自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

春の海

2011年04月05日 | Weblog

   春の海終日(ひねもす)のたりのたりかな

 言うまでもなく蕪村の句。
 おだやかな春の海。作者は海に来て一日遊んでいる。風らしい風も吹かず、沖は霞んでいて、その霞は渚に立つ作者の畔まで来ている。大きな波は立たず、海全体が、ものうく、しずかに、渚に寄せて来ては、返す。「のたりのたり」は「のたる」を重ねた語で、のたるは、はいまわるの意。春の海を表現するのに最も適した言葉だと言えよう。「ひねもす」という言葉にも春の日永の感じがよく出ている。
 何年前の春だったか、熊野灘を見下ろす高台から見た海は、蕪村の「春の海」そのものだった。
 巨大津波に襲われた三陸海岸も今は春の海だが、例年の春の海とは趣を異にしていることだろう。瓦礫が溜まっている海、行方不明の人が、もしかしたら溺れ亡くなっている海。福島第1原発からは放射能が海に漏れ出している。高度に発達した科学技術をもってしても修復し難い状況。水田は塩害で2、3年は稲を植えることは出来ないだろう。
 被災された方々は、とても蕪村の気持ちになれないのではないか。しかし、しかし、来年も春は来ます。