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映画とライフデザイン

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映画「海辺へ行く道」 横浜聡子

2025-09-05 07:44:00 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)

映画「海辺へ行く道」を映画館で観てきました。

映画「海辺へ行く道」は漫画家三好銀の同名漫画の映画化。アーティスト歓迎を掲げる海辺の町に暮らす美術部の中学生が主人公だ。コメディ仕立ての横浜聡子監督の作品である。「俳優亀岡拓次」「いとみち」と続く横浜聡子作品はいずれも大好きで新作を楽しみにしていた。横浜聡子作品の常連麻生久美子は今回も登場。上映時間140分は長いかな?と思ったが、実際に観てみると三つの短編的エピソードが自然に連なっていく展開で思ったより退屈しない

夏休みに入って美術部での創作活動や劇のバックの絵画づくり、新聞部の手伝いに夢中で忙しい主人公・奏介(原田琥之佑)の学校仲間や同居する親戚寿美子(麻生久美子)を中心にストーリーは動く。その奏介の才能を認める謎の美術商・A氏(諏訪敦彦)に人魚像を依頼されている。学校内の話に並行して町にやって来るあやしい流れ者との逸話が3つできていく。

第1の流れでは、町にやってきたヨーコ(唐田えりか)と高岡(高良健吾)のカップルが不動産屋(剛力彩芽)の案内で部屋を決める。高良の素性は「流れ者の包丁売り」だ。鮮やかな手つきでデモンストレーションを披露して包丁はバカ売れ。でも実際に売る包丁は豆腐すら切れない粗悪品。買ったおばさんたちが大騒ぎになり、主人公の家も同じだ。小さな波紋が広がっていく。

第2の流れでは、奏介が美術部の先輩と“覆面”をつくる。寝たきりのおばあちゃんを喜ばせたいその一心で、亡きおじいさんの顔を模した覆面を被って現れたが思わぬ騒動に発展する。並行して、老人ホームの女子職員が入居者たちを屋外に連れ出し炎天下でエンドレスゲームをさせる様子を、新聞部の女子中学生がこっそり撮影。純粋な取材のつもりが、教師はその動画を「いじめ」だと受け取り大問題。

第3の流れでは、町に来たアーチストケン(村上淳)と、彼を追う街金の借金取りメグ(菅原小春)をクローズアップ。メグは主人公奏介のおばさんで、不動産屋(剛力彩芽)の旧友でもある。取り立てで町に来て、剛力に「こういう人物を探している」とケンの写真を見せる。一方でケンはいつのまにか剛力と近づき、人物相関はゆるく絡みあう。

うさん臭い登場人物と中学生との関係が楽しいコメディの快作である。

映画の基調は海辺の町の雰囲気と同様にやさしい。夏休みに入った中学生の学内交流が話の根底にあっても、田舎町に流れてきたうさん臭い人間を登場させてストーリーに変化をつくる。シリアスな話があってもベースはコメディだ。しかも中学生は自由奔放で純粋だ。のびのびと演じている主役の原田琥之佑さわやかな感触をいだく。

⒈絡み合う物語

この映画は「短編小説的なエピソードの積み重ねが互いに絡み合っていく構造」で仕上がる。普通の映画なら海辺の小さな田舎町では物語が尽きそうなところを、横浜聡子監督人物同士の縁をつなぎ直すことで、笑いと驚きが絶えない「豊かな町」として描いている。それがいちばんの魅力だ。

包丁騒動、覆面事件、動画を巡る誤解、借金取りの探索なども含めて子どもの善意や好奇心が大人のルールに合わずに事態が転がる。覆面づくりは純粋な「おばあちゃんを喜ばせたい」という思いから始まったのに、結果的に死んだ人の顔で現れたことで周囲を騒がせる。でも、そのズレは過度にムードを深刻化せずにコミカルに動く。ほんのりと朗らかだ

⒉海の町の空気感

ロケーションは小豆島古い家並みと路地、海に近い生活圏、簡素なパラソルの屋台。海辺の画面の空気感で「歩いてみたい」と思わせる。路地の曲がり、石や板壁の質感、波止場や浜をカメラが周回して素朴なスケールで見せつける。人物たちの動きと海辺の田舎町がごく自然にかみ合うのもいい感じだ。もう一度あの路地を抜けて海へ出たくなる衝動を起こさせる。

海辺のパラソルでランチを売る坂井真紀の屋台に、潜水服姿の宮藤官九郎が海から現れてランチする。そんな肩の力が抜けた光景も挟まれ、町の出来事として自然に受け止められるのがいい。

直近の小豆島ロケ地では永野芽郁主演の映画「からかい上手の高木さん」があった。残念ながらストーリーのネタが少なく今泉力哉監督得意の長回しで持たせるがダラダラ感があった。この映画は真逆で外からの流れ者をうまく挿入して奇抜なネタをたくさんつくった。練られてつくった感がある。

⒊脇役の活躍

奇抜なネタにはクセの強い登場人物たちの豊かな個性が必要だ。

映画は始まって早い時間にNetflix「極悪女王」クラッシュギャルズを演じた名コンビである唐田えりかと剛力彩芽が登場する。ちょうど一年経つね。あの熱演には感激した。詐欺師のようなテキヤっぽい高良健吾はいかにも流れ者。うさん臭いなあ。男前の詐欺師が似合う。切れない包丁を売りつけてすぐさま逃げてしまう。

つばの長いサンバイザーの女唐田えりかは主人公の少年と交流して地元の祭りで盆踊りのような「静か踊り」を踊る。いつもながらかわいい。剛力彩芽は最初これだけしか出ないのと思ったら、第3話で借金取りに追われる村上淳をかばう。2人ともいい味出しているんだ。

実はこれまであまり知らなかった菅原小春宝塚の男役みたいでカッコいい。ショートカットがいかにも男装の麗人だ。調べるとダンサーなんだね。大河ドラマで日本初の女子メダリスト人見絹枝を演じたと知りピッタリと感じる。演技巧者の中でも強烈な存在感がある。借金取りに追われるアーティスト村上淳、海岸でランチ販売をする坂井真紀、潜水服を着た常連客宮藤官九郎などは尋常じゃない。いずれも横浜聡子監督がうまく使い切る。


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