映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディー 」を映画館で見た。
これは今年一番好きな映画だなあ。
夏といえばビーチボーイズの季節だ。最近では車でドライブのチャンスが減ったが、当然のごとく夏になるとビーチボーイズ「endless summer」を聴きながら運転したものだ。そのご機嫌なサウンドを基調にして、ほとんどの歌を作曲しバンドを引っ張っていたブライアンウィルソンの裏話が語られる。ここまで凝り症だったのは知らなかったし、精神に異常をきたしてスランプの時期があったということも知らなかった。
ポールダノとジョンキューザックのダブル主演だが、60年代のブライアンを演じたポールダノが抜群にうまかった。
客層は自分の同世代から少し下くらいの音楽好きと思われる男性が多く、一部カップルもいたが男性比率が高い。最後のエンディングロールでは連発でブライアンの曲がかかり、最後の最後まで席を立つ人がいないというめずらしいパターンだった。
60年代のカリフォルニア。人気の絶頂期にあったザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は、ツアーには出ずスタジオでの音楽作りに専念したいと宣言する。心血を注いで完成したアルバム『ペット・サウンズ』は批評家の評価は高かったが、チャート1位を逃し、ブライアンは曲作りのプレッシャーや父親との確執から、次第にドラッグに逃げ込んでいく。
二十数年後、車ディーラーのメリンダ(エリザベス・バンクス)は、来店したブライアン(ジョン・キューザック)と惹かれ合う。彼の主治医である精神科医のユージン(ポール・ジアマッティ)の過剰な干渉と治療方針に、メリンダは疑惑を強めていく。(作品情報より)
映画が始まってすぐに「サーフィンUSA」が流れる。チャックベリーの「スウィートリトルシックスティーン」をベースにつくられたこの曲ほど夏モードを高める曲はあるまい。「ファンファンファン」「アイゲットアラウンド」と続き、太いストライブシャツでのバンド演奏の場面が出てくるだけで興奮が高まって、この作品への期待が高まる。
しかし、この映画の根底にあるのは天才ブライアンウィルソンの心の変調である。もっと暗い映画になってもおかしくないのに、終わってみるとそこまで思わせないのはビーチボーイズのハーモニーを存分に聞かさせてくれるからであろう。
1.ペットサウンズ
1965年にビートルズがアルバム「ラバーソウル」を世に出す。「ノルウェイの森」のシタールにしろ、「インマイライフ」のジョージマーティンが弾いたと言われるバロックピアノの間奏といいロックに変質をもたらしたのは確かである。それに感化されたのはブライアンウィルソンだ。このままではビーチボーイズが取り残されると感じてアルバム「ペットサウンズ」の製作にかかった。当時ローリングストーンズもビートルズの動きの変化に合わせて「アフターマス」から「サタニック・マジェスティーズ」にかけて路線を変えたことを思えば当然の動きである。
ここで映されるのは凝り症のブライアンの動きだ。音響効果にこり、外部の演奏家を大量に呼ぶ。メンバーたちはあくまでコーラスに徹して演奏させない。何回も何回も同じテイクを重ねる。呆れるメンバーとは不協和音が生まれる。
苦労したにもかかわらず、全米のセールスは今一つのびなかった。逆に英国では評価が高い。マネジャーである父親が元来のサーフミュージックに戻ってやればいいじゃないかと口を出す。それがますますブライアンウィルソンの混乱をましていく。
2.「Wouldn't It Be Nice 」と陽だまりの少女
ペットサウンズのA面の一曲目が「Wouldn't It Be Nice 」である。コーラスが美しく、いかにもビーチボーイズらしいリズムの名曲である。この曲がラスト寸前にかかる。思わず胸がジーンとしてくる。これってつい最近に同じような衝動を覚えた。2013年の松本潤、上野樹理主演の日本映画「陽だまりの少女」ではメインテーマになっていたからだ。この映画がまた泣ける映画だったが、湘南の海の映像と相性が良かったので記憶に新しい。
(参考記事) 「陽だまりの彼女 松本潤&上野樹里」
3.薬物使用と統合失調症
ペットサウンズを制作するころから、ブライアンはコカインなどの薬物に手を出すようになる。その後の奇怪な行動はこの映画で語られる。凝り性な性格も精神を不安定にする要因であるが、この変調は薬物のせいだと思う。
コカインを飲んで中毒になったマウスでは。。。脳の中のドーパミンの量を測ると、確かに過剰になっていて、シナプスのドーパミンが多いことがわかっている。すなわちコカインで生ずるような被害妄想とか多動の症状はすべて脳の中のドーパミンが多くなっていることが原因だと証明された
(遺伝子が明かす脳と心のからくり 石浦章一著 引用)
「フィルスペクターが盗聴している」なんて被害妄想の言葉もブライアンが話している。映画では最終的には妄想性統合失調症の病名は覆されたが、まさしくこれって単なる心の病気でなく統合失調症の症状でしょう。
そうなると精神病向けの薬漬けになるのも止むを得ないし、日本の精神病院に行くと、薬漬けになっている人はいくらでもいる。今回は1人の精神科医を悪者にした。たしかにやり過ぎの感はあるけど、実際にはどっちもどっちの部分もあるような気もする。
ちなみにこの精神科医を演じたポールジアマッティはいつもながらの好演技。うまい!!この役は故フィリップシ―モアホフマンでもいい気がする。でも彼が亡きあと、こういう悪役はポールしかできる奴いないなあ。かつらをかぶっているんで一瞬分からなかった。
4.ポールダノ
ナイーブな役柄を演じさせると実にうまい。「ルビースパークス」の作家役もいい感じで、ゾーイカザンが書いた素敵な恋の物語だった。「プリズナーズ」では精神障害を持っている青年の役で犯人と誤認されてしまう役を演じた。主人公に顔がぐちゃぐちゃになるくらい殴られる役柄だ。そのあたりはこの映画に通じるところである。「それでも夜は明ける」では黒人奴隷をいじめる。でもこれくらいじゃないかな?いやな奴の役
役にも恵まれているが、彼のようなルックスを持つハリウッドスターって割と少ない。今後も起用されるんじゃないかな。
5.ビーチボーイズとの出会い
クリスマスの季節にジョンレノンとオノヨーコのデュエットが流れるのと同様に、夏になるとビーチボーイズの歌が日本各地でBGMのように流れる。定番は「サーフィンUSA」と「サーファーガール」だ。「ファンファンファン」はカーペンターズの「ナウアンドゼン」で知る。心地よい歌を知るために、少年だった自分はベストアルバムから入ったが、そのころ「エンドレスサマー」というビーチボーイズのベストアルバムが全米ヒットチャートで1位になる。アメリカでも根っからのファンは多いのだ。それにしてもこのグループは奇妙なことが起こる。トムクルーズの映画「カクテル」で気持ち良くバーカウンターでカクテルををふるまう場面で、ビーチボーイズ「ココモ」が流れる。
これは本当に久しぶりの全米ヒットチャート1位である。この時は自分のことのようにうれしかった。忘れられない存在なのだ。
こんな想い出が次から次へと頭に浮かんできて気分がものすごく高揚した。
本当によかった。
(ポールダノ 参考作品)
これは今年一番好きな映画だなあ。
夏といえばビーチボーイズの季節だ。最近では車でドライブのチャンスが減ったが、当然のごとく夏になるとビーチボーイズ「endless summer」を聴きながら運転したものだ。そのご機嫌なサウンドを基調にして、ほとんどの歌を作曲しバンドを引っ張っていたブライアンウィルソンの裏話が語られる。ここまで凝り症だったのは知らなかったし、精神に異常をきたしてスランプの時期があったということも知らなかった。
ポールダノとジョンキューザックのダブル主演だが、60年代のブライアンを演じたポールダノが抜群にうまかった。
客層は自分の同世代から少し下くらいの音楽好きと思われる男性が多く、一部カップルもいたが男性比率が高い。最後のエンディングロールでは連発でブライアンの曲がかかり、最後の最後まで席を立つ人がいないというめずらしいパターンだった。
60年代のカリフォルニア。人気の絶頂期にあったザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は、ツアーには出ずスタジオでの音楽作りに専念したいと宣言する。心血を注いで完成したアルバム『ペット・サウンズ』は批評家の評価は高かったが、チャート1位を逃し、ブライアンは曲作りのプレッシャーや父親との確執から、次第にドラッグに逃げ込んでいく。
二十数年後、車ディーラーのメリンダ(エリザベス・バンクス)は、来店したブライアン(ジョン・キューザック)と惹かれ合う。彼の主治医である精神科医のユージン(ポール・ジアマッティ)の過剰な干渉と治療方針に、メリンダは疑惑を強めていく。(作品情報より)
映画が始まってすぐに「サーフィンUSA」が流れる。チャックベリーの「スウィートリトルシックスティーン」をベースにつくられたこの曲ほど夏モードを高める曲はあるまい。「ファンファンファン」「アイゲットアラウンド」と続き、太いストライブシャツでのバンド演奏の場面が出てくるだけで興奮が高まって、この作品への期待が高まる。
しかし、この映画の根底にあるのは天才ブライアンウィルソンの心の変調である。もっと暗い映画になってもおかしくないのに、終わってみるとそこまで思わせないのはビーチボーイズのハーモニーを存分に聞かさせてくれるからであろう。
1.ペットサウンズ
1965年にビートルズがアルバム「ラバーソウル」を世に出す。「ノルウェイの森」のシタールにしろ、「インマイライフ」のジョージマーティンが弾いたと言われるバロックピアノの間奏といいロックに変質をもたらしたのは確かである。それに感化されたのはブライアンウィルソンだ。このままではビーチボーイズが取り残されると感じてアルバム「ペットサウンズ」の製作にかかった。当時ローリングストーンズもビートルズの動きの変化に合わせて「アフターマス」から「サタニック・マジェスティーズ」にかけて路線を変えたことを思えば当然の動きである。
ここで映されるのは凝り症のブライアンの動きだ。音響効果にこり、外部の演奏家を大量に呼ぶ。メンバーたちはあくまでコーラスに徹して演奏させない。何回も何回も同じテイクを重ねる。呆れるメンバーとは不協和音が生まれる。
苦労したにもかかわらず、全米のセールスは今一つのびなかった。逆に英国では評価が高い。マネジャーである父親が元来のサーフミュージックに戻ってやればいいじゃないかと口を出す。それがますますブライアンウィルソンの混乱をましていく。
2.「Wouldn't It Be Nice 」と陽だまりの少女
ペットサウンズのA面の一曲目が「Wouldn't It Be Nice 」である。コーラスが美しく、いかにもビーチボーイズらしいリズムの名曲である。この曲がラスト寸前にかかる。思わず胸がジーンとしてくる。これってつい最近に同じような衝動を覚えた。2013年の松本潤、上野樹理主演の日本映画「陽だまりの少女」ではメインテーマになっていたからだ。この映画がまた泣ける映画だったが、湘南の海の映像と相性が良かったので記憶に新しい。
(参考記事) 「陽だまりの彼女 松本潤&上野樹里」
3.薬物使用と統合失調症
ペットサウンズを制作するころから、ブライアンはコカインなどの薬物に手を出すようになる。その後の奇怪な行動はこの映画で語られる。凝り性な性格も精神を不安定にする要因であるが、この変調は薬物のせいだと思う。
コカインを飲んで中毒になったマウスでは。。。脳の中のドーパミンの量を測ると、確かに過剰になっていて、シナプスのドーパミンが多いことがわかっている。すなわちコカインで生ずるような被害妄想とか多動の症状はすべて脳の中のドーパミンが多くなっていることが原因だと証明された
(遺伝子が明かす脳と心のからくり 石浦章一著 引用)
「フィルスペクターが盗聴している」なんて被害妄想の言葉もブライアンが話している。映画では最終的には妄想性統合失調症の病名は覆されたが、まさしくこれって単なる心の病気でなく統合失調症の症状でしょう。
そうなると精神病向けの薬漬けになるのも止むを得ないし、日本の精神病院に行くと、薬漬けになっている人はいくらでもいる。今回は1人の精神科医を悪者にした。たしかにやり過ぎの感はあるけど、実際にはどっちもどっちの部分もあるような気もする。
ちなみにこの精神科医を演じたポールジアマッティはいつもながらの好演技。うまい!!この役は故フィリップシ―モアホフマンでもいい気がする。でも彼が亡きあと、こういう悪役はポールしかできる奴いないなあ。かつらをかぶっているんで一瞬分からなかった。
4.ポールダノ
ナイーブな役柄を演じさせると実にうまい。「ルビースパークス」の作家役もいい感じで、ゾーイカザンが書いた素敵な恋の物語だった。「プリズナーズ」では精神障害を持っている青年の役で犯人と誤認されてしまう役を演じた。主人公に顔がぐちゃぐちゃになるくらい殴られる役柄だ。そのあたりはこの映画に通じるところである。「それでも夜は明ける」では黒人奴隷をいじめる。でもこれくらいじゃないかな?いやな奴の役
役にも恵まれているが、彼のようなルックスを持つハリウッドスターって割と少ない。今後も起用されるんじゃないかな。
5.ビーチボーイズとの出会い
クリスマスの季節にジョンレノンとオノヨーコのデュエットが流れるのと同様に、夏になるとビーチボーイズの歌が日本各地でBGMのように流れる。定番は「サーフィンUSA」と「サーファーガール」だ。「ファンファンファン」はカーペンターズの「ナウアンドゼン」で知る。心地よい歌を知るために、少年だった自分はベストアルバムから入ったが、そのころ「エンドレスサマー」というビーチボーイズのベストアルバムが全米ヒットチャートで1位になる。アメリカでも根っからのファンは多いのだ。それにしてもこのグループは奇妙なことが起こる。トムクルーズの映画「カクテル」で気持ち良くバーカウンターでカクテルををふるまう場面で、ビーチボーイズ「ココモ」が流れる。
これは本当に久しぶりの全米ヒットチャート1位である。この時は自分のことのようにうれしかった。忘れられない存在なのだ。
こんな想い出が次から次へと頭に浮かんできて気分がものすごく高揚した。
本当によかった。
(ポールダノ 参考作品)
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