「熱闘」のあとでひといき

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専修大学 vs 日本大学(関東大学春季大会グループC-2016.06.05)の感想

2016-06-07 02:20:07 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


スーパーラグビーの「サンウルブズ・ロス」の週末はやはり物足りない。しかし、関東大学ラグビーの春季大会が同時並行で進んでいるので寂しくはない。この大会は優勝したからといって表だって「いいこと」があるわけではない。しかし、だからこそチーム作りには最適の大会と言える。トレーニングマシンを相手の格闘も重要だが、実戦を通じて足りないところを自覚しながら練習に励む方が楽しいはず。この日は遠隔地の試合も含めると全部で8試合が組まれている。さて、何処に行くか?

稲城の日大の試合にするか法政グランドの拓大の試合にするか迷ったが、専修と日大の因縁の対決の方を選んだ。1部復帰を果たしたもののまったく安心できない日大に対し、残念ながら再昇格にチャレンジとなってしまった専修。どちらにとっても対戦相手は春の1つのターゲットといっていい重要な試合を見逃す手はない。専修のセブンズ仕込みのパス回しの巧みさもさることながら、日大もFWゴリゴリではなくパスに活路を開くラグビーを指向しているから、両チームの持ち味が活きればボールが大きく動くラグビーになるはず。そんな期待を胸に、久しぶりとなる稲城の日大グランドに向かった。

日大グランドの最寄り駅は京王線の(稲城ではなく)若葉台。かつては鋼板塀が目立った駅前も整備がすっかり終わり、モダンな街へと変貌を遂げていたことにまずは驚かされた。駅を降りてからは線路沿いに歩いてグランドに向かうが、ここはかつてと同じカントリーロードで一安心。しかし、グランドの入り口に着いたところでまたビックリ。「HURRICANES」のロゴが浮かび上がる立派なクラブハウスはかつてなかったもの。さらにしばらく歩いてグランドに着くと仮設のスタンドも用意されていた。以前は丘の上の木の間から試合を観ていたことを思うとこれも嬉しい。

思い起こせば、このグランドが出来たときのピッチは天然芝だった。大学選手権ベスト4進出も果たし、明るい未来が描けていたのが当時の日大。リーグ戦グループの1部校では関東学院に次いで芝生のグランドを持ったことで大きな飛躍が期待されていたことを思い出す。しかし、そんなこととは裏腹に、その後の日大は苦難の連続でなかなか上位に浮上できずにここまできてしまった感が強い。

新体制になって(何度目かの)再出発を期す日大に対し、12月には再び歓喜の嵐に浸りたい専修。両チームのメンバー表を眺めても正直なところお馴染みの名前は殆どない。日大は昨シーズンが最終学年だったキテを最後に留学生はすべて卒業した。試合前のアップを観ていると専修が纏まって効率的に身体を動かしているのに対し、日大はどちらかと言えば伸び伸びムードと対照的。戦前に頭の中に浮かんだのは、専修のアタックに日大が翻弄される光景だったのだが...



◆前半の戦い/日大の鮮やかな先制パンチの連打に出遅れた専修

初夏にしては涼しめの天候でやや強い風が心地よく感じられる。そして、なんとか雨も上がり安堵。ホームの日大のキックオフで試合が始まった。セブンズ仕込みのパスラグビーを信条とする(おそらく)の専修が自陣から果敢にアタックを試みるが、日大のディフェンスに遭ってノットリリースの反則。日大は専修陣ゴール前のラインアウトからモールを形成してゴールを目指すがアクシデンタルオフサイド。専修はタッチキックでいったんピンチを脱する。

3分、日大は専修陣10m付近のラインアウトからオープンに展開してアタック。9シェイプで接点を順目に移動させながらBKに展開とシンプルなスタイルだが小気味よいアタックで専修を脅かす。ここで早くも日大のキーマンはSH李とわかる。昨シーズンにデビュー(おそらく)を果たした遅咲きのSHでインパクトプレーヤー的な活躍が目立った有久と併用されていたと記憶。テンポよくボールを捌き、ミスがないため確実にボールが前に運ばれる。ここでも日大にスローフォワードがあり専修はピンチを脱するが、本来自分達がやりたいことを日大にやられてしまっている感が強く、防戦一方となる。

5分、日大はスクラムを起点とした相手キックに対するカウンターアタックからラインブレイクに成功して一気に専修陣奥深くへ。ここからしっかりオーバーラップを作って右WTB竹澤がゴール右隅に走り込む。右サイドの難しい位置からのGKをSO金が確実に決めて日大が幸先よく7点を先制した。日大の鮮やかな先制パンチに動揺が走ったのか、専修はキックオフでダイレクトタッチのミス。これはやってはならないミス、トップスリーの筆頭であり、相手のセンタースクラムからのアタックは高い確率で失点に繋がる。日大はエリアを取るキックを選択し、専修陣22mでバウンドしたボールがタッチを割るが、ここでも専修に痛いミス。ラインアウトのボールを日大にスティールされて確実にボールを繋がれ、WTB竹澤が早くも2トライ目を記録。GK成功で日大のリードは14点に拡がる。



勢いに乗る日大が完全にペースを掴んだ。15分には専修陣10m/22mの位置でのラインアウトからモールで前進。今度はFWで確実にボールを前に運び、最後はHO徳田がトライ。SO金の左足によるキックは安定しており、日大のリードは21点となる。日大のFWのキーマンは長身LOの孫(193cm、97kg)。現在サンウルブズで活躍するOBの細田を太めにした感じの選手だが、高さだけでなくフィールドプレーでも光る選手であることがその後分かる。専修はその後もたびたびラインアウトでマイボールをミスしたのも、スローイングが不安定だったことがあったにせよ、孫の高さが効いていたことは間違いない。

このまま日大が突っ走ってしまうかと思われたが、ボールを支配する時間帯が長かった日大の方にオーバーザトップやハンドなどブレイクダウンでの反則が目立ち始める。必然的に専修に日大陣でのラインアウトのチャンスが増えていくが、上で書いたようにマイボールをスティールされたり弾かれたりと殆どチャンスを活かすことができない。また、モールに持ち込んでも日大のモールディフェンスが機能したためゴールは遠い状況が続く。しかし元来BKのパス回しの巧さを持ち味とするのが専修。22分、日大陣10m/22mのラインアウトをクリーンキャッチしてボールを一気にオープンに展開。ここでCTBが絶妙のフェイクを入れてラストパスをWTB夏井に渡す。GKも成功して7-21と専修が一息ついたかっこう。

ゲームがようやく落ち着いたところで、専修が徐々に持ち味を発揮し始める。日大はテンポよく攻めるものの、あと一歩のところで反則を犯してチャンスを潰すが、専修もラインアウトが不調。そのため得点板が動かない拮抗した展開となったとも言えるのだが、前半も終盤に入った32分に専修が1トライを返して点差を縮める。専修はHWL付近のラインアウトからボールをいったんオープンに動かした後、反転してショートサイドを攻めてフリーとなったFB田辺が左サイドを一気に走り抜けてトライ。GKは失敗するが12-21と専修のビハインドは9点となる。このまま専修が後半に望みを繋ぐ形で前半が終了。両チームともBKでのパス回しに活路をひらくチームとはいえ、FWでのゴリゴリが少なくボールが大きく動く試合はやはり観ていて楽しい。



◆後半の戦い/先手を取りたかった専修だが、テンポよく攻める日大優位の展開は変わらず

シンプル・イズ・ベストでテンポよく攻める日大が優位に試合を進めた前半。しかし終わってみれば日大のリードは9点で終わっているのが意外だった。後半に逆転を期す専修としては、先手を取って日大にプレッシャーをかけたいところ。後半は専修のキックオフで開始。専修は日大の蹴り返しに対するカウンターアタックからFB田辺が大きく前進、パスを受けたWTB夏井が日大ゴールに迫る。この日一番というくらいに専修の応援席が盛り上がるが、夏井はあと一歩というところでタッチに押し出されてしまう。ピンチを脱した日大は7分、自陣10m付近のスクラムを起点としていったんショートサイドを攻めた後、SH李からパスを受け取ったPR1の金大毅が一気にゴールまでボールを運ぶ。GKも成功して28-12と日大が専修を引き離す。

試合の流れは完全に日大に傾くかと思われた。しかしながら、専修に起死回生の一撃が生まれる。キックオフされたボールを日大が自陣から蹴り返したところでチャージに成功。SO小田が日大ゴールにあと一歩まで迫ったところで日大に反則。専修は間髪入れずに攻めてPR3古屋主将がトライを奪いGKも成功して19-28。後半も接点での反則が目立つ日大は、一転して自陣22mからなかなか脱出できないピンチの連続となる。専修はFWに拘りをみせてラインアウトからモールを形成してトライを狙うものの、日大の粘り強いディフェンスの前になかなかゴールラインが超えられない。

FW主体で攻める専修に対し、FW8人の結束で堪える日大といった形で日大陣22m内での攻防が続く。あと一歩が超えられない専修の選手達に対し、応援席からの声援は一際高まるものの、ここでも明暗を分けたのがラインアウト。24分、日大陣ゴール前で専修がまたしてもマイボールをスティールされて万事休した。それでも日大のピンチは続く。27分、日大のFL山田が反則のくりかえしによりシンビンを適用されたことで、日大は残りの殆どの時間帯を14人で戦うことになった。

29分、専修は日大ゴール前で得たPKでスクラムを選択し8単からゴールを目指すが惜しくもパイルアップ。やり直しのスクラムで再度ゴールを目指すもののパスが甘くなったところを狙われて痛恨のインターセプト。ボールを確保したWTB星野は快足を飛ばして一気に専修ゴールまで到達。GK成功で35-19となり、残り時間からも日大の勝利がほぼ確定。専修がひとつ取っていれば逆転に繋がるトライだっただけに悔やんでも悔やみきれない。37分、日大はさらに1トライを追加して遂に40-19のダブルスコアとなる。ここまで100%の成功率だったGKは失敗に終わるものの、SO金の安定したGKが日大に勝利に華を添えた。



◆試合終了後の雑感

試合前の私的予想は「専修が日大のディフェンスを翻弄」だったが、始まってみれば主導権を握ったのは戦術を固めて積極果敢に攻めた日大。何となくだが、試合前のアップで自信を持っているように見えたのは専修の方だった。おそらく、専修は「自分達のラグビーができれば勝てる」と踏んでいたのではないだろうか。だから、開始直後から受けに回り防戦一方となってしまったことで選手達は動揺したのかも知れない。そう考えると、先制された後のキックオフのミス(ダイレクトタッチ)が本当に痛かった。

もちろん、ラインアウトの絶不調もあったが、15分間で3連続失トライを喫してしまったことが専修の歯車を狂わせたと言える。また、BKへの展開を持ち味とするチームがFW戦に拘った時間帯があったことも疑問。日大の戦術が一貫していたのとは対照的だった。日大の反則多発(前半5つ、後半8つの計13個)がなければもっと点差が開いたかも知れない。力が拮抗していれば、メンタルの差が明暗を分けるラグビーの怖さを観た想いがした。



◆再スタートに向けて視界良好の日大

新体制となることが伝えられてもなかなかスタッフが発表されないなど、不安を抱かせた日大の(今度こその)再スタート。しかし、この日の溌溂とした戦いぶりを観て、そんな不安は払拭された。突出した選手が居ないことで15人の纏まりで勝負するチームになっていることがプラスに作用していることは間違いない。かといって、組織に縛られたような窮屈さはなく、選手個々が役割を果たす形で伸び伸びとプレー出来ているように感じられた。旧体制の頃とは明らかにチーム内の空気が変わったとみていいと思う。

もちろん、ブレイクダウンでのプレッシャーが強力で、個々の強さもある上位校との対戦を考えた場合、日大はこのラグビーを遂行するにはパワー不足と思われる。しかし、ここまでに観てきた流経大、大東大、法政と比べると実はチームの基盤が一番出来ているが日大という印象を持ったことも事実。まだ潜在能力の段階だが、選手1人1人を見ていると結構個性派揃いという印象も受ける。それと、この日も印象に残ったパス回しは旧体制時代の遺産。選手起用法などいろいろと考えさせられところがあったとはいえ、いい部分もあるはずでそこは活かすべきだと思う。

◆余談ながら

日大の新体制では元監督の阿多氏を支えた人達が「復活」を担うことになるようだ。伊藤武コーチは流経大OBだが、1部昇格2年目の年に主将としてチームを引っ張った選手だったことをよく覚えている。そして、おそらくは対戦相手としての日大の強さを身をもって体験したはず。伝統を重んじるチームほど外部の血を導入することに躊躇があるようだが、チーム再建を考えるなら、チームの強さやいい部分を外から客観的に見てよく知っている外部の人材を活用することを選択肢に入れてもいい。懐かしい人の名前を目にしてふとそんなことを思った。

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コメント (1)
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