映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「由宇子の天秤」 瀧内公美

2021-09-23 18:22:21 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「由宇子の天秤」を映画館で観てきました。
これはよかった。いくつかのマイナス面はあるが,本年屈指の傑作と評価されるであろう。


「由宇子の天秤」「火口のふたり」での大胆な演技で一躍有名になった瀧内公美が主演、前作「裏アカ」「アンダードッグ」でも美しい裸体を見せていたが、今回はそういうシーンはない。高校の校内で教師と女子高生の不純な噂が広まり、それを苦にして自殺した事件を追う女性TVディレクター(瀧内公美)が、学習塾を経営する自分の父(光石研)が塾に通う女子高校生を妊娠させてしまった事実を知り右往左往する展開だ。


ここでは大きく2つのストーリーがパラレルに流れている。由宇子にとっては、報道の取材における関係者家族やTV局上層部との葛藤と、父親が犯した行為の顛末と両面で常に心が揺れている。ふつうの女の子だったらくじけてしまいそうなことにも耐える。行動力があり精神的に強い女性だ。そんな女性の心の葛藤を描くストーリー立てがうまい。

由宇子の天秤は長回しが多い映画だ。個人的には不必要に長いと感じる場面もある。取材している教員側の家族が苦悩するシーンで、自分の理解度が弱いのか意味がわからないシーンもある。それでも情感がこもったシーンの方がまさり、展開の巧みさで映画の質を高めている。

⒈瀧内公美とその葛藤
キャリアのある女性を演じるのがうまい。「火口のふたり」の時にはまったく感じなかった。事件のせいで周囲から白い目で見られている当事者の家族が感じる辛い思いをTVのドキュメンタリー番組にしようとする由宇子(瀧内公美)を追っていく。ディレクターと言ってもTV局の社員ではない。下請け制作会社で局に売り込むわけだ。

犯罪を犯した当事者の家族が苦しい思いをする映画はこれまでにもいくつかあった。過剰な報道にも責任があるという由宇子の主張がTV局の幹部と相容れない。その論点があるとともに、亡くなった女子高校生と教員のそれぞれの家族との交流を描くのが映画の序盤戦の主体であった。

由宇子は父親の経営する学習塾を手伝っていた。ある時、1人の女子高生が塾の中で嘔吐する。体調が悪いという女の子の様子がおかしい。由宇子は妊娠を疑い検査薬を買うと陽性だ。まして、赤ちゃんの親は由宇子の父親と本人から聞き慌てる。女の子の家は貧しい。塾の学費はただにするというのだ。

行動力のある由宇子は、父親の行為には落胆しても事を荒立てないように処理しようと、医師の友人に相談する。密かに診察してもらうが、専門医でないと手に負えない状態のようだ。安易には処理できないのだ。

⒉読めないストーリー展開
ミステリー映画では謎をつくって、その謎が徐々に解決していくという流れがある。当然、ストーリー展開がどうなるか気になりながら映画を追う。この映画では謎は投げかけられない。でも、打つ手が八方塞がりになっていく過程で決着の持って行き方が気になる。観ている方も映画に集中してしまう。


塾頭である父親は自分の責任だと告白しようとするが、由宇子は取材した重要なTVドキュメンタリーが日の目を見ようとしているからそれを待ってくれという。過ちが起きると、その周囲が苦しい思いをするのを見ているので本当は表沙汰にしたくない。でも、母体には危険が迫っている。

この先どうなってしまうのだろうと映画を観ながら何度も展開を脳裏で想像した。この後も春本雄二郎監督は数多くの伏線を張り巡らせながら、推理を複雑にしていく。

そして、最終場面が近づくにつれ、逆転技を連発する。ここまできたのに、こうくるか!ディートリッヒの「情婦」を連想した。展開的には満点と言えよう。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「からみ合い」岸恵子&... | トップ | 映画「クーリエ 最高機密の運... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画(日本 2019年以降主演女性)」カテゴリの最新記事