自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

渡水看花

2013年03月04日 | Weblog

 
 『旅でもらった一言』という、俳優の渡辺文雄(1929-2004)の本を何気なしに開いて読んだ。この人の文を読むのは初めてだ。実に読み易い。感心した。題名の通り作者が旅の最中に話をした人の一言についての感想、後日談などを集めたアンソロジーである。その最後の話を。

    渡水看花

   渡水復渡水
   看花環看花
   春風江上路
   不覚到君家
 (水を渡り、復(ま)た水を渡り、花を看て環(ま)た花を看て、春風江上の路、覚えずして君の家に到る。)

 明代の高啓の作。友人の胡隠君を訪ねた有名な詩だそうだ。何の不思議もない情景描写のように思えるが、最後の「君」について議論があるそうだ。「君」は阿弥陀様のことだとの解釈があるらしい。渡水看花とは来世に行く風景。死出の旅路は恐ろしくない事を詠んだ詩との解釈があるらしい。
 そして、作者・渡辺文雄が肯いているのは、この詩は、逝った人に贈る詩でもあるが、見送る人がこの詩で和むのだ、という事である。僕はそうかも知れないと思った。