三浦しをんの「私が語りはじめた彼は」を読みました。
最初、彼女の名を見たときに、「三浦をしん」かと誤読してしまいました。
それで勝手に「おしん」のイメージから苦労なさっている高齢の女性と想像してい
たのですが、それはそれはとても失礼極まりない勘ちがいでしたね。
さて、肝要な中身ですが、彼女 しをんさんはとても読者を作品に引き込むのが上
手です。純文学のような、ミステリーのような、不思議な作品でした。
文体の技術力は抜群です。所々に綺羅星の如くちりばめてあります。
「脳みその襞に刻みこまれた記憶と、網膜に映しだされる眼前の風景とを
すりあわせる、・・・・」
「桜の花びらが、なにかの重みに耐えかねたかのように一枚一枚剥離しはじめた。
風に乗った途端に花びらは重さを忘れ、痙攣にも似た震える軌跡を描きながら地面
を目指す。」
テーマは何なのでしょう。村川融、彼をとりまくほとんどの人物が否応なく打ちの
めされたり、自らの命を絶ってしまうことで、
倫理に悖る行為を避けよということなのでしょうか。
「春宵一刻値千金」とのたまった教授が、自己中心的な「心地よさ」を感受し盲目
的な暴挙を暗に糾弾されたにすぎないのでしょう。