映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「4ヶ月、3週と2日」 

2013-02-08 06:02:24 | 映画(洋画:2006年以降主演女性)
映画「4ヶ月、3週と2日」は2007年のルーマニア映画、その年のカンヌ映画祭パルムドールを受賞している。

妊娠中絶が制限されていた1987年のルーマニアを舞台に、友人の違法な中絶手術を助ける学生の一日を描く。タイトルの『4ヶ月、3週と2日』とは中絶する日までの妊娠期間のことだ。切羽詰まった状況に追い込まれた女性2人が中絶の日にどう行動するか?長回しの映像が続く。ほぼワンシーンワンショットで撮影された本作は、俳優の演技力が相当必要な作品だと思う。
映画としての水準はかなり高い。

1987年共産主義独裁政権下のルーマニアが舞台だ。
工科の大学生のオティリアは寮のルームメイトのガビツァと寮の中でせわしくなく動き回っていた。オティリアは恋人に会いに行く。彼からお金を借りた後、計画通りのホテルへ行くが、電話予約が入っていない事を知る。仕方なく別のホテルでダブルの部屋を取る。そのあとでガビツァの代わりにある男に会った。ガビツァは妊娠しており、ルームメイトのオティリアはその違法中絶の手助けをしていたのだ。共産主義下のルーマニアでは中絶は非合法で、それを犯すと重罪が待っていた。

オティリアは部屋をチェックインし、待ち合わせた男と部屋に入った。中にはすでにガビツァが来ていた。男はガビツァから妊娠2カ月と電話で聞いていた。その場では3カ月だという。しかし、前の生理からの妊娠月を数えると実際には4ヶ月である。男と金額交渉に入った。事前に処置の金額は決めていなかったのだ。妊娠4カ月を超える危険な状態での処置なのに、2人から提示された金額は少ない。これでは危険を冒してまでできないと男は怒る。交渉決裂となりそうな時、オティリアは大胆な提案をするのであるが。。。

ルーマニアというのは華がない国だというのが映像からよくわかる。東欧共産主義国を映すとどうしてもどんよりとした灰色のイメージになってしまう。ブルガリアのソフィアを映した映画と同じだ。そういう中での中絶の話である。もっと暗くなる。
映画の途中で主人公オティリアが恋人の家に遊びに行くシーンがある。本来は中絶したルームメイトの面倒をみたいけど、金を借りるという弱みもある。恋人の母親が自分のためにお菓子をつくっているようだ。結局行く。恋人の家系はルーマニアでは良い家系のようだ。医者が多く、在学中の成績の話題なんかも出てくる。あとはこの国のブルジョアの話題だ。オティリアの家はさほどでもない。黙ってみんなの会話を聞いている。このシーンは興味深かった。共産主義の矛盾が浮かび上がる。ハイエクが言うとおり、共産主義とは結局独裁主義で、資本主義以上の差別社会だということは今はみんなよくわかってきたと思う。



この映画を見て「何でこんなにルームメイトのこと面倒見るの?」とずっと思っていた。結局その謎は解けない。普通の神経では考えられない。単なる世話好きなのか?自分が同じように助けてもらっていたのかと思ったけど、そのセリフはなかった。
この妊娠した女の子はかなりいい加減だ。しかも、違法中絶をする男と会う前までは、本気で1カ月妊娠期間を間違えていた。しかも、計画はいい加減である。父親は出てこない。ルームメイトがいなければ、今回もできなかったであろう。それなのに感謝の気持ちがあるようにも思えない。ムカつく子だが、劇中だから仕方ない。
「掻爬」というのは久々聞いた言葉だ。三島由紀夫の小説「美徳のよろめき」で人妻が浮気をしまくって何度も中絶する話がある。その際にこの文字を使った。この響きはどす黒い雰囲気だ。

1シーンにかかわる時間は長い。出演者が移動するときは、手持ちカメラで追いかける。それなので躍動感がある。ドキュメンタリーを見ているようなリアル感もでてくる。たった一日のことをこの映像にするためにかなりの時間舞台稽古のようにリハーサルをしないとつくれないのではないか。内容的にはムカつくこともあるが、凄味は感じた。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする