原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

酒はそんなに「悪」なのか。

2013年02月12日 07時58分47秒 | 社会・文化

 

酒、つまりアルコール系飲料のこと。日本酒、ウイスキー、ビール、ウォッカ、ジン、ワインなどなど。ま、その種類は果てしなくある。国々に酒があり、人類の歴史上もっとも古くからある嗜好品である。ところがこの酒類に関する評価はすこぶる良くない。最も厳しいのはイスラム教徒。彼らのコーランには、酒は背徳。悪魔であってアッラーを礼拝するのを妨げる。とまで断じている。この宗教を主とする国では当然ながら禁酒令が発布されている。外国人はその限りではないが、飲みずらい雰囲気が漂う国となる。欧米は自由かと言うと、それがそうでもない。意外に制限のある国が多い。

 

理由はプロテスタント系のキリスト教徒の教えだ。この宗派はアルコールへの警戒心がことのほか強い。20世紀前半には各国で禁酒令が敷かれていた(期間はあまり長くはなかったが)。アメリカ、カナダ、旧ソ連、アイスランド、ノルウェー、フィンランドなど軒並みである。アメリカ合衆国は今でも州によってはかなりの制限がある。スウェーデンでは現在でもシステムボラゲットという酒店でなければアルコール飲料を買うことができないし、本数制限だってある。

世界一般的な通念とは思えないが、どこか酒類は「悪」の烙印を押され、それを好む人間は悪役になりがちなのだ。『あの人は酒飲みだから』という理由で評価され、『酒は飲めません』などと宣言すれば『君は真面目なんだね』と、理由のよく分からない評価をされる。

たしかに、飲酒運転による事故やアルコール依存症の増加など、問題があることは理解できるが、それで酒が悪であると決めるのは短絡的過ぎる。酒を飲む人の心構えの問題の方がはるかに大きい。その人間性よりアルコール飲料の持っている特性の方を問題としてとりあげるのは、いかにもおかしな理屈だ。このことを指摘すると必ず、当然その面での矯正もやっているとか、酒がなくなればより良くなるからだと反論する輩がいる。果たしてそうだろうか、大いに疑問だ。なぜなら、もし世界的にアルコール飲料が禁止されたとしても、絶対に替わりのモノが登場する。それは現実が証明している。

チャット(カット)を売る人 

ケニアを旅している時、露店で売っているホウレンソウのように束ねた植物を見つけた。これは何だと聞くと、「カット」だという。ミラーとかチャットとも言う一種の麻薬である。この草の葉をそのまま噛みくだき、頬にため、流れ出る汁を飲むと、覚醒作用を生む。飲酒した時のような気分になる。ケニアはイスラム教の国。酒類は禁じられている。その代わりに登場したものだ。どうやらアフリカのみならずイスラム圏では結構使われている。ただ大麻などの麻薬ほど効き目は強くはないらしい。

アジアにはビンロウというものがある。ヤシ科の植物。噛みタバコに似た使われ方をする。ビンロウを細かく切り、キンマというコショウの葉でくるみ、少量の石灰と一緒に口に入れかむ。唾液と混ざると口の中が赤く染まる。この汁は飲まないで吐き出すのだが、こうしているうちに軽い興奮や酩酊感が得られる。タイやインドネシアで口の中を真っ赤にしている人を見かけたら、このビンロウをかじっている人たちである。これもまたイスラム教徒の酒の代用品なのである。

台湾にもある檳榔屋(びんろうや)も同じものを売っているが、ここは怪しげな女性の店であり、風紀上よろしくないということで、近年、禁止となった。

 

これがビンロウ

いうまでもなく、酒類を禁止したところで、人間はそれに代わるものを見つけていく。つまり人間の道徳とか人間性の向上を求めていかない限り意味のない禁酒令となってしまうということなのだ。酒を飲んだら車を運転しないとか、依存症になるほど飲まないとか、自分を見失うほど酒に酔わないということ、などというものは極めて個人的な常識の問題で、酒だけの問題では決してないということである。

 

ほとんどの人は知らないと思うのだが、報道によると、WHO(世界保健機関)が2010年5月に、酒類の販売・広告を規制する新指針を全会一致で採択した。大量の飲酒による健康被害や未成年の飲酒防ぐため、課税による価格引き上げや販売時間の制限などの対策を示した。飲み放題の制限にも言及している。これは一般の人への警告というより酒メーカーへのプレッシャーなのだろうが、なんとも愚かな規制だと断じたい。「のみ過ぎに注意しましょう」などという文言を商品に張り付けて販売するタバコ同様。無駄な会議に時間を費やすWHOを物語っている。

このWHOは、これまでもかなり頓珍漢であった。とくに2006年の選挙の際、中国のごり押しで新事務局長となったマーガレット・チャンの登場以来おかしい。陳馮富珍という香港人だが、鳥インフルエンザ対策やSARS感染に実績があったとされている。が、SARSでは初期対策に失敗し世界に感染させた責任を香港で追及された人物である。しかも豚インフルエンザにおける中国での現地調査に制限を加え、中国擁護の立場を崩さなかった。こんな人物がリードするWHOこそ問題であると言わざるを得ない。実際に現在起きている、北京の大気汚染は地球規模の大問題のはず。それに対していまだにWHOからの発言が一つもない。酒類の規制を考えている暇があるなら、中国の大気汚染を真剣に考えろ、と言いたい。

 

酒は百薬之長と言う古いことわざがある。つまり適量の飲み方だ。脳梗塞は飲酒経験の少ない人の方が発祥が少ないというデータもある。HDL・コレストロールを増加させ、末梢血行の改善(冷え性をよくする)、ストレス解消、コミュニケーション空間をつくる、などメリットも多い。

つまり、酒を飲んでも呑まれるな。この精神を知っていればいいだけのこと。酒があまり好きではない私が言うのだから間違いない。


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3 コメント

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WHO・・・ (numapy)
2013-02-12 09:11:20
そうでしたか、WHOがそんな採択をしてたんですね。
その背景は何なんでしょう?
高血圧の規定数値が何年か前、WHOの指導によって下げられました。正常数値を下げることによって、降圧剤メーカーは大量の降圧剤を売ることができる。すると研究費としてWHOに寄付金が入る。そんな回路ができていると言います。
おっしゃる通り酒の悪影響より、中国の環境汚染を討議したほうがどれだけ人類にいい結果をもたらすか?
酒は基本的には良薬です。時々、後悔もしますが…。
見ている方向が違う。 (genyajin)
2013-02-12 10:32:21
WHOが酒類の規制を採決した理由は、年間200万人に及ぶ死亡者が酒がらみだと言うところから提案されたようです。注意を促す意図もあったのでしょう。もちろん、罰則規定のないたんなる提言ですから、意味はあまりないとも言えます。何か仕事をしているよと世界にアピールする目的の方が強かったのかもしれません。頭を悩ます方向が間違っているのです。
特にマーガレット・チャンは中国にべったりですから、ご用心と言いたいでうね。ちなみに2006年の事務局長選挙では日本人の候補者でほぼ決まりであったところに、中国がごり押しして逆転当選をしたという経緯がありました。鳥インフルエンザ、サーズが世界的に問題化していた時です。うがった見方ですが中国のうすら寒い意図を感じさせます。
酒害は大きい (takayuki geshi)
2019-08-27 20:05:47
日本では酒は良いものだという広告と世間常識がありましたが、多くの酒害者が発生して規制が加えられてきています。不完全で健康問題のみですが、アルコール関連健康法が施工されたばかりです。教育における酒害、医療における予防、職場でのアルハラなどの押し付け廃止など、これからです。

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