スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

欧州議会選挙の結果

2014-05-28 23:13:58 | スウェーデン・その他の政治
インドに次ぐ、世界で二番目に大きな民主選挙であるヨーロッパ議会選挙(欧州議会選挙)が先週末、開催された。有権者数は約4億人で、選挙で選ばれる議員の数は全部で751人

この751議席は全加盟国28カ国の人口に応じて配分され、スウェーデンは20議席を与えられている。この20議席を巡ってスウェーデンでは選挙が行われた。

前回、5年前のヨーロッパ議会選挙のときは、ある党のヨーテボリ支部の人たちが借りきったレストランで、みんなで夕食を食べながら、公共テレビの開票速報を見て、大騒ぎしていた。

その翌年の国政選挙の時は、公共テレビSVTの出口調査員として、投票を終えた人にアンケートをした。

今回の選挙では実際に選挙に関わってみたいと思い、ある自治体の投票所で投票立会人をすることにした。その話は次の記事で書くとして、まずはスウェーデンの選挙結果。



選挙日当日の仮集計における各党の得票率(カッコ内は前回5年前との比較)
一番下の数字は、獲得議席数


現在、ヨーロッパの国々では極右の風が吹いているとして注目が集まっているが、スウェーデンではむしろ、左の風が吹いていると言ったほうが良い。(左派政党は上の赤系の色の党、および環境党)


【 穏健党の惨敗 】
スウェーデンの中道保守連立政権の中心的存在である穏健党(保守党)自由党は大きく後退した。穏健党に至っては国政選挙も含め過去44年間で一番低い得票率だった。国内政治では連立政権に逆風が吹いており、その影響もあるとは思えるが、それ以上に穏健党は選挙キャンペーンにおいて有権者が関心を持つような具体的なテーマを提示して、説得力のある政策主張を打ち出すことができなかった。それが惨敗の原因であろう。

特に今回の選挙に先駆けた世論調査では、有権者が大事だと思うテーマの上位に「環境問題・地球温暖化」「男女平等」が並んでいたが、私の記憶するところ穏健党はこれらのテーマについて特に目立った政策主張を行っていなかった。


【 環境党の大躍進 】
今回の選挙結果におけるサプライズは2つ。

一つは、環境党が大躍進したことだ。国政選挙の世論調査では10~11%ほどの支持率なのだが、今回のヨーロッパ議会選挙では一気に15.3%まで支持を伸ばした結果、穏健党を打ち破って第二党に躍り出た。5年前の選挙と比べても大きく躍進し、議席数を1つ増やした

環境党の支持が強いのは、都市部の若者や子育て世代、そして、大学教育を受けた人が多い地域だ。かと言って、必ずしもエリート政党というわけではなく、10代や20代前半の若者にも根強い人気を誇っている。ストックホルムでは、ストックホルム市ストックホルム県で共に第一党に輝いたし、ヨーテボリ市ウプサラ市でも第一党となった。


ストックホルム県全体における投票結果


ストックホルム市における投票結果


ヨーテボリ市における投票結果


ウプサラ市における投票結果


【 フェミニスト党のラストスパート 】
もう一つのサプライズは、フェミニスト党の議席獲得。この党は2006年の国政選挙の時に立ち上がった党だが、その後の選挙でも目立った支持獲得ができず、ずっと0.5~2%前後の支持率で推移してきた。今回の選挙では半年ほど前から目立ったキャンペーンを始め、ニュースでも取り上げられるようになっていったが、まさか5.3%にまで達するとは殆どの人が考えてもいなかっただろう。

掲げる政策は、男女平等、反レイシズム、反差別。フェミニスト党の支持者にはもちろん女性が多いのだが、それに加えて、20代~30代前半で男女平等に関心が高い男性の票も獲得している。スウェーデンは世界的に見ると男女平等が進んでいるものの、国内ではまだまだ進展が遅いと感じている人も多い。そのような潜在的な支持者の心を、主にホームパーティー(誰かの家や集会場、レストランを借り切って開く少人数の集会)を通じて掴んでいった。


ヨーテボリ市内のある投票区における投票結果。ヨーテボリのこの辺りは左派・リベラルの支持者が多いことで有名だが、フェミニスト党が環境党を押しのけて、第一党になっている。右派・保守系政党は絶滅危惧種


【 スウェーデン民主党の議席獲得 】
一方、極右政党であるスウェーデン民主党については、前回2009年のヨーロッパ議会選挙と比較すると6.5%ポイントも得票率を伸ばし、議席を初めて、しかも2議席も獲得したのだけれど、それほどのサプライズではなかった。この党は2010年の国政選挙においてスウェーデン議会で初めて議席を獲得して以降、6~9%の支持率を推移してきたから、今回はそれより少し得票率を伸ばすだろうと見られていたが、やはりその通りだった。だが、あまりラストスパートはかからなかった

個人的には、この党の候補者がテレビの朝の番組に出て、党のホームページに書いてある公約の一つ(EUは輸入関税を引き上げてEUの予算に充てるべき)についてアナウンサーに尋ねられた時に「そんなことは公約にない」と言い張って、アナウンサーに「つまり、あなた方の党のホームページに書いてある公約は当てにならないということか」と追求され、オドオドしながら「私たちの政策の一つの例にすぎない(?)」と必死に言い逃れしようとしていたのが印象的だ。経験も教養・素養もない候補者を立てて、欧州議会で本当に仕事ができるのかと心配になってくる。

この党の支持者は、環境党とは対照的で、農村部の中卒・高卒の人、そして、スウェーデン南部のスコーネ地方に多い。社会の変化の早さについていけない人々の不満を集めて支持を拡大してきた。(ちなみに、スコーネ地方はもともとデンマーク領で比較的最近、スウェーデンに編入された地域だが、この地方でいつの頃からかスウェーデン民族主義を掲げる極右政党が強くなっていったのは、非常に興味深い現象である。弟コンプレックス的なものが絶対にあると思う)


スコーネ地方の、ある市の投票結果。

極右政党が第一党となったり、大幅に議席を伸ばしたヨーロッパのいくつかの国々と比べ、スウェーデンでは「茶色の風」はあまり吹かなかった、と開票番組の中で誰かが表現していた。開票作業の終わりのほうで、この政党と正反対のイデオロギーを持つ自由党との間で第四党の座を争っていたのが印象的だった。(結局、自由党が僅かに勝った)


【 生き残った中央党とキリスト教民主党 】
私にとって意外だったのは、中央党とキリスト教民主党が生き残ったことだ。キリスト教民主党のトップ候補者は、公共テレビSVTでかつてジャーナリストをしていた有名人なので、まあ分かるが、中央党は政策主張もパッとしない(豚の尻尾)し、トップ候補者もインパクトの薄い中年男性だった(討論を見ていて個人的に嫌いではないのだけど)。候補者リストの3番目に名前のあった若い男性が若者の支持を繋ぎ止めたのだろうか?


【 海賊党 】
前回、5年前のヨーロッパ議会選挙で注目を集め、大躍進を遂げた海賊党は今回は全くダメだった。現在、一連のスノーデン事件でインターネット上の監視や自由について関心が高まっている時だけに、少し不思議ではあるが、ほとんどキャンペーンをしていなかったように思う。街角でたまに「監視のないインターネットで自由にダウンロード」というスローガンを目にしたのだけど、若者の心には届かなかったようだ。


【 ほとんど変化のなかった社会民主党 】
社会民主党は、前回の選挙とほぼ変わらず。国政選挙における得票率や、国政選挙を想定した世論調査における支持率に比べると10%ポイント近く低いが、党としては満足しているようだ。テレビの開票番組ではジャーナリストが「スウェーデンでは左の風が吹いたが、その風は社会民主党を迂回して吹いていった」と表現していた。

ただし、社会民主党のような大政党の得票率がヨーロッパ議会選挙で低くなってしまうのは、ある程度、仕方がない。国政選挙ではどの党が政権を担うか、どの党と組んで連立を構成するかなどといった政権問題が常に有権者の頭にあるので、自由に党を選んで票を投じることが難しい。これに対し、ヨーロッパ議会選挙では有権者はそのような戦略的思考の制約を受けないので、より自由に投票ができる。そのため、大政党よりも特徴のある中小政党(例えば、環境党、フェミニスト党、極右政党)が得票を伸ばす傾向にある。


【 少し伸びた投票率 】
今回の投票率は48.9%と、5年前の45.5%よりも4.4%ポイント上昇した。ヨーロッパ議会の権限が近年、増してきて、具体的な政策議論がしやすくなったことに加え、メディアもより多くの時間を割いて選挙キャンペーンを取り上げたことで、スウェーデンの有権者にとってもEUの政治がより身近なものに感じられたことが背景にあるのだと思う。

ただし、国政選挙の84.6%(2010年)と比べるとまだまだ低い。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (popolo)
2014-05-29 12:56:09
参考になる最新レポート、ありがとうございます。
それに比べ日本の議会政党構成・・ため息が出ます7974
Unknown (中野多摩川)
2014-05-29 22:08:18
フランスでは極右政党が躍進とのニュースを見たものですから少し不安でしたが、スウェーデンではそれほどでもなかったとのこと。ちょっと安心しました。

Unknown (Yoshi)
2014-05-30 00:04:17
スウェーデンでは、極右政党の得票率が上昇しましたが、一方で、反レイシズム、反差別を掲げる環境党やフェミニスト党がそれ以上に躍進しており、そのような勢力の台頭を許さない人たちが増えているように思います。

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