スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

フィンランドから大学教授の招待

2007-03-16 07:54:51 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ヨーテボリ大学の経済学部には興味深い人物がいる。Johanという退職した大学講師だが、現役時代は大学教官のかたわら、ヨーテボリ市会議員をしたり、国会議員を3期12年程務めたりしているのだ。しかも、その間、某党に属し副党首を務めたほどの強者(つわもの)。退職したあとも大学で講義を持ったり、執筆活動や講演活動をしながら評論家として活躍している。また彼の奥さんは、ヨーテボリ市の郷土史に詳しく、ヨーテボリ市立博物館の専門官を長年務めていた、というこれまた面白い人。(最近、Hagaの一角に労働産業史を紹介する小さな博物館を趣味で始めた。)

そんなJohanを中心に、学部学生や博士課程の有志が集まって「We are the World」というセミナー・シリーズを企画してきた。近代経済学が支配的な経済学部の中で、より多角的な視点から経済学を議論することを目的としている。メイン・ストリームに乗らないものの様々な分野で発言をしている経済思想や経済関連の大学研究者をこれまで月一回のペースで招いて、講演会を企画してきた。先月はenvironmental economicsと一線を画すecological economicsを提唱しているMartinez-Alierを講演者として招いたところ、大学の内外から多くの人が聞きに駆けつけ、さらに地元の新聞も大きく取り上げて、大盛況となった。

で、同じセミナー・シリーズの一環として、今日は私が担当者となり、フィンランドのÅbo AkademiからJan-Otto Anderssonという教授を招き、講演会を開催した。「Global Trilemma(国際化社会の中の三つのジレンマ)」がテーマだ。なぜ私が彼の講演のアレンジを引き受けたかというと、環境政策や福祉政策、労働政策など様々な分野で興味深い著作があることや、フィンランドの中でもスウェーデン語を母国語とする人が多く住むÅboという街の出身で関心を持ったこと、さらには、隣国なので、招待をアレンジするのも比較的簡単だと思ったからだ。案の上、例の退職講師Johanと面識があったこともあり、講演の話はすぐに承諾してくれ、その後、彼をヨーテボリ大学での講演に招く話はとんとん拍子手で進んで行った。

昨年の秋からメールで連絡を取ってきたが、実際に会うときはどんな人かと緊張するもの。しかも、彼の接待も私が担当。講演会は午後に予定していたので、午前中はヨーテボリ市内の郷土史の名所を案内することになった。といっても、退職教官Johanの奥さんが手際よく市内を案内してくれたので、私もそれに便乗。かなりマニアックな郷土史探索ツアーとなったが、19世紀後半からのスウェーデンの産業化の過程でヨーテボリ市がどのような変遷を遂げたかを垣間見ることができた。中央政府の所在地であるため、公共政策が比較的よく施されたストックホルムとは違い、ヨーテボリでは産業家や資本家、商人が産業活動だけでなく、労働者の福利厚生までをも進んでおこなっていったことが、大きな特徴なのだそうだ。ヨーテボリの最初の労働組合が実は資本家の手によって組織された歴史も面白かった

その後、講演者であるJan Otto AnderssonとJohan夫妻と私の4人で昼食。その席でも面白い話題が登場した。フィンランドの女性参政権は1906(7?)年に導入されたのだそうだが、当時のフィンランドはロシアの属領であり限られた自治権しか与えられていなかった。それでも、フィンランドがそのような大きな政治改革を行うことができたのは、1904~05年の日露戦争のために政情不安定になった帝政ロシアから大きく譲歩を引き出せたからなのだそうだ。ちなみに、当時ポーランドも帝政ロシアの支配下にあり、ここでは抑圧と搾取がさらに激しかったという。(日露戦争時のロシア兵にはポーランド人も多かった。)その抑圧に耐えかねてポーランドで暴動が起こったときも、帝政ロシアは妥協策として、同じく属州であるフィンランドにも大きな自治権を供与したことがあったという。そのため、フィンランドは日本やポーランドのおかげで漁夫の利を得たという。(もちろん、フィンランドでも反ロシア運動は盛んだったが。)

さらに第二次世界大戦の後に、バルト海に浮かぶÅland島を巡ってスウェーデンとフィンランドの間で帰属問題が発生したときも、最終的な政治決着に関与したのは、実は日本の外交官だった、という話も飛び出した。

日本とフィンランドの関係は、なかなか奥が深そうだ。普通、フィンランドと日本というと、ムーミンの話が思い浮かぶ。ムーミンの童話を書いたのは、スウェーデン系フィンランド人であるTove Janssonという女性作家だが、それをアニメ化してテレビ版にしたのは、実は日本なのだ。それが日本で大ヒットすると、フィンランドは日本から逆輸入することになる。ムーミンのアニメ版はスウェーデンでも放映されたが、それはフィンランド経由で日本から逆輸入されたものなのだ。

で、肝心である講演の中身は次回に。

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