原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

北海道の馬

2009年03月13日 10時25分11秒 | 地域/北海道
塘路湖畔にある「安部せいすけ牧場」を訪ねた。“せいすけ兄い”は生まれついた時から塘路の人。湿原の主でもある。釧路湿原のことなら何でも知っており、私の師匠でもある。郵便局に長い間勤め、民営化の話題が出る前にさっと退職し、牧場を始めた。馬について何も知らない私にとって、北海道の馬のことを知る機会を与えくれた人でもある。馬と標茶町の関わりも深い。北海道の歴史と馬は一つの道でつながっていた。

(安部せいすけさんにすりよる愛馬たち)

まだ雪の残る牧場で十数頭の馬がくつろいでいた。人が来るとすぐ近づいてくる。なかなかに人懐っこい。馬を見ていて、これが道産子かな?という疑問がわいてきた。馬音痴の私にとって、北海道の馬は全て道産子なのである。しかし、農耕馬のはずの道産子と明らかに体形が違う。聞いて分かった。トロッターだのアングロノルマン、アラブだの、じつに様々な名前が登場してくる。外国産馬の血がたくさん入っているのだ。これには北海道産馬開発の歴史が深くかかわっていた。

北海道和種馬、つまり道産子が誕生したのは江戸時代。夏の間に使役のために連れて来た南部馬が冬の間に放置され野生化。北海道の気象に適合して逞しい道産子が誕生したのである。現在、日本の古来和種馬は八種類ある。中でも道産子は数が一番多く、和種馬の75%を占めるほどであるという。
北海道開発には欠かせない道具の一つとして道産子が重宝がられるとともに、その改良も同時に進行していた。明治20年には、乗馬用としてトロッター種(欧米が原産)、農用馬としてペルシュロン種(フランス原産)が奨励種として指定され、外国馬を導入して馬の品種改良が早くから進行していたのである。その流れが今も残っているのだ。特に軍馬としての馬と、農耕用の馬ではその用途から言って明らかに違いがある。二つの道に分かれ改良されたのであった。安部せいすけ牧場は乗馬用の馬を育てていた。農耕用のたくましさが売り物の道産子とは違っていたのは当然であった。
しかし、南部馬が道産子になったように、また北海道で生まれた人が全て道産子と呼ばれるように、どんな血統が混じろうと、北海道で生まれた馬はすべて道産子と呼んでいいのではないのだろうか。サラブレットもしかり、あの名馬シンザンやテンポイントの子供も北海道で生まれている。名馬の子孫たちもまた道産子と、私は呼びたい。サッカーの「コンサドーレ」だって、道産子の逆読みではないか。


標茶町は馬の生産とも深くかかわっている。町の発祥のきっかけとなった釧路集治監(網走刑務所の前身)が明治34年に閉鎖。その跡地が明治41年から軍馬補充部川上支部となった。軍馬を供給する基地となったのである。司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」によれば、日露戦争(明治37年)で活躍した秋山真之(当時中佐)がロシアの騎兵隊の強さを見て日本軍の騎馬兵の充実を進言している。北海道における軍馬補充部の設立は日本軍の増強の一翼を担ったものであった。馬の改良もまた一層拍車がかかっている。この軍馬補充部は昭和20年まで継続していた。軍馬補充部も今はなくなり、昔のような牧場も少なくなってはいるが、同じような経過をたどった釧路の大楽毛では、今でも全国一の規模の馬市が開催されている。標茶町の発展の一翼を担った馬産事業であることを理解すると、牧場の馬もより身近で大切な資源のように見えてくる。

(牧場内に姿を見せるタンチョウ)

北海道和種は山林原野に周年放牧して飼育するのが基本。安部せいすけ牧場でも、夏冬とも敷地内を自由に馬たちは駆け回っている。牧場内は自然そのもの。そうした環境のせいであろう、塘路湖周辺にいるタンチョウが牧場に遊びに来る。馬とタンチョウが調和して生活していた。牧場でみるタンチョウの姿が鮮やかなほど凛として見えていた。これも自然のなせる技の一つなのだ。


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2 コメント

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道産子! (numapy)
2009-03-15 10:06:57
>南部馬が道産子になったように、また北海道で生ま>れた人が全て道産子と呼ばれるように、どんな血統>が混じろうと、北海道で生まれた馬はすべて道産子>と呼んでいいのではないのだろうか。

そう思います。もっと言えば、北海道の一冬を越した
動物も人間も植物も、道産子ならぬ、“道賛子”、
“道燦子”、道讃子”、“道サン子”と呼んでもいい。
そんな気持ちになりますね。“道燦子”集合!キャンペーンでも仕掛けますか?
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なるほど。 (原野人)
2009-03-16 09:33:03
ドサンコキャンペーンは面白いですね。結構、いますよ。あの高橋知事も移住者ですから。
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