「熱闘」のあとでひといき

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第30回 関東大学ラグビー連盟セブンズ(2016.4.17)の感想(その3)

2016-04-24 19:37:41 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


実力差がはっきり出るのがラグビーの魅力であり理不尽でもあるところ。しかし、試合時間が短くて、かつノックアウト方式となるセブンズのトーナメント戦では何が起こるか分からない。ジャイアントキリングが起こりにくいラグビーにあって、セブンズ観戦の最大の魅力はここにあると言ってもいいだろう。僅か1日限定とはいえ、1部リーグと2部リーグでは力の差がはっきり出てしまう普段の15人のラグビーとはまったく違う世界が実現する。このセブンズ大会の面白さの源泉はここにあると思う。

しかし、1日で行うノックアウト方式の大会の常で、時間が経つにつれて敗退したチームのテントが1つ消え、2つ消えという状態になっていく。本来ならファイナルは関係者全員で観戦し、勝利したチームをリーグ全体で祝福するようなイベントであって欲しい。プレーヤーにしても、普段はなかなか見ることができない各チームのいい面や有力選手を生で観ることができる貴重な機会であるはず。身体を動かしている時間は短くても、1日中頭をフル回転できる絶好の練習機会とも言える。

少なくとも、普段から高い志を持って練習に励んでいる選手なら、どんどんレベルが上がって行く熱戦を前にして(所属チームの試合ではなくても)試合会場を簡単に後にすることはできないはず。例えば自分がピッチに立っていたらどうするかをプレーヤーの気持ちになってイメージしてみる。何気ないプレーの中にも自分達の練習には欠けていることに対するヒントが潜んでいるかも知れない。「俺たちのチームも負けたことだし、そろそろ帰ろうぜ。」というチームメイトの誘いにも乗らず、「悪いけどオレは最後まで見ていくよ。」という選手が居たと信じたい。

さて、1回戦を勝ち抜いてチャンピオンシップに進んだのは、東海大、東洋大、法政大、大東大、専修大、拓殖大、日大、流経大の8チーム。コンソレに進んだ8チームを含めて、全16チームを分類してみると、①セブンズ追求型、②セブンズ活用型、③その他(新人のお披露目など)の3つに大きく分けられる。①は文字通り、セブンズを極め、その検証をするために参加したチーム。具体的にはリーグ戦G2部のチームが殆どとなり、専修、國學院、東洋、国士舘、白鴎大、朝鮮大は明確にそんなプレースタイルだった。②は15人制のチーム作りと強化を主眼におくなかでセブンズの戦い方を研究して実践したチーム。1部リーグ校の中の東海大、流経大、大東大、日大がスタンスの違いはあるが戦いの中に「意図」が感じられた。

東海大のセブンズチームはレギュラーの15人の中からセブンズにフィットする選手をセレクトする形で作られている。出場選手の背番号がほぼそのまま現状のレギュラーメンバーの背番号に一致する。戦い方もディフェンスの組織的な対応とブレイクダウンスキルに絞る。15人の戦いを念頭において、個人で行けるところは行くというスタイル。流経大は東海大よりもセブンズの意識が強く感じられ、留学生の持ち味であるオフロードパスも積極的に使う。大東大は普段の15人制で指向しているラグビーがセブンズに近いという感じで、セブンズだから特別なことを行うというスタイルではない。日大は前HC時代の遺産と言うべきか、1部リーグ校の中でも一番セブンズを意識したプレーで戦いに挑む。そんなスタンスの違いはさておき、1回戦を観た印象でファイナルに進むのは東海大がほぼ確定、もう1方の山からは専修大と流経大のどちらかが勝ち上がると予想した。



■チャンピオンシップトーナメント

[1回戦]

○東海大学 35-12 ●東洋大学

ほぼレギュラーメンバーで固める東海大の優位は動かず、3連続トライを挙げた東海大が19-0とリードして前半が終了。YC&ACセブンズで藤崎とともに好調ぶりをアピールした村松がこの日もトライゲッターとして活躍を見せる。背番号は8だが、テビタ・タタフとの兼ね合いが気になるところ。このまま東海大の一方的な勝利に終わるかと思われたが、後半先に東洋大が1本返したところから試合が白熱する。自信を付けた東洋大が果敢に攻めることで、東海大が押し込まれる時間帯もあった。後半に限って言えば両チームのトライ数は各2本のほぼ互角の戦い。1部リーグ昇格を目指す東洋大にとって、この戦いでの経験は力になるに違いない。

○大東文化大学 31-12 ●法政大学

両チームともに1、2年生主体のメンバーで望む中で、プレースタイルの違いが明暗を分ける形になった。大東大は1回戦から一貫して積極果敢なパス回しで得点を目指すスタイル。小山を彷彿とさせるような軽快な動きを見せる選手も居る。兄貴分のチームのような強力な突破役こそいないが、そのことでかえってパス回しに活路を開こうとしているようだ。一方の法政は組織よりも個人にならざるを得ないスタイルで苦戦もやむなし。ここ数年の法政はBKへの展開よりもモールなどのFWでのトライが増えていることも頷ける。前半は3-1、後半も2-1(いずれもトライ数)で大東大の圧勝となった。

○専修大学 22-0 ●拓殖大学

拓大はリーグ戦屈指のパワーを誇るシオネ・ラベマイに新人のマシヴォウ・アセリが加わる強力な陣容だがチームを纏めるのはこれからという印象。今年は再び司令塔の役割を担いそうな林謙太がときおりパワフルな突破を見せるものの単発で終わる。一方の専修大は攻守とも組織的に整備されたセブンズのお手本のような戦いぶりをみせて前後半で各2トライずつを奪い完勝。とくにディフェンスの局面では後方から前線に向かって的確な指示が飛び、セブンズは7人の間の緻密なコミュニケーションが命の競技であることを実感させられた。

○流通経済大学 24-14 ●日本大学

1部リーグで一番セブンズを意識したボール回しができるのはおそらく日大。先制トライを奪ってペースに乗る。流経大も1本返すが日大も1本追加して前半は14-7の日大リードで終了。しかし、後半は流経大が持ち前のパワーを発揮して3トライを連取し逆転に成功。シオネ他の主力選手達を欠いても個々が強力な流経大がベスト4に進出した。日大のおそらく主力の何人かを欠いている陣容と見られ、FW次第だが1部復帰の初年度はBKのパス回しに活路を開くことになりそう。加藤氏の青山学院大HC就任の発表があった中で新体制の発表が遅れているのが気になるところ。




[準決勝]

○東海大学 35-5 ●大東文化大学

東海大のパワーが止まらない。前半に2本、後半にも3本のトライを追加し、大東大のトライを後半の1本に抑えて圧勝。GKもすべて成功とスコアから見ると、大東大は為す術もなかったように見えるだろう。しかしながら、実際は大東大のパス回しを主体としたアタックに東海大のディフェンスが翻弄される場面も散見され、スコアから連想されるような一方的な展開ではなかった。ゴール前まであと一歩に迫られても失点を防いだ東海大のディフェンスが光った。大東大のプレースタイルは下級生にもしっかり継承されることになりそうだ。

○専修大学 24-22 ●流通経済大学

流経大のパワーを基盤としたセブンズに対し、専修大は組織的に整備された洗練されたスタイルのセブンズで対抗。両者の哲学の違いが緊迫感がある好ゲームを演出した。まずは流経大が2本先行する形でスタートした試合だが、専修大が徐々にペースを掴み2連続トライを奪って12-10のリードで前半を終了。後半も先制したのは流経大で再逆転を許すが2連続トライを奪って24-15と勝利を決定的にしたところでインジュリータイムに入る。流経大が意地を見せて1トライを返すのがやっとだった。

[決勝戦]

○東海大学 39-24 ●専修大学

決勝戦はそれぞれセブンズに対する想い入れは違うものの、優勝を目指して戦いに望んだ2チームが順当に勝ち残ったと言える。まずは東海大がパワーと巧さを活かして2トライを連取。しかし、専修大も池田大芽らのランで対抗し2トライを返して14-12と逆転に成功。がっぷり4つの戦いを見せる専修に対し、応戦席の盛り上がりは最高潮に達する。東海大は前半終了前に1トライを挙げて17-14で再逆転に成功。キャップの行方は後半に託されるというファイナルに相応しい熱戦となった。

後半も先制したのは東海。今年も隙あらばウラに抜ける湯本がゴールラインを駆け抜ける姿を何度も観ることができそうだ。優勝を目指したピッチとベンチが一体になった専修も粘りをみせて1トライを返し19-24と食い下がる。ただ、ここでも光ったのが村松の走力。キックオフされたボールを入れ違いのような確保すると、そのままゴールラインまで到達してしまった。東海大はさらに1トライを追加してリードを拡げる。専修大が11番を付けた野口の活躍で1トライを返す。野口は2年生で1部復帰を目指す専修大に期待をもたらす新エースとして活躍しそうだ。しかし専修大の粘りもここまで、東海大も1トライを追加して突き放し、39-24で東海大がYC&AC、東日本大学セブンズに続き「3連覇」を達成した。最後は地力の差が出たものの、力と技の戦いはなかなか見応えがあった。



■戦いを観た雑感

流経大が主力メンバーを欠いた陣容とは言え、今シーズンも連覇、そして大学日本一を目指す東海大がリードする形でリーグ戦グループの覇権争いが繰り広げられることになるだろう。YC&AC優勝での確信はより強固になったのがこの戦いでの勝利。バランスの良さとFWとBKに得点能力の高い選手が満遍なく揃ったことで、昨年以上のチームになることは間違いない。ほぼメンバーが固まる中で、気になるのが司令塔。3年生ながら既にBKのまとめ役の役割を担うような存在になっている野口竜司の名前も挙がっているようだが、日本ラグビーの将来を考えればFBの専門職として大成して欲しいと願う。

流経大も主力で固めれば強力チームがすぐに出来上がる。大東大は文字通り前線で身体を張ったFW1列の選手達の卒業が痛いが、BKを中心としたメンバーの熟成度はリーグ戦Gで一番高いしチャンスの年。法政は苑田ヘッドコーチの就任が発表されたばかりで、BKの攻撃力復活なるかが注目点。中央大は4年生のSH2人(住吉と長谷川)のどちらを主としてチームを作るのかに答えを出す年になった。拓大はスクラムの強さとBK展開がうまくかみ合うか。1部復帰を果たした日大と関東学院はどのような形でチーム再建に取り組むかに注目したい。2部リーグでは専修大、東洋大、國學院大に勢いがあり、山梨学院や立正大もうかうかとはしていられない。今の時期に言うのは早過ぎると思いつつ、今年も2校同時入替は十分にありえそうな様相だ。

余談ながら、実は東海大で一番印象に残ったのは意外な選手だった。10番を付けて登場した新人のモリキ・リード。高校ラグビーを観ていないことがばれてしまうが、札幌山の手高校出身(すなわちリーチの後輩)で体幹が強いFBとして注目されていた選手だった。ポジションはFBまたはWTBで俊足ランナー。選手層が厚い実力優先主義(おそらく)の東海大にあって春の段階にもかかわらず1年生で登場したことも驚きだが、それだけの力があることを実際のプレーを観て実感した。体格も普通で派手なところもないが、さりげないプレーの中にも1年生離れした冷静な判断力が光る選手と目に映った。FBに野口が座るとしたら(WTBにも高速ランナーが揃うので)モリキは背番号通り(SO)でも面白いと思う。将来は日本代表を目指すという意思表示もしており、今後どのような形で成長していくかがとても楽しみな選手だ。


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