もう六年近くになるのか。作家の城山三郎が逝ってから。
公正公平でぶれない人間の代表のように評価された。経済小説という分野を開拓した作家だが、この分野のみならず戦時中の上官たちの無様な姿を描き、足尾鉱毒事件を指弾した田中正造の最晩年を優しく描いたり、弱い者や使われる人の立場を常に擁護した。その城山が若い頃、アメリカ人の作家から受けた印象に残る一文を思い出している。それは、一人の人間の中に四人の人間が生きているべきだというもの。
一つ目は探検家。自分の中に探検家は健在ですかと問う。探検家の意味は人それぞれが解釈していい。
二つ目は芸術家。夢を見る力、芸術的とも言える構想力、そういう才能はちゃんと生きていますかと問う。
三つ目は判事。管理者と言ってもいいんだけど、そういう判断力はしっかりしてますかと問う。
四つ目はソルジャー。命がけで闘うことができますかと問う。
この四人が一人の人間の中でしっかり確立していないとだめなんですよ、と城山は言う。
むつかしいと思う。企業の責任者や政治の指導者は言うに及ばず、むつかしいことだが誰でもがこの四人の人間を自分の中に備えているのが望ましいとは思う。言うは易しく・・・。