「熱闘」のあとでひといき

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大東文化大学 vs 流通経済大学(2015関東大学リーグ戦G1部-2015.10.31)の感想

2015-11-08 20:26:24 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


リーグ戦も後半戦に突入。優勝争いから入替戦回避まである熱き戦いも残すところ3週間になってしまった。そんな中、8チーム中で最後に観ることになったのがこの日の流経大。予想通り東海大とのマッチレースを繰り広げている状況にあるが、戦績は今一歩の感もある。サウマキが不在とは言え、曲者のアタッカーが揃う大東大に対してどんな戦いを挑むのか楽しみ。上の東京ラインの開通で埼玉県からもさらに近くなった横浜に向かった。

試合会場のニッパツ三ツ沢球技場は、規模こそ小ぶりだがラグビーもサッカーも平等に開催できるという意味で最高の(球技専門の)競技場だと思う。私的快適スタジアムの筆頭は熊谷ラグビー場なのだが、2番目はここ。後に続くのは...と言うくらいにこの2つは突出した存在だ。とくにバックスタンドの見やすさはピカイチ。緩めの勾配が醸し出す熊谷のゆったり感も捨てがたいのだが、ピッチへの近さと全体の見通しの良さの両立を目指すならこのくらいの勾配がベストなのかも知れない。そして、目の前に拡がるのは緑の絨毯と呼びたくなるような芝生のピッチ。W杯対応で8万人収容のメインスタジアムを持つことも大切だが、本当は三ツ沢のようにラグビーを臨場感たっぷりで味わえるスタジアムを各地に設けることの方が遙かに大切だと思う。

15分前に着席して両チームのメンバー表をチェック。流経大は合谷がセブンズ代表専念のためずっと不在だが、ほぼベストメンバーと思われる。No.8リサレ・ジョージとCTBシオネ・テアウパは私感ながら最強コンビ。もちろんリザーブに控えるタウムア・ナエアタも強力だが、怖さでは圧倒的に大学最強選手と言ってもいいリサレだと思う。そして、10番から15番までこなせるオールラウンダーのシオネは流経大の歴代の留学生達の中でも屈指の堅実な選手。イシレリ(ヴァカウタ)やリリダム(ジョセファ)のような選手達の派手な活躍が記憶に残る中で、むしろシオネのような選手をレギュラーに固定した方がチームも引き締まるような気がする。

大東大のアイランダー達も負けていない。大学生最強WTBの呼び声高いサウマキはケガのため欠場だが、ルーキーのファカヴァタ兄弟(双子)の高さと走力は魅力たっぷり。キック力があるアピサイ拓海とラグビーセンスが光るクルーガー・ラトゥ。逆にこれだけ揃ってしまうとチームがバラバラになってしまう危険性もある。しかし、1年生の時からコンビを組む小山と川向を始め、FLには運動能力の高い長谷川がチームを引き締める。BKでも地味ながらも確実に仕事をこなすWTB戸室が居て、さらにケガのため長らく戦列を離れていたFBの大道もようやくフィットしてきた。固有名詞で語られる選手達が纏まることで魅力的なラグビーが成り立つという意味で、大東大はリーグ戦G屈指のチームと言える。



◆前半の戦い/攻守に積極性を見せた大東大にタジタジだった流経大

大東大のキックオフで試合開始。流経大がハイパントで攻め上がったところで大東大にオフサイドの反則があり、流経大が大東大陣22m付近でラインアウトのチャンスを掴む。流経大はまずFWで前進した後左オープンに展開しラック。逆目に振ったところでリサレがボールを前に運んだ後、絶妙のタイミングで右サイドを併走する八文字にラストパスを渡す。時計はまだ1分を指したばかり。流経大が秒殺と言いたくなるような鮮やかな攻撃でトライを奪い、ゴールキックも成功して7点を先制する。立ち上がりとは言え大東大サイドにイヤなムードが漂う。

しかし、悪い流れになりかけたところを救ったのがルーキーで本来ならWTBのアマト・ファカバタだった。195cmの長身ながら大東大では誰も追いつけないという高速ランナー。リスタートのキックオフは低めのボールだったが、落下点に前傾姿勢で弾丸ライナーのように走り込みキャッチングに成功した選手が居た。キックオフでこんな低いボールをマイボールにした選手は記憶にない。アマトのランに素早く反応したのが復帰してようやく本来のプレーが戻ってきた大道。右サイドが大きく開いたところでCTBのアピサイにキックパスを送る。オープンスペースに転がったボールの捕獲に成功したアピサイは一気にゴールラインに到達した時、時計は3分を指したところ。GKは外れるが5-7と大東大が反撃体制に入る。

この得点でアマトが調子づく。春シーズンの段階ではサウマキの陰に隠れて本領発揮とはならず、活躍していたのはLOのタラウの方。しかし、チームに馴染むことですっかり起爆剤となった感じ。ここで鮮やかな先制トライを奪った流経大の八文字が負傷交代となる。後から振り返ってみると、ここからが激しい肉弾戦の始まりだということを象徴するようなアクシデントではあった。リスタートのキックオフで自陣から前にボールを運んだアマトからのパスがタッチを割る。ここから流経大がラインアウトを起点としてモールからゴールを目指すがハイパントがダイレクトタッチ。このミスが大東大に試合の流れを渡すことになる。

大東大は自陣22m付近でのラインアウトを起点としてHWLを超える。ボールがいったん流経大に渡った後、再び大東大がターンオーバーに成功してアタックを継続。この日の大東大は「集中して組織で前へ」をスローガンにしたかのような激しいディフェンスで流経大の前進を許さない。流経大に反則があり、大東大は流経大陣22mからラインアウトでゴールを目指す。14分のFWのサイド攻撃によるアタックは惜しくもパイルアップ。また、5mスクラムからの8→9で攻め込むもののあと一歩が届かない。

しかし、16分、大東大は流経大陣22m内右サイドでのスクラムを起点としてアマトが8単でショートサイドを前進。タッチを割るギリギリのところからパスをフォローした小山に渡し、小山が一気にゴールラインを駆け抜けた。大小凸凹ではあるが、最強の8→9コンビの完成だ。ここでもアピサイのGKは外れ、大東大は逆転に成功するものの3点のリードとなる。春シーズンは好調だったアピサイだがキックの調子を落としている感があり、むしろ復帰した大道が蹴った方がいいように思えた。結果的に2/5の成功率に終わったが、最後の得点差を考えるとキックによる2点の大切さが実感される。

直後の18分、リスタートのキックオフで大東大のアマトがノックオンを犯し、流経大が大東大陣になだれ込む。しかし、パスが浮いたところに居たのは小山。小さな身体を精一杯伸ばすとボールが手に収まり、小山はそのまま70mを走りきり連続トライ。正面のGKは難なく成功し大東大は17-7とリードを一気に10点に拡げる。小山はアタックを活性化させる俊敏で正確なパサーであり、ボールを持てばトライゲッターになり、ディフェンスでも要所でタックルを決めるファイター。得点への嗅覚もなかなかのものだ。3年生ながら既にゲームリーダーとしての風格も示す。優秀なスクラムハーフが多い大学ラグビー界でもこのポジションで最高の選手と言って間違いないだろう。流経大もリサレとシオネの2枚看板を武器に流経大陣に攻め込むが、大東大の激しく前に出るディフェンスをなかなか破ることができない。両チームによる攻防はどんどんヒートアップしていく。

小山の正確でタイミングよい球出し(厳しい体勢からでも浮いた弾は皆無)もあり、大東のアタックも冴える。1年生からコンビを組むSOの川向は鋭いタックルで定評のある選手だが、アタックでも確実に成長を見せる。ループパスをダブルで決めたりと大東大のアタックが冴え、受けに回った流経大がタジタジの展開が続く。30分には左WTB戸室の突破から流経大陣でパスを受けたアマトが絶妙のゴロパント。そこに瞬時に反応したのがFBの大道だった。一気に前に出てボールを拾った大道がそのままゴールラインを超える。ここもGKが失敗するが22-7と大東大がリードをさらに拡げた。多少のラッキーはあるにしても、大東大のアタックを観ていて感じることはバランスの良さ。サウマキが不在なことでかえって全員で取りに行く意識が出てきていることと、FB大道がようやくチームに馴染んできたことが大きい。

なかなか反撃の機会が掴めない流経大だが、このままでは終われないし、実際に終わらなかった。35分、大東大に反則が続き、大東大陣22m内に入ったところでタップキックからCTB藤林がトライを決めてまず5点を返す(GKは失敗)。大東大としてはこのまま22-12の10点リードのままで前半を終えたいところだったが、終了間際の41分に自陣で痛恨の反則。流経大のSO統合が左中間30mのPGを確実に決めて22-15とビハインドを7点に縮めた。後半の展開を考えても流経大は最後に3点を取れたのは大きかった。



◆後半の戦い/建て直しに成功した流経大の前に大東大はあと一歩及ばず

鮮やかな先制トライの後は大東大の激しいディフェンスの前にいいところが殆どなかった流経大。先制点の後のトライはいずれもPKからのもの(速攻とGK)。しかし、地力があれば後半にしっかり立て直すことができるはず。大東大はラッキーな部分にもアシストされて得点を重ねた面がある。それに大東大が圧倒的に攻めたように見えたもののリードは僅かに7点。果たして流経大はどのように建て直しを図っていくか。

キープレーヤーは先にも挙げたNo.8のリサレとアウトサイドCTBのシオネの2人。とくにリサレは主戦場をFW周辺(でのファイト)からタッチライン際のWTB(フィニッシュ)に移した感じで、超強力なトライゲッターとして大東大に立ちはだかる。現時点ではWTBに立たれたときに一番怖いのはサウマキではなくパワーもあるリサレだと思う。また、シオネはペネトレーターとしてチャンスを拡げる役割に徹する。リサレをWTBに置くことが出来ると言うことは、逆にそれだけ流経大FWの選手達が確実に仕事をこなしているということになる。こういった面からも、しっかりボールをフィニッシャーに渡すことができるシオネの存在は貴重だと思う。

さて、後半は予想通りと言ったらいいのか流経大が落ち着きを取り戻す。大東大のペースに巻き込まれることなく確実にボールキープして前進すれば強力な突破役と決める選手が居る。双方の身体を張った激しい攻防にミスも増えるが、そんなことは気にならないくらいに集中した戦いができている。とにかくノックオンを犯した瞬間、一気に攻守が入れ替わり形勢が逆転してしまうから眼が離せない。しばらく一進一退の攻防が続くものの、徐々に試合の流れは流経大の方に傾き始める。そして11分、ついに均衡が破れる。流経大は大東大陣10m/22mでのラインアウトを起点として絶妙のキックパスがオープンサイドに控えたリサレに渡る。この形になるともう誰も止められない。GK成功で22-22と試合は振り出しに戻ってしまった。

流経大は畳みかける。直後の流経大のミスを見逃さず、FL廣がトライを決め27-22と逆転に成功。このまま流経大が得点を重ねて圧勝のムードも漂う中、大東大も前半と変わらない気迫のディフェンスで流経大のアタックを凌ぐのだが、劣勢ムードをひっくり返すことが出来ずに時計が進む。23分には流経大陣10m/22mでのラインアウトを起点としてインゴールに迫るが惜しくもノットリリースで得点できない。前半は活気があった大東大サイドの応援も徐々に元気を失っていくのがバックスタンドからも窺われる。

しかし、30分。この日の両チームを通じてのベストトライが生まれたことで大東大が元気を取り戻す。流経大陣22m付近左サイドのラインアウトを起点として右オープンに展開したのち、店舗アップして逆目にアタック。クイックパスが流経大ディフェンダーの間合いを外す形でつながったことでギャップができ、パスを受けたCTB竹原が一気にゴールラインに到達。ゴールキックも成功して2点差ながら大東大が29-27と逆転に成功する。さぁ、残り時間守り切るか、それともさらに得点を奪って勝利をつかみ取るか。スタンドのボルテージは一気に上がった。

残り時間も10分あまりだが、流経大は慌てない。リスタートのキックオフに対する流経大の蹴り返し(ハイパント)がほぼ真上に上がってしまう痛恨のミス。流経大はこれを見逃さず、カウンターアタックからCTBシオネがトライ。GKも成功し流経大が34-29と逆転に成功する。ただ、大東大のビハインドは1トライで追いつける5点差。まだまだ十分時間はある。しかし35分、大東大が自陣10m付近のスクラムで痛恨のオフサイド。流経大はショットを選択し、SO東郷が距離35mでほぼ正面の位置からのGKを慎重に決めた。これで流経大のリードは8点に拡がる。1T1Gでも届かない点差となり、残り時間から見ても勝負ありとなった。大東大は最後まで諦めずに最後の力を振り絞って攻撃を継続させるものの、流経大がしっかり守り切り試合終了のホイッスル。両チームの選手たちによる激しい肉弾戦は見応えがあった。



◆惜しかった大東大/サウマキの不在でチームに結束

最後は流経大のしぶとく勝利を収めた試合。しかし、大東大の前に出る気迫のディフェンスとアタックがこの試合を熱いものにしたことは間違いない。サウマキの不在による得点力低下が心配された大東大だが、この日の大東大は今シーズン一番(私が見た範囲でだが)の集中力を見せて戦っていたように思う。その原因として考えられるのが、サウマキの不在がチームに危機感をもたらしたのではないかということ。強力なトライゲッターの存在は両刃の剣ともいえ、サウマキの活躍とは裏腹に大東大の悪い方のDNA(強力な選手に頼ってしまう)の復活も見て取れるようなムードも漂っていた。

しかし、強力なトライゲッターが不在ということは、相手にとってターゲットが絞りにくくなる面もある。とくに大東大の選手はボールを持ったら勝負するという暗黙のルールがあるから、波状攻撃も可能となる。とくに大東大ファンにとってうれしいのはFB大道の復活ではないだろうか。ケガで不在のうちにチームのスタイルが変わってしまい、復帰してもなかなか存在感が発揮できていないように見えたのだ。大道の持ち味はとにかく強気に攻めること。ボールを持てば何かやってくれるという期待感で魅せる要素を持った選手だから楽しみが増えたといえる。

◆底力を発揮した流経大

流経大はリーグ戦1部昇格からずっと「組織」を意識して頂点を目指してきたチーム。本来ならもっと早くリーグ戦Gの横綱になってしかるべきだった。上位グループに定着し、リーグトップの地位は確立しても、なかなかチームが盤石になったと感じさせないのは、戦いぶりにまだムラがあるから。相手を見てしまうといったらいいのか、気持ちが入っているときとそうでないときがあり、なかなか安定した戦いができないのがもどかしい。しかし、本日の試合のように劣勢に立たされた時でも崩れないチームになったことは間違いない。前半も最後に1PG返したことで後半に繋げ、そして最後にダメ押しの1PGを挙げて勝利。きわどい内容ではあったが確実に勝利したことで勝負強さを身に着けたとしたら嬉しい。



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生島 淳
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