ」と達増拓也知事に蹴り込んだが、達増氏は取り損ねた。

 会談では、仮設住宅の要望をしようとする達増知事の言葉を遮り、「本当は仮設はあなた方の仕事だ」と指摘。仮設住宅での孤独死対策などの国の施策を挙げ、「国は進んだことをやっている。(被災自治体は)そこに追いついてこないといけない。知恵を出したところは助けるが、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持って」と述べた。また、「九州の人間だから、東北の何市がどこの県とか分からない」と冗談めかして話した。

 午後に訪問した宮城県庁では、応接室に後から入ってきた村井嘉浩知事に「お客さんが来る時は、自分が入ってから呼べ。しっかりやれよ」と語った。被災した漁港を集約するという県独自の計画に対しては「県でコンセンサスをとれよ。そうしないと、我々は何もしないぞ」などと厳しい口調で注文をつけた。

 松本氏は防災相から引き続き震災対応に当たることもあって村井氏は面会後、記者団に「地元のことをよく分かっている方が大臣に就任して喜んでいます」と述べた。しかし、ある県幹部は「被災地に来て、あの言動はない」と憤っていた。(山下剛、高橋昌宏)


もう、がっかりだ。呆れて返す言葉もない。
この人にとっての「リーダーシップ」とは、自分より下だと思っている他人をこのような横柄な口の利き方で「突き放す」ことなのだろうか? とんでもない勘違い君だ。

この人は適当な発言を数日前にも行っている。

日経新聞: 松本復興相が陳謝 「民・自・公嫌い」発言

 松本龍復興対策担当相は1日の閣議後の記者会見で、自身が6月28日に「3月11日以来、民主党も自民党も公明党も嫌いだ」と発言したことについて「被災者に寄り添うとの意が伝わらなかったらおわび申し上げたい」と陳謝した。復興相の発言をめぐっては自民党や公明党が反発し、釈明を求めていた。

 復興相は先月28日の発言の趣旨に関して「私は政局的なことを好まないタイプであり、今の局面では被災者に寄り添うことが使命であることを言いたかった」と説明した。


発言の背景にある本心が、仮にまっとうなものであったとしても、それが相手に伝わなければ意味がない。政治家という職がねじれた人格を造るのか? 見ていてむしろ哀れに思えてくる。

知事の側が遅れて部屋に入ってきたことにしたって、重要なことだとは思えない。上下関係や年功序列での礼儀作法は、一つの美徳と捉えることもできるが、日本のそれはやり過ぎであり、無駄である部分が多いと思う。周りの者や部下の者、若い者は常に上の者の目を気にしなければならないし、お偉いさんの行動の段取りや儀典の世話をする担当者は些細なことにまで気を配らなければならない。そう努めていても、やはりミスは起こりうる。それをすかさず見つけて叱責するような連中がいるから、下の者は失礼が絶対にないようにと、神経を擦り減らしている。日本の官庁・役所で働いたり、そういった所と取引をしている企業で働いたりしている人からそのような苦労話を何度も聞いてきた。そのエネルギーをもっと別の、生産的なことに向けることができたら、無駄な雑務も減るし、職場も社会ももっと明るくなるだろうに

この「勘違い君」は、政治家としてのこれまでの人生の中で「持ち上げられる」ことだけに慣れてしまい、そういった周りの人の苦労も全然分からないのだろう。政治家・政治への信頼を高めるためには、こういった連中の「特権意識」をなくす取り組みも必要だろう。例えば「先生」という呼称をやめるとか。たとえ大臣であろうと、こういう輩にはファーストクラスやビジネスクラス、グリーン車に乗せないとか。

地元の自治体の人々や他県から応援に来た職員、それからボランティアの人々が現場で復興に努力しているときに、トップにこのような人間を立ててしまえば、復興が捗るどころか、その人間への対応だけで相当な労力を裂かれてしまいそうだ。他に良い人材がいなかったのだろうか?

国営電力企業ヴァッテンファルは原子炉の建設を見送る

2011-07-02 01:00:06 | コラム
現在の中道右派政権が2009年2月「既存の原子炉が寿命を迎えた場合にはその更新を認める」と同時に「再生可能エネルギーへのさらなる投資を政府として支援していく」という内容の連立合意を発表したことは以前触れた。

<以前の記事>
2011-05-04:フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その1)
2011-05-07:フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その2)
2011-05-11:フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その3)


ただ「更新を認める」とは言っても、政府として経済的に関与することはせず、電力業界や産業界に決定を委ねる、とされていた。その一方で、風力発電やバイオマス発電などの再生可能なエネルギーによる発電に対しては、政策サイドからの支援を積極的に行っていくことを約束していた。「既存の原子炉の寿命が近づいたときに、電力業界がそれでも新しい原子炉を造りたければ自分たちでやってね」ということだった。

この連立合意の以前は、増設だけでなく古い原子炉を新しく立て替えることも脱原発法で禁じられていたから、電力業界や関連業界が大いに喜んだことは想像に難くない。

だから、この合意が法律として議会で正式に可決されると、業界側は早速、新設に向けた準備を始めようと動き出した。新設に特に前向きだったのは、電力業界よりもむしろ電力集約的産業である紙パルプ産業だった。彼らは安価で安定した電力の供給によって、国際競争力を維持したいと願っている。その結果、スウェーデンの産業界を代表する複数の製紙企業が出資しあって、原発新設の準備を行うための「Industrikraft i Sverige AB」という新企業を立ち上げたのだった。

しかし、製紙業界だけで新たな原子炉を建設するには、資金の面でもノウハウの面でも、さらにはリスクの面でも不安がたくさんある。そのため、製紙業界がお誘いの声を掛けたのは、スウェーデン国営の電力企業であるヴァッテンファル(Vattenfall)だった。スウェーデン政府が全株を所有するこの企業は、スウェーデン国内の原子炉のいくつかを部分的に所有しているだけでなく、ドイツの原子炉3基も部分的に所有している。ノウハウもあるし、資金力の面でも申し分ない。そこで、両者の間で2009年10月原子炉新設の準備を始めるための協力関係を結ぶ合意が交わされた。

しかし、それからの話し合いはうまく行かなかったようだ。何年ごろの着工や完成を目指すのか? 建設の資金は誰がどのように負担するのか? このような点において製紙産業側と国営電力企業ヴァッテンファルの間で意見の食い違いが目立ち、具体的なプロジェクトが立ち上げられることはなかった。どうやら製紙業界はなるべく早い段階で新規原子炉を完成させたいと焦っていたようだが、ヴァッテンファルの側は新規プロジェクトへの投資やリスクを負うことに慎重で、もう少し様子を見てから決定したいと考えていたのだと推測できる。

その背景として考えられるのは、フィンランドで進められている新規原子炉の建設作業が予定よりも大幅に遅れた上に、費用も予想を大きく上回ることになったことだ。さらに、福島原発の事故があったこともあり、原子炉の建設を巡る経済的な条件が世界的にさらに不確実なものとなっている。そのような状況の中で、ヴァッテンファルは今の段階で、製紙産業と一緒になって原子炉の新規建設に向けた作業を進めていくのはリスクが大きいと判断したのではないだろうか。

ヴァッテンファルとしては、むしろ既存の原子炉の改良や安全性向上に対して追加投資を行うことで、より長く使いたいと考えている(60年)。改良による出力向上はこれまでも順次行われてきたが、複数の原子炉で現在続けられている改良工事は、年間の発電量をさらに計8TWh、つまり、原子炉1基分に相当する分だけ引き上げるものだという。

そうやって、ヴァッテンファルが新規建設に対して及び腰でいる間に、2009年10月に製紙業界の共同出資企業「Industrikraft i Sverige AB」ヴァッテンファルの間で交わされた協力合意2011年6月末日をもって当初の期限が切れてしまった。製紙業界の側は新規建設の望みをまだ捨てていないが、ヴァッテンファルとしては協力合意を更新するつもりはないというから、新規建設の話しは再び振り出しに戻ってしまった。製紙業界は、ヴァッテンファルに代わる新しいパートナーを見つけたいとしている。可能性としてはFortumE-onになるだろうが、果たして彼らが誘いに乗ってくれるのかどうか・・・。

<参考記事>
2011-07-01 (NyTeknik) Vattenfall bygger inte ny reaktor at industrin