原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

過去に生きて、何が悪い。

2015年05月19日 08時44分58秒 | 社会・文化
長い人生を大きく分類すると、未来に生きる時、今に生きる時、そして過去に生きる時に分けられる。若い時は未来しか見ていないし、壮年時は現実の戦いに明け暮れる。晩年となり現役を遠のいた後は、ゆっくりと過去の自分を振り返る。すべての人がそうだとは言わないが、多くが辿るパターンでもある。還暦を超え定年を迎え、年金生活を送る年代にとって、過去というものは一つの財産でもある。それは何人も否定できない。

ある女性の話を聞いた。小さな町で結婚し、子供を育て、成長した子供は結婚し、孫が生まれる。人生だからその間いろいろあったであろうが、それなりに過ごし、孫もある程度大きくなり、ひと段落がついたと思ったら、連れ合いに先立たれた。その時、古希を迎える年代になっていた。
そんな折、一人の男性が家を訪ねてきた。その人は懐かしい人であった。青春を駆け抜けた時代の友。結婚をするかもしれないと思っていた二人であった。だが、二人は結ばれなかった。不器用な若い時代の微妙なすれ違いが、そうさせたのであるが、結婚という現実に進めなかった何かがあったことも確かであった。微妙なすれ違いが生んだわずかなわだかまりを残して、長い時が過ぎていた。
だが二人は再会した瞬間、その過ぎ去った時と、心の片隅に残っていたわだかまりが解消していた。古希を超える歳となっても、青春時代の思い出は少しも色あせるものではない。まして思い出すことは良いところばかりの上澄み状態だから、話がはずむ。誰でも経験していることだからよくわかると思う。昔の話をするだけで時代がそのまま蘇るのだ。話をしているだけで高校生や中学生の自分になれる。なにも畏れるものがなく、ただがむしゃらに生きていた時代の血が自然にわきあがり、活力になる。まさに晩節を迎えた人が、過去を生きるという状況はこういうことを言うのではないだろうか。思い出が財産となり、生きる糧となる瞬間でもある。
再開した二人はお互いに相方に先立たれていた。その気楽さもあり、その後たびたび連絡しあうようになる。住んでいる街が違い、簡単に行き来できる距離ではないから、電話で話しをする程度のものである。これを恋の復活とか、恋愛感情と思うのは、まさに下種の勘繰りというべきもの。いまさら生々しい話などになる歳ではない。まして結婚とか同居とかという話などあるわけがない。過去という二人だけにしか分からない空間に心を浮遊させるだけのことなのである。心を躍らせるようなことがきわめて少なくなった晩節に、彩り与え、豊かに過ごせる時間が生まれたことは言うまでもない。こうした二人を温かく見守ってやるのが周りの人の務めだと思う。ほっとした風が吹くような心地よさを感じる。話を聞いた時、こう思った。
ところが、この話に異常に敵意をむき出しにする人がいたので驚いた。私的には、なぜ?という疑問符がつく。せっかくの良い話が醜聞に変わっていたからだ。「いい歳をして男ができて」と周りに言いふらす。あたかも老いらくの恋に狂った女であるかのような風聞を立てる。想像するに、この敵意をむき出しの言動には、それまでのこの人との関係性にその原因があるのであろう。日ごろからあまりよく思っていなかった人への感情がこの話を違う方向に歪曲させているのだろうと。
かの女性(男性と再会した人)がどんな人であったのかについては私には分からない。ひょっとすると周りに悪感情を掻き立てる性格の人であったかもしれない。もし仮にそうであったとしても、この話を歪曲化させ醜聞として周りに吹聴した時点で、敵意のあるその人の正義はすべて消滅する。相手を非難する資格まで失っていることに気づくべきだ。悪口を言いふらす人の品性こそ真っ先に疑われるものだからだ。スキャンダルに心を躍らせる愚かな人間はすでに否定される時代になっている。女性週刊誌みたいな話をすること自体が、もはや滑稽な時代なのだ。にもかかわらず、この話をさらに広めようとする周辺のムードも垣間見てしまった。尾ひれがついた話も生まれている。残念な思いと何とも言えない後味の悪さが残ってしまった。醜聞を言いふらす人たちよ、その愚かさに気付いてほしい。そして、人の品性にかかわる話には、迂闊に乗ってはならないことを。

古希という立派にいい歳を迎えた人になったなら、「過去に生きる」ことも一つの生き方なのだ。若者にはまさしく無縁の言葉ではあるが。

道東の春は満開となった。5月16日に八重桜が満開。これがサクラの最終となる。わが山の野草たちもいっせいに花を開き始めた。ニリンソウ、オオバナエンレイソウ、などなど。華やかな競演がこれからさらに続いていく。世の中のいやな空気はこうして洗い清められていく。

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