原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

ウチダザリガニがいた!

2009年07月17日 09時51分47秒 | 自然/動植物
わが庭、軍馬山には二子池という人造の池がある。山間を流れる沢をせき止めてできた水たまりである。トンボやカエルなどが水草の中で生息できるようにと造られたもの。山を散策する人にとっても良い休憩所となる。この池を何げなく覗いている時、底を蠢く影を見つけた。この池には魚はいない。その形体はどこから見てもザリガニ。ハサミの付け根にある白い斑点からウチダザリガニと分かった。なぜこんなところに?疑問が頭を巡る。

(二子池。ウチダザリガニはきれいな水のところに生息する)

沢の上流は湧水。これが源泉となる。ウチダザリガニが自然発生するという環境ではない。誰かがここに放流したとしか、考えられない。そもそも、ウチダザリガニという名前から、日本古来のザリガニに思うかもしれないが、これはれっきとしたアメリカ原産の帰化種。しかも、固有種であるニホンザリガニとほぼ同じ環境で生息。ニホンザリガニを駆逐する元凶として、駆除が求められている種類なのである。

学名はPacifastacus Trowbridgii、英名をSignal Crayfishという。ハサミを振り上げるように行動し、付け根にある白い斑点が信号を送るように見えるところから英名となった。和名となったウチダザリガニは、北海道大学の内田享教授の名前から付けられたもの。教授がザリガニの標本を持っていて、種を特定する際、役立ったということでその名前がついたという。

このウチダザリガニが日本へ帰化するきっかけとなったのは、1926年。食用として北海道の湖沼に放流されたのである。昭和初期の日本は深刻な食糧難の時代であったらしい。同じ時期、芦ノ湖にはブラックバス(ラージマウスバス)も放流されている(遊びと食用の目的)。摩周湖にはチップスなどともにウチダザリガニも放流され、透明度を一気に下げる要因となっていた。

国の政策であったのか、地方行政の独断であったのかは分からないが、当時の官僚や生物学者はこうした放流の影響がいかなる結果を生むかなど全く考えていない。開発という名で森林伐採を続け、その穴埋めに成長が早いという理由だけで杉の木を植林。現在のスギの花粉によるアレルギー問題を日本にもたらした。それと同じ意味で、ウチダザリガニの放流は完全な行政の愚策であった。固有種の絶滅へと導いただけでなく、生態系にも深刻な問題を投げかけた。ブラックバスと同じ展開である。阿寒湖のマリモがこのザリガニで傷つき、数を減少させた。釧路の春採湖ではヒブナの産卵に重大な影響を与え、駆除作業に毎年多くの人がかりだされている始末だ。

(標茶高校の生徒が捕獲したウチダザリガニ)

ウチダザリガニが特定外来生物に指定されたのは2006年。放流からなんと八十年後である。すべてに手遅れといっていい。これが、わが町の小さな池に生息するウチダザリガニの背景であった。この沢の上流にはニホンザリガニが生息している。獰猛なウチダザリガニは固有種を完全に駆逐する。標茶町でもこの駆逐には力を入れはじめた。標茶高校の生徒が時折、二子池でウチダザリガニの駆除を行っている。しかし、彼らの繁殖力は人間の行動よりはるかに早い。池さらいをした数日後には、再びその姿を見せるのである。まるで地面から湧き出ているかのようである。抜本的な解決方法はもはやないのかもしれない。

(レイクロブスターの名前で登場。阿寒湖畔で食することができる)

ある日、このウチダザリガニをメニューにしているレストランが阿寒湖にあることを聞いた。もともと食用として輸入されたもの。食べられるはずだ。フランス料理ではエクルビスという名で知られている。みんなで食べればその数も減少させる可能性もある。早速その味を試してみるため阿寒湖へ。
湖畔では数軒のレストランで食することができる。ここではウチダザリガニは「レイクロブスター」と呼ばれていた。コロッケやスパゲッティに使われていた(1200円)。その味は、残念ながら、ロブスターとはほど遠い。味は好き好きがあるので、何とも言えないが、名物となるほどの味ではない。阿寒の思い出に、というのが精一杯かも。それにしても、あまりにも宣伝不足。ほとんどの人が知らないのだから、その数を減少させるほどの効果は期待できないようだ。
現在、ウチダザリガニは阿寒湖の漁業組合の管理のもとに養殖され、東京にも出荷しているという。一部のマニアにでも好まれれば幸いである。

行政の不手際は後世の人にとって大変迷惑な事態となることの証明である。現在の政治家のドタバタ、どうしようもない官僚の愚策。そろそろ、国民も気づかなければ。ウチダザリガニの例を出すまでもなく、すでに日本は大変なことになっているのだから。

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3 コメント

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西洋VS日本 (numapy)
2009-07-18 09:03:04
外来種が在来種を駆逐する。生態系を狂わせる。
こういうことがあまりにも多すぎますね。
阿寒でも外来種の虹鱒が在来種の山女を駆逐してる。
何しろ生命力と、大きさが違うんです。
これは日本人と西欧人の体格の違いと同じです。
いずれ日本人は西欧人に食われてしまうのかもしれない。
それにしても、生態系に無頓着、イマジネーション不足が多すぎる。ことに中央役人に多いですね。
成績優秀で中央の役人になった人々は、幼児から優秀で、秀才だった人たちが多い。子どものころから「オレはお前達と違うんだ」という不遜な育てられ方をしてる。官僚国家のゆえんですね。情けない!
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官僚の自信。 (原野人)
2009-07-18 14:44:47
あの自信はいつ、どこから生まれたのでしょうか。きっと、戦後です。戦争で将来の日本を背負う有能な人材が戦禍に消えていきました。戦後の日本の復興は、この有能な人材がいないため、個人戦から団体戦に切り替えました。その時、官僚という団体が日本を仕切ったのです。確かに戦後の復興には大きな力になりました。しかし、それでやめればよかったのに、自分たちが構築した組織と利権を守るために、変質し、今の姿となったと理解しています。
政治ははたしてこの官僚国家を打破できるのでしょうか?政治家に期待する方が間違いですね、きっと。
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なるほど団体戦ですか。 (numapy)
2009-07-18 20:16:01
それなら政治家は官僚に勝てないですね。
政治家は個人戦ですからね。
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