古今の史家や研究者が、一様にカエサルに魅了されて悪く言うことが出来なくなっていると言われている。
四十代までは、借金漬けの痩せ型で背の高い額の後退した普通の容姿の男が、列をつくって自分の順番が来るのを待つかのごとく、上流婦人を総なめにしたそうなのである。
生真面目なこれらの学究の徒達は、なぜカエサルはあれほど女にモテ、それらの女達から誰一人として憎まれなかったかという、重要な秘密についてなぜか研究し説明していない。
この点では、塩野七生女史は抜かりがない、きっちりと判り易く説明してくれた。
モテるだけなら俳優や歌手や金持ちや沢山の美男がモテたはずだが、モテた女から恨みを買わなかったのは、女を怒らさなかったからだという。 女が怒り恨みを抱くのは、貢いだ男が無情に縁を切り寄りつかなくなったときだという。
カエサルは、
第一に、愛する女を桁違いに豪華な贈り物攻めにした。
(これでは膨大な借金が出来るはず)
第二に、愛人の存在をだれにも隠さなかった。
公然たる愛人となると、女は愛人であっても不満を感じないのだそうである。
第三に、ものにした女性とはだれ一人とも決定的な関係の清算をしなかった。
(新しい愛人が出来ても、古い愛人達になにかれと良く面倒をみた)
塩野女史の分析では、女が何よりも傷つくのは、男に無下にされた場合であり、女と大衆とはこの点で全く同じだという。
日本には、民衆を無下にしない政治家や官僚がいるのだろうか。