「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

一緒に食べましょうよ Long Good-bye 2021・09・21

2021-09-21 05:06:07 | Weblog




   今日の「 お気に入り 」 。


     「 われわれがサルと呼んでいるニホンザルやヒヒのような動物は 、基本的には仲間内で食物を分かち合うと

      いうことはありません ( 南米にはオマキザルやタマリンという餌を分配する珍しいサルもいますが…… ) 。

      しかし 、ゴリラやチンパンジーのような類人猿は餌を分け合います 。」


      ( 中 略 )


     「 親から子へ食べ物の分配が行われる種は 、現在 、約300種いる霊長類のなかでも限られています 。

      さらに大人同士で分配が起こる種はごくわずか 。そして 、おとなの間で分配が行われる種は 、必ず親子

      間でも分配が起こる種だということが分かっています 。

       つまり 、もともと親から子へ行われていた食物分配が 、何らかのきっかけでおとな同士の間でも普及

      したと考えられます 。おそらく人間も例外ではないはずです 。

       特筆すべきは 、強い者が独り占めをして食べるサルとは正反対で 、体が大きいほうが分配をするとい

      うこと 。執拗 ( しつよう ) に肉の分配を要求するチンパンジーのメスに取り囲まれたオスが 、不承不承と

      いった様子で肉を分け与えることもあります 。結果的に 、チンパンジーたちは同じ場所で 、同じものを

      同時にみんなで食べることになる 。これが食事の原形になっているのです 。

       われわれ人間も 、レストランではそれぞれ違う料理を食べることもありますが 、基本的には同時に同

      じものをみんなで食べます。私たちはそれを何の疑いもなく 、当たり前のように日々行っています 。し

      かも 、ゴリラやチンパンジーのように要求されなくても 、食物を持っている者がわざわざ相手のもとに

      運んで『 一緒に食べましょうよ 』なんてことを言う 。なんでそんなバカなことを !? と 、争いを避け

      るために弱い者が身を引くというルールを徹底させたサルなら思うでしょうね 。実はわれわれが日常的

      に行っているのは 、非常に不思議なことなのです 。

       ケンカの種になりそうなものを相手との間にわざわざ置いて 、仲良く一緒に食べましょうと食べ物を

      囲む 。ということは 、私たちは誰かと食事をするたびに『 平和の宣言 』をしているとも言えると思い

      ませんか 。( ケンカの種となり得る )食べ物を 、あなたと私は仲良く食べられるような関係になりま

      すよ 、ということを 、最初から前提として向かい合っているわけですから 。」

       ( 中 略 )

     「 われわれは意識的にでも 、無意識的にでも 、大事なことを話すときには 、食事を伴うことが少なく

      ありません 。そういう場を設け 、そこで食を通じたコミュニケーションをとることで 、私たちは他

      者を受け入れてきました 。食事の場を設けるということ自体が 、和解を前提にしているのです 。

       食事は 、人間がチンパンジーの共通祖先と別れてから 、最初につくりあげた最も重要なコミュニ

      ケーションだと思います 。サルにとって食事は一般に非常に個的な行為です 。それを人間は自分の

      食欲を抑制し 、相手と同調させながら 、やり取りにしました 。しかも 、みんなで食べると 、食事

      がより美味しく感じられたりもする 。共食の不思議な魅力です 。栄養補給の面から見れば 、非効率

      極まりありません 。一人で食べれば数分で終わるものを 、時間をかけてみんなで食べるのですから 。

       今の食事の形態は料理を出す順番や 、味つけ 、配膳の仕方 、料理と食器の合わせ方のような工夫

      を重ねたうえで 、できあがっています 。でも 、食事のプリミティブ ( 原初的 )な段階で大切にさ

      れていたことは 、やはりやり取りや同調だったと思います 。食は人間にとっていちばんプリミティ

      ブで大切なコミュニケーションなのです 。」


     ( 出典:山極寿一著 「 京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ 」. 朝日新聞出版 刊 )





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