「熱闘」のあとでひといき

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第56回 YC&ACセブンズ(2015.4.12)の感想(その2)

2015-05-05 23:57:11 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


午前中の試合と言うこともあるし、「負けても次があるから」ということからなのか、どこかピリッとしないところもある予選ラウンド。しかし、午後に入り、「負けたら終わり」のトーナメントになると、選手達の顔つきも変わる。やはり、勝負がかかってくると、ピッチ上は緊迫感で充たされるようになるのは選手達の「負けたくない」という本能的な感覚の表れだろうか。そして、コンソレーションになると必ず元気になるチームがあるものだ。これも1日限定セブンズの面白さかも知れない。

■コンソレーション・トーナメント

【1回戦】
○日本大学 24-7 ●神奈川タマリバクラブ
○釜石シーウェイブス 28-24 ●中央大学
○和歌山県選抜 19-12 ●明治学院大学
○青山学院大学 31-26 ●YC&AC (延長)

1回戦では日大が見違えるチームになって登場。トライを重ねて神奈川タマリバクラブを一蹴した。去年のタマリバは福田光輝や竹山の活躍で存在感を見せていたところがあったが、荻野の加入という明るい材料はあっても、竹山が1人で引っ張る形の今年はちょっと元気がなかった印象。新旧交代期にあるのかも知れないが、クラブチームにとって現状はなかなか厳しい状態になっているのではないだろうかと危惧する。釜石シーウェイブスは住吉がスピードスターぶりを発揮してトライを重ねた中央大に食い下がられたものの、どこか吹っ切れたようなマイケル・バートロケの活躍で勝利を収めた。中央大はブレイクダウンでボールを停滞させてしまう場面が多かったところに課題を残した。やはり3人目が到達した時点でボールが出るようにしないとセブンズは苦しい。

和歌山選抜も貫禄勝ちと言った感じ。ただ、期待の吉田大樹はボールを持つ(託される)機会が多いものの徹底マークに遭ってなかなか抜け出せない。逆に言うと、スペースがある決定的な場面でボールをもらう場面がなかったとも言える。もう少し時間をかけてチームに馴染んだら存在感をみせてくれるに違いない。ベテランに対して臆することなく戦った明治学院の健闘も光った。青山学院とYC&ACの戦いは本大会のベストマッチのひとつと言える。セブンズの戦い方を知っているYC&ACが先行する中、青山学院が1トライずつ返しながら何とか食らいつき土壇場で同点に追い付く。サドンデス方式となった延長戦で自らチャンスを掴み取り、決勝トライを決めたシーンでは場内から大きな拍手が湧いた。

【準決勝】
 ○日本大学 21-19 ●釜石シーウェイブス
 ○青山学院大学 29-21 ●和歌山県選抜

【決勝】
 ○日本大学 26-17 ●青山学院大学

日大と釜石シーウェイブスの対決となった準決勝ではドラマがあった。釜石には日大を卒業して加入したばかりでありながら、既にエースとしての風格を見せるマイケル・バートロケが居る。日大が21-19と2点リードのままタイムアップとなりかけたところで釜石にラストチャンスが訪れた。セットプレーからボールを回し、そして、ボールは切り札のマイケルに渡る。おそらく日大ファンは肝を冷やしたに違いない。しかし、マイケルは日大の人数をかけたディフェンスを突破できずにノックオンを犯し試合終了となる。「やっぱりマイケルは後輩想いだなぁ」などとつい不謹慎なことが頭をよぎるが、隣で熱心に応援している釜石のサポーターの人達が目に入った瞬間にそんな戯れ言も吹き飛んでしまった。それはさておいても、日大時代に比べると頼もしい存在に見えたのがこの日のマイケル。今後の活躍に期待したいし、応えてくれそうな気がする。

青山学院は若さと個人能力の高さを活かす形で食い下がる和歌山県選抜を振り切り決勝へ。日大と青山学院のフレッシュな対決は決勝戦に相応しい好ゲームとなった。日大は塚本大輔、内山、原、富樫といったベテランの4年生が存在感を示す中で、2年生の鈴木陸が伸び伸びとプレーするなどチームのコンビネーションが試合を重ねるごとによくなり、個人能力勝負の感が強かった青山学院を振り切って見事優勝を果たした。意図していたわけではないと思うが、日大にとって多くの試合ができたことはプラスになったのではないだろうか。昨シーズンもこの大会で好成績を挙げた専修が1部復帰を果たしている。日大もここで掴んだ自信をチーム力アップにつなげて欲しい。



■チャンピオンシップ・トーナメント

【1回戦】
○筑波大学 12-10 ●北海道バーバリアンズ
○早稲田大学 40-12 ●専修大学
○PSIスーパーソニックス 15-14 ●東海大学
○流通経済大学 47-14 ●慶應義塾大学

同じトーナメントでもチャンピオンシップの闘いはコンソレーションとはひと味違ったものになる。予選ラウンドを終えた段階で優勝争いは同じ山に入っている流経大とPSI(あるいは東海大)となることが予想されたが、翌週行われる東日本大学セブンズでの4連覇がかかる筑波大とトゥキリらのパワフルな選手達を擁する北海道バーバリアンズの戦いも見応えのあるものとなった。

筑波では緒戦同様に長身の中村(2年生)の動きの良さに目が留まった。シリーズ「その1」ではAのデビュー戦かと書いてしまったが、調べたら去年既に対抗戦で数試合スタメンに出場していることが分かった。(知る限りでは、去年話題にならなかったのはなぜだろう。頑張った中村選手、ごめんなさい。) 試合の方は、北海道バーバリアンズが2本対1本で勝利を掴むかと思われたが、終盤に粘りを見せた筑波が幸運にも恵まれた形で辛くも2点差で勝利を収めた。

セブンズに拘りを見せる専修大学とテンポアップした動きで仕掛ける早稲田との戦いも序盤は見応えのあるものとなった。しかし、次第に専修が早稲田のスピードアップにトリッキーをまじえた動きについていけず翻弄されるようになる。中盤以降は早稲田のトライラッシュとなり、思わぬ大差がついてしまった。リサレやシオネといった強力な選手を擁する流通経済大もディフェンスに苦しむ慶應からトライを重ねて圧勝。流経大は看板スター以外にも走力がある選手が揃っているのが強みだ。

白熱した戦いとなったのは、PSIと東海大の戦い。新旧日本代表他トップリーグで活躍した選手を含むスター軍団に対して東海大も学生随一のパワーと石井魁や湯本らのランで対抗する。スピードに乗ったら誰も止められない石井魁のスピードは群を抜くが、湯本の長い距離を走りきる能力もなかなかのもの。東海が先行しPSIが1本返す展開が2回続き、GKの差で14-10と東海がリード。しかし、土壇場で1トライをもぎ取ったPSIが1点差で薄氷を踏むような勝利を掴んだ。PSIでは中村知也のスピードも強く印象に残った。惜しくも敗れたとは言え、今シーズンの東海大は期待できることを確信させるような戦いぶりだった。

【準決勝】
 ○早稲田大学 28-21 ●筑波大学
 ○流通経済大学 19-14 ●PSIスーパーソニックス

【決勝】
 ○流通経済大学 34-17 ●早稲田大学

準決勝は2試合とも手に汗握る熱戦となる。1試合目は、秋には対抗戦Gで相見える有力チーム同士ということもあり、両校の戦いは早くもその前哨戦の様相を呈する。どちらもこの大会への準備に怠りはないものの、とくにセブンズに特化したチーム作りをしてきているわけではなさそう。そんなこともあり、15人制のミニチュア版のような形で両チームの考え方がわかり面白かった。筑波は15人制の組織を意識したラグビーなのに対し、早稲田はここまでの戦いと同様にスピードアップと個々の細かい動きで相手を翻弄することを狙う。前半は3本対1本で早稲田がリードを奪うが後半に筑波2本返して同点に追い付く。しかし最終的には早稲田の崩しが功を奏して1トライを追加し7点差での早稲田が決勝へとコマを進めた。

流経大とPSIは、流経大が学生随一の強力なメンバーを揃えていることもあり、学生と社会人の戦いとは思えない見応えのある戦いとなる。そして、最終的に流経大が優勝候補筆頭と思われたPSIを5点差で寄り切ってしまった。スター級の選手を揃えたPSIだが、やはりこの試合でも目に留まったのは気持ちの入ったプレーを見せたマオ(テアウパ・シオネ・ファーマオ)。学生(大東大)時代はサイズに恵まれているにも拘わらず、突破よりもパスを選択してしまうような選手だったが、社会人になって確実にパワーアップしたようだ。ここでプレーすることになった経緯はあるにせよ、どこかで彼のラグビーに対する想いを力一杯表現できる場を用意できないものかと思った。

決勝戦も白熱した戦いとなった。早稲田は流経大も今までと同様の流れで翻弄することを試みるが、流経大もそこはしっかり意識できている。個々の動きに惑わされて1対1の勝負に持ち込まれないように陣形を崩さずに面で囲い込むことで対応する。早稲田が一本調子にならずにタメを作って勝負したら面白かったかも知れないが、プレッシャーが厳しい中では急な戦術の転換も難しい。早稲田も流経大の強力な選手達をしっかりマークしているが、その壁をぶち破ったのがセブンズ日本代表で経験を積んでいる伸び盛りの合谷。気迫のこもったランで2度に渡り、追走する早稲田の選手を振り切ったプレーが流経大に勝利を呼び込んだ。言葉で説明するのは難しいが、タックルに入る間合いを与えないランが見事だった。合谷といえば、小柄かつ細身で(味方も欺くような)トリッキーなランを持ち味としていた感がある。しかし、グランドレベルで見ると、まるで筋肉の鎧をまとったかのように胸板が分厚くなっていることに気づいた。またプレースタイルも堅実になったように感じられる。セブンズの日本代表チームで試合経験を積んでいることの影響が大きいのではないだろうか。9番から15番までをこなせるスーパーユーティリティプレーヤーの今後の成長がますます楽しみになってきた。



◆楽しかった1日の締めくくり

56回を数える今回の大会に招待されたのは社会人チーム6に大学チーム10の合計16チーム。しかし、参加した選手達は現役日本代表や日本代表経験者を含むなどセブンズに関してはかなりの豪華メンバー。大学も関東の殆どのトップチームが参加しており、トップリーガーを除く有力選手が一堂に会しているといっても過言ではない。そんな選手達のプレーをピッチサイドの至近距離で観ることが出来るというのだから、日本でも指折りの贅沢感が味わえる大会であることは間違いない。また、仮にここでメンバーをセレクトしてセブンズチームを結成したら、日本代表に十分対抗できそうなチームができあがるだろう。

さて、気になったことも少し。今回は、チャンピオンシップ、コンソレーションともにファイナルを戦ったのはすべて大学チームだった。近年はトップレベルにある大学チームの方が一般の社会人チームより充実した施設を持ち、そこでパワフルな選手を育成しているという現状はあるにしても、ちょっと寂しい感じがした。しかし、これを社会人チームの力が落ちているという形で一括してしまうのもどうかと思う。社会人のとくにクラブチームを取り巻く状況は厳しくなっていると思うがそれだけを理由にしていいいものかと思うのだ。

そもそもセブンズの大会自体が少ないこともあり、社会人チームが真剣にセブンズに取り組もうと思っても試合経験を通じた実力アップが難しいのが現状。もちろん、公式戦が数えるほどしかないことは大学生も同じだが、極端な話、部員でチームを結成して部内練習としてセブンズ形式の試合をすることはできる。対外試合はなくてもセブンズを体験することは難しくないし、積極的に15人制の強化のためにセブンズを活用しているチームもある。やはり、セブンズのサーキットを作るような形で社会人がセブンズに取り組みやすい環境を整えていくようにしていかないと、社会人チームのセブンズの力は上がってこないのではないだろうか。

せっかく楽しい時間を過ごせたのに、「今日も1日楽しかった」という気持ちが100%の状態で家路に付けないのがちょっぴり残念ではあった。

ラグビーは頭脳が9割
斉藤健仁
東邦出版
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