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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンにおけるバイオ・エタノールの普及

2007-04-09 12:06:16 | スウェーデン・その他の環境政策
ガソリンに代わるエネルギー源として注目される「バイオ・エタノール」。スウェーデンやその他のヨーロッパ諸国では数年前から実際に販売が行われ、一般のガソリンスタンドでもエタノール(E85)の給油が可能だ。

日本では2003年に、エタノールを3%まで混ぜた自動車用ガソリン(E3)の販売が解禁されているが、ほとんど普及していないという。エタノールの製造コストが高く、ガソリンよりも高くつくことが原因のようだ。それでも、石油会社のイニシアティブで、バイオ・エタノールをブラジルなどから大量に輸入し、本格な普及が図られつつある、というニュースを先週末に耳にした。

現在日本で導入されようとしているのは、エタノールをガソリンに3%混ぜたE3。エタノールがこの程度の含有量だと、普通のガソリン車でも問題なく走るという。一方、スウェーデンなどで販売されているのはE85だ。つまり、エタノールの含有率が85%なのだ。ここまでくると、一般の車には利用できない。①エタノール自動車を買う、か、②一般の車に20万円ほどかけて改造をほどこしてエタノールにも耐えられるようにしなければならない。それでも、環境意識の高まりやエタノールの値段の安さなどから、エタノールの普及は順調に進んできたようだ。

さて、まず①のエタノール車から。スウェーデンのVolvoやSaab、それからドイツ・フランスの自動車メーカー各社は「環境にやさしい車」として、「天然ガス車」と「エタノール車」に力を入れてきた。スウェーデン政府はこれらの車の普及を推し進めるために、一般の消費者の購入に際して補助金を拠出している。

②の一般車改造は、もともと法律では認められていなかったものの、2年前のガソリン価格高騰の時に、安いエタノールを給油するために勝手に改造する人が続出して、政府も追認するようになった、という経緯がある。環境の観点からも、エタノールを利用する人が増えるのは、望ましいことでもあった。

ここまで読まれて、あれっ、と思われるかもしれない。エタノールのほうがガソリンより安いの? そう、スウェーデンでは政府がエタノールの販売に補助金をつぎ込んでいるので、ガソリンよりも値段が安く抑えられている。だから、ガソリンが高騰して、エタノールとガソリンの価格差が開けば、とたんにエタノールやエタノール車、一般車改造への需要が高まるのだ。

例えば、今日現在の価格を見てみると、
一般のガソリン(Bensin 95・96・98)がリットル当たり12クローナ(210円)、ディーゼル(Diesel)が10.7クローナ(190円)なのに対し、Etanol E858クローナ(140円)となっている。(左の表が今日の価格。右の写真は以前撮ったもの)

しかし、そのために大きな問題もある。スウェーデンでは高まるエタノール需要に供給のほうが追いつかず、エタノールの買い入れ価格自体が上昇傾向だ。補助金をつぎ込んで、価格を抑えようにも限界があるわけで、ひとたびエタノールの価格がガソリン価格を上回った時には、エタノール車に乗っている人もガソリンを給油するようになる、という事態が生じた(エタノール車は、E85でも普通のガソリンでも走る。という点では“ハイブリッド”と呼べるのかな?)。そうなると、せっかくのエタノール導入も意味がなくなってしまう。だから、スウェーデンにおける課題の一つは、どのようにしてエタノール価格の長期的に押し留めていけるか、ということだ。

グローバル時代の倫理的トリレンマ

2007-03-20 09:35:29 | スウェーデン・その他の環境政策
フィンランドのÅbo Akademi Universityから招いたJan Otto Anderssonの取り上げたテーマは「the Global Ethical Trilemma」、日本語に訳せば「グローバル時代の倫理的トリレンマ」にでもなるだろうか。
前回の続き

トリレンマ(trilemma)とは、ある3つの目標を同時に達成したいのだけれど、それが難しい状況を言う。ジレンマ(dilemma)は、2つの目標があり、一方が成り立てば、他方が成り立たない、という二者択一の窮地のことだが、トリレンマになると、3つの目標のせめぎ合いになるのだ。

現代のグローバル社会の中で達成したい3つの目標とは「経済的繁栄 (Economic prosperity)」「世界レベルでの公正 (Global justice)」「エコロジー的持続可能性 (Ecological sustainability)」だという。このうち、二つは同時に達成できる、もしくは達成できそうな見通しを立てることはできても、この三つの同時達成となると事はそう簡単ではない。

3つの大義のうち2つだけは達成したい、という理論的試みはこれまでもあった。Jan Otto Anderssonの上げた例としては、

“世界銀行の新しい開発戦略”
このサブタイトルは「Equity and Development(平等と発展)」であり、貧困を撲滅する手段としての経済発展の重要性を強調し、国家間の不平等の是正を行っていく、というものらしい。この考え方は、3つの大義のうちの「経済的繁栄」「世界レベルでの公正」は視野にあっても、最後の「エコロジー的持続可能性」への優先順位はずいぶん低い。

“ILO(世界労働機関)の報告書:「公正なグローバリゼーション-すべての人々
に機会の提供」”
ここでは、社会的公正・雇用・経済成長が強調されるものの、世銀の戦略同様、「エコロジー的持続可能性」への配慮は薄い。Jan Otto Anderssonは「グローバル社会民主主義」だと呼ぶ。(社会民主主義の伝統的な目標が、経済成長・完全雇用・不平等是正であったことから)

“環境経済学 (environmental economics)”
この考え方は、環境の価値と環境が与えてくれるサービスにきちんと価格が設定されて、さらに、自然資源に対する所有権と使用権がきちんと設定されることが必要、と説く。それを保障する公共政策(規制・課税・所有権の設定と保護)があれば、今までどおりの消費も投資もより効率的に行っていける。Jan Otto Anderssonは「エコロジー効率的資本主義」の考え、と呼ぶが、ここには、次世代への配慮はあっても、現世代間に存在する不平等・不公正に配慮には欠ける、と指摘する。

これに関連した別の例として私が思いつくのは、運輸による環境負荷を減らすべく、地元で生産したものを地元で消費する、という運動に似た論拠が、EU域内の市場統合と域外関税を強める一つの動きになっているが、EU内で農産物の物流を閉じてしまうと、農業を主要産業とするアフリカ諸国からの輸出が困難となり、これらの国々に打撃を与える結果になってしまう。これも「グローバルな公正」をないがしろにした考え、と言えようか。

“エコロジー経済学(ecological economics)”
オーソドックスな経済学や環境経済学とは、一線を画するこの学派は、「エコロジー的持続可能性」を分析の中心に置き、分配における公正を、世界レベルでも現世代と次世代間でも達成しようと試みる。結果として「経済的発展」に対する意欲は自然と後回しにされる。彼は「Socio-ecological planetarism(社会・エコ的プラネタリズム)」もしくは「red-green planetarism(赤と緑のプラネタリズム)」と呼ぶ(社民主義[赤]とエコロジー主義[緑]の折衷、ということ)。

以上に紹介された「トリレンマ」の定式化が私にはおもしろかった。で、Jan Otto Anderssonの主張は、最後に挙げた“エコロジー経済学”を基本にしながら、インドのガンジーを引用して「豊かな社会では既にたくさんのものが消費され過ぎているため、世界レベルでの公正とエコロジー的持続可能性を達成するためには、豊かな社会の消費レベルをある程度下げていくしかない」というものだった。世界レベルで物事を考える際の言葉としては、グローバリズムよりもプラネタリズム(planetarism)という言葉を彼は提唱している。ヒューマニズム思想を新しい段階へと発展させて行く必要性を訴えたフィンランド人の思想家Ele Aleniusを倣ってらしい。

講演のその後の中身は、A full world、Unequal exchange、Ecological footprintといった概念に対する彼の解釈、と続く。
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聞きながら思ったのは、彼の考えに立って「世界レベルでの公正」と「エコロジー的持続可能性」の同時追求を目指したいと私も思うけれど、やはりそれと同時に、我々の豊かな社会にも何らかの形での経済発展・経済成長はやはり必要だ、ということだ。大量消費に支えられる日々の生活を見直す必要はあるとしても、バブル崩壊以降に日本が経験したマイナス成長のような事態になってしまうと、失業者は増加し、実質所得は下がり始め、大きな社会問題が発生するようになる。我々も日々の生活に困り始めると、環境への配慮や、他人や異なる社会に住む人々への共感を抱いている余裕はなくなってしまい、当初の二つの大義も成り立たなくなってしまうのではないだろうか。だから、経済的繁栄は必要。しかし、それはこれまでのような生産と消費を繰り返すものではなく、環境的負荷を最大限に抑えた生産活動と消費行動が求められてくる、ということになるだろう。

だから、やはり目指すべきなのは、最初に掲げた三つの目標の同時達成をめざすべく、Jan Otto Anderssonの呼ぶ「グローバル社会民主主義」「エコロジー効率的資本主義」「赤と緑のプラネタリズム」をバランスよく折衷して行くことではないか、と思う。しかし、それがそもそも難しいからこそ「トリレンマ」と呼ばれるわけだし・・・。

ともかく、日曜日のヨーテボリ新聞(GöteborgsPosten)に講演会の記事が載った。観衆の中に新聞記者が混じっていたのだ! やはりこうして、記事になると、開催した側としては嬉しくなる。

EUの温暖化ガス削減

2007-03-09 09:27:54 | スウェーデン・その他の環境政策
EUの議長国は半年ごとの持ち回りであり、2007年前半はドイツが担当している。EUの首脳会議が今日から開かれているが、大きなテーマはもちろん「温暖化防止対策」だ。

1997年の京都議定書を受けて、EUは2008~2012年までにEU15カ国(東欧拡大以前の加盟国)全体で温暖化ガスを1990年比で8%減らすことを掲げている。この目標はあくまでもEU全体の話であって、その達成のために、EUは各加盟国にそれぞれ異なる削減目標を課している。この削減目標は、それぞれの国がそれ以前に取ってきた省エネへの取り組みや、経済状況を考慮して設定されているため、国によっては排出量を90年比よりも増やすこともできる。

上のグラフで分かるように、スペイン・ギリシャ・ポルトガルなどはEU15の中でも経済が立ち遅れているために、無理な削減目標を課して、経済の足をさらに引っ張ってもしょうがないということで、大幅な増大が許されているし、スウェーデンはそれまでの省エネの努力が考慮されてか、僅かながらの増大が許されているようだ。グラフの棒の長さは、実際にどれだけの温暖化ガスが増減するか、を示したものだ。つまり、ルクセンブルグのような小さな国がいくら努力して大幅に削減したところで、実際の排出量はさほど変わらないが、ドイツのような巨大産業国が減らせば、実際の効果は数倍大きい、ということを物語っている。

さて、この目標は実際に到達可能なのだろうか? 2004年の時点で、EU全体の排出量は実際は0.9%しか減少していない! しかし、既に各国で導入されてきた対策が今後、効果を見せ始め、また、さらなる取り組みをすることで、2010年までには8%削減が可能、という期待をEUは持っているようだ。

国別に見てみると、面白い。下のグラフは現在の調子で行けば2010年の段階で、各国がそれぞれに割り当てられた排出目標をどの程度、達成しているか?を示したものだ。

これによると、スウェーデンは排出を4%増に留めればよい、という目標に対し、それを8.4%も下回る(つまり、4.4%減)ことが可能、と見られている。同様に、イギリスやドイツも、自らに課せられた目標を大きく上回るだろう、と予測される。一方、現状のまま行けば、半分以上の国が目標を達成できないため、これらの国々ではさらなる努力が必要とのことだ。もともと15%増、というかなり“甘い”目標を課せられたスペインに至っては、それを達成できないどころか、それを31.2%もオーバーしてしまう、という始末だ。

(スウェーデンばかりを褒めてもしょうがないが、さらに言えば、GDP比で見た温暖化ガス排出量も、スウェーデンがEU内で一番少ないのだ。つまり、同じ額の経済生産を行うのに、他のEU諸国に比べてスウェーデンは一番少ない排出量でそれができる、ということなのだ。)

さて、この様な厳しい現状にもかかわらず、先ほども書いたようにEUは2010年前後までに8%減という目標を達成し、さらに、2020年までにさらに12%を削減することが可能だ(計20%減)、としている。それは、これまでの取り組みに加えて、再生可能なエネルギーをさらに活用したり、EU新加盟国やEU圏外の国々の排出削減に協力したり、CO2を地中・海中に閉じ込める、などといった新技術の活用に頼ることで、可能になるとしている。(なかなか非現実的な話に聞こえるかもしれないが、これは単なるパフォーマンスではなく、EUの環境政策をつかさどる首脳部は、これは実際に可能な目標、と捉えてEU内で具体的な議論を進めているとのことだ)

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さて、この様な状況を踏まえた上で、EU首脳会議の話に戻ろう。現在、EUの一部の国々は2020年までの削減目標を20%減から30%減へと大きく拡大しよう、と主張しているのだ。しかも、提唱しているのはスウェーデンとドイツなどこれまでの削減努力における優等国だ。そして、この厳しい目標達成のために、加盟国各国に拘束力を持つ達成目標を課そうとしているのだ。これに対し、他の加盟国からは、反発が起きている。そのため、今日から始まったEU首脳会議で、果たしてどのような結論が出るのか? それが注目されている。

(注)
上のグラフはEU環境庁(EEA)の報告書「Greenhouse gas emission trends and projections in Europe 2006」から引用しました。

ヨーテボリ市の『国際環境賞』

2006-11-30 07:33:51 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨーテボリ市は1999年から「国際環境賞」を設け、環境問題解決や持続可能な社会発展への取り組みにより大きな活力を与えるために、スウェーデン内外においてこの分野で貢献があった人や団体に賞を贈っている。ヨーテボリ市とともにいくつかの企業がお金を出し合い、毎年計100万クローナ(1600万円)を贈呈する。


授賞式の会場である『Storan』前に並べられたPrius

今年は、日本のトヨタが誇るハイブリッド・カーPriusが選ばれ、その開発に「ユニークで、目的意識を持ち、決定的な貢献をした」という理由で、
Takehisa Yaegashi氏(Toyota Technical Development Corporation)
Yuichi Fujii氏(Panasonic EV Energy Co.Ltd)
Takeshi Uchiyamada氏(Toyota Motor Cooperation)が受賞した。(出席は最初の二人のみ)

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さて、日本から受賞者の方が遥々来られる。それに、スウェーデン新政権の環境大臣Andreas Carldrenも出席する、という。なので、今日の授賞式典を覗いてみたい。しかし、関係者でもメディアでもない者が入れるのか? それを問い合わせるべく、主催関係者に電話をしてみる。

しかし、どういうわけか、私の掛ける問い合わせ電話が最初にたどり着いたのは、何を血迷ったのか、環境大臣の広報秘書の携帯。「ウチは賞の授与はするが、開催自体はヨーテボリ市なので市に聞いてくれ」との返事。しかし、興味深いことに、この会話の途中、携帯が途切れたり、特急X2000の車内アナウンスが背後で聞こえていたから、ちょうどこの時、環境大臣はヨーテボリに向かって移動中だったことが分かった。大臣とあっても飛行機を使わず、「環境マーク」つきの鉄道で来るとはさすが環境大臣!

その後、繋がったのは、今回の賞の審査委員長の携帯。彼が言うには、私でも授賞式に潜り込めるということ。ちなみに、この審査委員長は、環境の分野では有名な人で、かつての首相Göran Perssonのアドバイザーだったとか。

こんな人と携帯で気軽に会話ができてしまうところがスウェーデンらしい。夕方から行われた授賞式のほうは、ヨーテボリ・オペラ座からオペラ歌手もよばれ、声楽のある和やかな式典だった。受賞者のうち出席された日本人2人は、プリウスの技術や開発までの苦労を英語で紹介。それに対し、ヨーテボリ・シャルマシュ工科大学のもと学長で、今はヨーテボリに大きな工場を構えるVolvoのトラック部門の技術部長を務める教授も記念講演。Volvoのトラック・バス・ゴミ収集車もあと数年すればハイブリッドになる!と、闘争意識(協力の意思表示?)を燃やしていたのが面白かった(確かに、彼のいうように、発信と停車をこまめに繰り返すバスやゴミ収集車こそ、ハイブリッド技術を適用すべきかもしれない)。

授賞式後、場を後にする聴衆に逆らい、ステージへ。そして、受賞者の一人、八重樫氏にあいさつをさせてもらう。それから、今日午後、電話で話した前首相の環境アドバイザーとも直接あいさつ。肩の力の抜けて、とても話しやすい人だった。それから、ラジオのインタビューを終えたばかりの環境大臣Andreas Carlgrenともあいさつをし、Lycka till med miljöarbete(環境への取り組みを頑張れ)とささやかな声援を送る。

通りがかりのジャーナリスト?に撮ってもらった


有意義なひとときだった。
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このヨーテボリ市の「国際環境賞」。過去の受賞者を見てみると、

2005年 アフリカ・ルワンダのMaraba生産者協同組合。社会的・経済的・エコロジー的に持続可能な方法でコーヒー生産を行う、という先駆的な活動。
2004年 Joan Bavaria (USA)、Tessa Tennant(イギリス)。投資会社や投資信託基金を設立し、これを通して、企業が経済的責任とともに社会的・環境的な配慮を行うことを促進した。
2003年 Hans Ek(スウェーデン)、Wolfgang Feist(ドイツ)。太陽熱と体温を利用した省エネ屋内暖房システムの開発。
2002年 Gro Harlem Brundtland(ノルウェー)。持続可能な発展に向けた、斬新的でビジョンを持った活動
2001年 Forest Stewardship CouncilとKRAV(スウェーデンのエコロジー食品の認定機関)。前者は木材製品、後者は食品・農産物のエコロジー認定機関
2000年 Geoffrey Ballard(カナダ)
燃料電池の開発とその応用

などだ。技術開発の分野もあれば、2005年のように生産者の社会的・エコロジー的取り組みに注目したものもある。

ちなみに選考基準は、以下の点を満たす商品やサービス、新技術らしい。
・資源利用を効率化したり、再生可能な原材料やリサイクルを奨励するもの
・ある分野での問題を解決し、さらに、それが技術革新やシステム転換につながる可能性を持つもの
・問題解決に向けてのプロセスを動かすもので、ヨーテボリ地域、及びそれ以上の地域で意味を持つもの
・世界規模で公正・正義の改善に貢献するもの

らしい。

脱石油依存のための委員会

2006-05-21 00:02:16 | スウェーデン・その他の環境政策
一見無理そうに見える目標を立てて、それを実際に達成するためには何が必要かと、現実的な方策を探っていくのはヨーロッパ諸国の得意技。1997年の京都議定書作成のときにEUが提案した「温暖化ガス15%減」がいい例だ。

スウェーデン政府が2005年12月に発足させた「Kommissionen mot oljeberoendet(脱石油依存のための委員会)」の活動内容は、

Kommissionens uppdrag är att vara rådgivande och att bistå regeringen i arbetet med att peka ut vägar som till år 2020 påtagligt minskar Sveriges beroende av olja.
スウェーデンの石油依存度を2020年までに劇的に減らすための方策を政府に助言する

こととしている。この委員会の戦術も、それと同じくらい画期的だ。


「脱石油依存のための委員会」は再生可能なエネルギー源として、風力発電などのほかに、森林資源の活用に関しても積極的な提案をしている。

① 20分の1の森林で、杉をスピード栽培することで、収穫までの時期をこれまでの60~70年から40~45年に短縮する。

② 成長の早いポプラやアスペンなどの広葉樹の植樹を50万ヘクタールを目標に促進する。

③ 間伐材や打ち落とした枝の、エネルギー源としての利用率を高める。

これらの方法によって、バイオマス(生物系エネルギー源)の利用量を拡大して、エタノール熱源に変えていこうというのだ。バイオマスによるディーゼル燃料の生産も可能になるという。

推計によれば、技術革新や価格設定、供給がうまくいけば、現在使われているガソリンやディーゼル燃料の2/3を、2020年までにバイオマス燃料でまかなっていけそうなのらしい。

これらの提案は、議論も呼ぶ。森林の生態系を劇的に変えてしまう恐れもあるからだ。森林における多様性も失われかねない。スピード育成を図るために多量に肥料を散布すれば、川や湖の富栄養化も心配される。

こういった懸念にも関わらず「脱石油依存のための委員会」の議長は動じない。「石油への依存を劇的に断ち切ろうと思えば、思い切った発想の転換が必要であり、しかも、これらの計画の発表は、いわばビジョンにしか過ぎず、これから具体的な案の策定をしていくからだ」というのだ。

スウェーデン語にförsöksballong(試験的に打ち上げられる気球)という言葉がある。センセーショナルで一見して突拍子もない計画を立ち上げ、世論や専門家からの反応を見ながら、さらに計画を深めていく、という戦術を喩えてこう呼ぶのだ。将来に関してペシミスティックであるよりはオプティミスティックであったほうがよい。このような戦術で、これからも積極的な提言をしていってほしいものだ。

新しいディーゼル車の導入

2006-05-19 15:55:49 | スウェーデン・その他の環境政策
ディーゼル・エンジンに対する環境基準は、EUがEuro3という基準を現在設けているが、2009年からEuro5という基準に格上げされることが決まっている。Euro5はEuro3に比べ、窒素酸化物が60%減、微小粒子の排出も80%減という、きわめて厳しい環境基準だ。

しかし、Volvoはヨーテボリ市周辺のゴミ収集を行っている企業との連携で、この新しい環境基準Euro5を満たしたゴミ収集車を既に開発し、ヨーテボリ市周辺で実用化を始めている。

お金のかかる環境投資をなぜ民間主体がそんなに急げるのか。その背後には、環境行政側の強い意向もある。

この新しいゴミ収集車が搭載しているディーゼル・エンジンは、排気ガスを尿素に一度通すことで、上に挙げた有害物質の排出を抑えている。しかし、尿素は消耗品で補充が必要となる。そのため、尿素の補充がどこでも容易にできるように、ガソリンスタンドに似た補充ネットワークを今後、構築していかなければならない。行政側の意向としては、まずゴミ収集車を手始めに新しいディーゼル車を導入し、尿素の補充ネットワークをヨーテボリ周辺、そしてスウェーデン中に既に築いていくことで、近い将来Euro5が一般の長距離トラックにも適用されるようになった時に、新しいディーゼル・トラックがスムーズに導入されることを狙っているのだ。

新しい技術を開発する側と、それを実際に使う側、そして、環境政策を推進する側の3主体の協力があってこそ、こうした思い切ったことができるようだ。もちろん、Volvoにとっても、新しい環境技術に力を入れることで、将来、EU内で需要が膨らんだときに、価格と技術面で優位に立てることは言うまでもない。