原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

キジバトは、子育てに授乳をするらしい。

2011年05月13日 08時13分30秒 | 自然/動植物

 インターネットを探っていると、時折とんでもないものにぶつかる。ま、それが面白くて暇を見つけてはインターネットの海を彷徨う。今回見つけたのがキジバトの授乳話。神戸新聞の連載記事の一つであった(たぶんかなり前の記事だと思う)。記事の作者は近大姫路大学の内山裕之先生。キジバトが卵からかえった雛鳥を育てるために人間と同じように授乳をするという話であった。たまたま阿寒の森でキジバトに遭遇して撮影したばかり。さっそくブログに活用させてもらった。キジバトは普通に観ることができる。人気もそこそのヤツだが、何やら急に貴重な野鳥に感じた。

北海道はもちろん日本全国に棲みついているキジバト。ハト目ハト科の野鳥だが、ドバトと違ってちょっと色彩が豊か。最近は街中でもよく見ることができるヤマバトである。全く知らなかったのだが、このキジバトには繁殖期が無い。無いというより確定していないと言う方が正しい。季節を限定せず産卵、子育てをする。普通、野鳥の繁殖期は春というのが相場。タンチョウやアオサギはもちろんスズメもセキレイも巣作りに没頭する時期だ。というのも、春は餌が豊富だからだ。昆虫なども活動を始める。この昆虫が雛鳥の餌になる。だから野鳥の子育ては春に限定されるのである。木の実しか食べない野鳥でも子育てには昆虫を食べさせる。雛鳥の成長にはやはり昆虫などのような高タンパク質の栄養が必要なのである。野鳥が春以外に子育てをしないという理由はここにある。食糧事情がそうさせていたのである。

人間を振り返ってみると、人間は子育ての時期というものが決まっていない。なぜなら、人間は大昔から食料を貯蔵すると言う知恵を得ていた。そのために食糧難の冬を意識することなく子育てができた。つまり子育ての時期に制限がなかった。さらに人間には母乳を赤ちゃんに与えると言う哺乳類独特の子育て方法を持っていたからである。

(阿寒湖畔の森で遭遇したキジバト。餌を求めて野を歩きまわっていた)

さて、キジバトであるが、鳥類であるにもかかわらず、なぜ授乳ができるのか。これには驚くべきキジバトの能力があった。当然ながら鳥類のキジバトに人間のような乳腺があるわけがない。身体の中にあるそ嚢(そのう)でミルクを作る。それを口から出して雛鳥に与えるのである。それも授乳と言うのかと、疑問を持つ人がいるかもしれない。哺乳瓶でミルクを飲ませるのも授乳であるのだから、そう言っても問題はない。

この授乳能力はオスメス両方とも持っている。したがってオスも授乳するのである。良くできた鳥だ。ふと、哺乳瓶片手に不器用に赤ちゃんにミルクを与えていた時の自分を思い出した。相方の冷たい視線と同時に。決して不器用だったわけではなく、赤子という得体のしれない対象物に戸惑っていただけなのだが。うーむ、なにをいまさら弁解しようとしているのか、我ながら情けない。本能のままに授乳ができるお父さんキジバトが少し妬ましい。

キジバトのミルクは人間の母乳よりたんぱく質や脂肪が豊富だという。ミルクをあげることができるので、餌がとれる時期にこだわる必要がなくなった。そのためにキジバトはどの季節でも巣作りをするということになった。もっとも真冬に子育てをするキジバトはいないということ。やはり寒い季節は子育てには向いていないのかもしれない。

そういえば、人間も五月生まれの子供は頭が良いという話がある。あくまでも都市伝説にすぎないのだが、理由はなんとなく分かる。薫風の五月はさわやか。そんな時の出産は母体にも子供にも良い。良い季節に赤子を育てると良い成長をするという話と結びついたのであろう。ちなみに、私は五月生まれ。間もなく誕生日を迎える。都市伝説が私に生きているかどうかは、知る人ぞ知るところだ。

季節に限らず子育てができるからキジバトの夫婦はとても仲がいいという話もある。だがこれも都市伝説だと思う。同様に子育て時期の限定していない人間が、誰でも夫婦仲がいいというわけではない。キジバトもまた仲の悪い夫婦もいるのではと、密かに思う。

キジバトは「デッデッ、ポーポー!」と鳴く。山間でよく聞く。時には不気味に聞こえる声だ。ごく最近まで、この声はブッポウソウだと思っていた。考えてみれば北海道にブッポウソウ(仏法僧)がいるわけがなかった(この鳥の住処は本州。夏にやってくる渡り鳥)。改めてキジバトに謝りたい。

沖縄にはリュウキュウキジバトという外見がそっくりのヤマバトがいる。外見はそっくりだけど、きっちり分類されているという。

キジバトはなかなかに奥が深い野鳥のようだ。同時に自然界もまた奥が深い。

 

*最近、「旅ログ」という北海道を紹介するブログにも転載している。ブログ名は「原野の路標」。Http://genyajin.tabilog-hokkaido.jp


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2 コメント

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キジバト保護者・・ (numapy)
2011-05-13 10:06:04
傷ついたキジバトの幼鳥を拾ってきて育ててた友人がいました。名前は「ピピ」。片方の脚が不自由なので野に還してやる訳にも行かない。で、結局10年以上同居し、天寿を全うしました。
実にワガママな鳥で、嫌いな客の髪の毛を毟ったりする。しかし、飼い主には妙に懐いてました。鳥にもかなり複雑な感情があるようです。
その友人は「ピピ」が永眠した後、また傷ついたキジバトを拾ってきました。「二代目ピピ」もそこで天寿を全うしました。そういう運命の人がいるんか?と。
モチロン、女性です。
結構長生きですね (原野人)
2011-05-13 11:19:00
その人はきっと、前世がキジバトだったのでは。
それにしても10年とは結構長生きです。そのハトは野生ではそんなに生きられなかったのでは。その意味では運のよかった奴と言えそうです。
人間と野生の関係はいろいろな意味で複雑につながっているように感じます。

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