杉の森が、神々の住むところだという考えは昔から日本人の心に根差していたようだ。
石上布留の神杉神さびし
恋をも我は更にするかも
万葉の古歌にも、神杉という言葉があり、杉の樹が神と崇められていたことを示している。
同じく万葉に、三輪山の杉が出て来る。
昧酒を三輪の神が斎(いわ)ふ杉
手触れし罪か君に遇いがたき
三輪とは大神(おおみわ)神社(桜井市)のことで、この社には本殿がなく、三輪山を神体とする。現在の三輪山はアカマツの山林となっているが、遠い昔は杉で覆われていた。この杉が神木で、この樹に触れることはタブーだった訳で、この恋歌は、神の禁忌を侵した報いかと、恋人に遇えぬ心を詠っているのだろう。
30年ぐらい前から三輪山に登ることが許可された。案外に急な山で汗をかいた覚えがある。当然のことながら、「遇いがたき」人に遇えぬ。