映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「赤線の灯は消えず」 京マチ子

2022-10-11 08:22:38 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「赤線の灯は消えず」を名画座で観てきました。


映画「赤線の灯は消えず」は1958年(昭和33年)の京マチ子主演の大映映画だ。「偽れる盛装」での堂々たる貫禄に圧倒されて名画座の大映女優特集を続けて観てしまう。1958年3月末に売春防止法が施行されてまもない時の公開である。DVDもなく今回初めて観る作品で、Wikipediaにも記載がない。

吉原の赤線にいた信子(京マチ子)が故郷にも出戻れず、東京で何度も職に就いても赤線にいたというだけで差別される話の主旨だ。ストーリーが進むにつれて、以前観た原知佐子主演「女ばかりの夜」に似ていることに気づく。もっとも、「女ばかりの夜」の方が1961年公開で、むしろ「赤線の灯は消えず」の後でできた作品だ。両方とも赤線出身者の世話をする婦人相談所をクローズアップする。

いくつも逸話があり、これでもかというくらい京マチ子が窮地に陥る。赤線出身者というだけで差別されるのだ。京マチ子にまとわりつくチンピラに根上淳、一緒の店にいた若い元娼婦に野添ひとみ、その恋人に船越英二といったあたりがメジャーな共演者だ。浪花千栄子がいつもながらの芸達者ぶりで笑いを誘う。上流「京女」のイメージだった若き日の市田ひろみ関西弁を駆使して元娼婦の役を演じるのもビックリだ。

赤線廃止後まもない吉原の建物などを映した貴重な映像もある。時流に合わせて急いでつくったと思しき、普通の映画である。京マチ子「偽れる盛装」ほどの迫力はない。溝口健二監督の「赤線地帯」はまだ赤線が現役だった時の娼婦たちの悲運を描いていた。ここでは、赤線廃止で職を失った女たちが、仕事に就いても元の素性がばれて職の上司に言い寄られたり、差別も受けるし、チンピラに絡まれたりで八方塞がりになる気の毒な話だ。もともとの売春生活に戻らざるを得なくなる。


京マチ子が元の同僚に女中のあてがあると言われて根上淳演じるチンピラのところに行くと、それは罠で一緒に組んで売春をやらないかと誘われる。当然断って婦人相談所に行く。でも、斡旋された玩具工場では工場主に無理やり誘惑されるところを奥さんに見つかると、こいつは元赤線出身者で女の方から誘ってきたと言われる。これと同じような話が「女ばかりの夜」にもあったなあ。何でもかんでも悪く解釈されることの連続だ。

売春防止法で女性が解放されたという大義名分がある一方で、10万人以上の大量の失業者が出たという。半分が故郷に帰り、結婚する人もいたというが、暴力団も絡む闇売春が増えたのであろう。法律ができたおかげで放り出された女性が大勢いて、むしろその方が悲劇というのが映画で言いたかったのかもしれない。


この時代、女性にとっては、大正から昭和の初頭に生まれた大半の男たちが戦争にとられて適齢の結婚相手の絶対数が減り、苦労したはずである。そんな悲しい昭和史はこういう映画を観るとよくわかる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「偽れる盛装」 京マチ... | トップ | 映画「さかなのこ」 のん »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画(日本 昭和34年以前)」カテゴリの最新記事