「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

少子化 Long Good-bye 2023・10・27

2023-10-27 05:24:00 | Weblog

 

 今日の「 お気に入り 」は 、山田太一さんのエッセイ

 「 夕暮れの時間に 」から「 七番目の子ども 」の一節 。

  備忘のため 、抜き書き 。

  引用はじめ 。

 「 出生率が落ちている 。『 少子化対策 』ということがいわれている 。

   しかし 、地球規模で見れば 、エネルギーのためにも 食糧のために

  も 、人口減少は あきらかに のぞましい傾向で 、日本だけ なんとか

  もう一度 人口を増やして 国力をつけようなんて 、いかにも 目先の

  経済の御都合主義で 、子どもを産む人の 幸不幸 など とんと視野に

  ないという気がする 。

   第二次大戦中に 、兵力の減少を心配して『 生めよ 、増やせよ 』

  と提唱した政策を思い出す 。戦死者が多いので 、もっと産んで 早

  く育てて 次の戦力にしようというのだから 随分バカにした話であっ

  た 。

   それが敗戦となり 、どっと海外にいた日本人が戻ってくると 、

  今度はなんとか人口を減らそうとして 、南米の荒地を楽園のよう

  にいい 、数からいえば人口に大きな変動を生むわけでもないのに 、

  何千人かの人々を嘘までついて移民船に乗せ日本から追い出した

  りしたのである 。

    国の政策なんていつもそんなものだし 、いま時の女性が『 少子

  化対策 』のせいで どんどん子どもを産むとは到底思えないから 、

  対策の犠牲者の心配はないだろうし 、この先は『 少子化 』を現

  実として受けとめ 、それをプラスとして生きる他はないのだ 、と

  いうように思っていた 。いまだってそう思っているが 、実は一点 、

  ある事実に気が付いて 、幾分気持が複雑になっている 。

   私事 ( わたくしごと ) である 。それを一般論に持ち込むのは無

  理があるし 、根拠にして なにかを主張する気など さらさらない

  のだが 、妙に頭をはなれない 。

   それは 、私が両親の七番目の子どもだということである 。下に

  妹が一人いて 、母は八人の子どもを産んだ 。

   いまの日本なら七番目の子どもなんて 、まず生まれる機会がない

  だろう 。八番目の妹はもっとない 。しかし 、妹も 私も たっぷり

  いろいろな思いをして 七十年前後の人生を生きて来た 。妹には二

  人の子どもがいて孫が一人いる 。私は三人の子どもがいて三人の

  孫がいる 。

   しかし 、妹も私も 、いまの日本なら 、ほとんど存在しない子ど

  もなのである 。

   時代によっては自分は存在しない人間なのだという感覚など奇妙

  すぎて共感を求めようもないが 、街を歩いていると 、この雑踏の

  大半は一番目か二番目か三番目に生まれた人だろうと思い 、たま

  には五番目 、六番目もいるだろうが 七番目というのは少ないだろ

  うと 、自分が生きていることの不思議に立ち止まったりするので

  ある 。

   テレビで動物のドキュメンタリイを見ていると 、大きかろうと

  小さかろうと 、生物の生涯の最大のテーマは 次世代をつくること

  で 、ほとんどの生物は 一生の大半を生殖 、出産 、子育て 、子

  離れに費して 、あとは死ぬだけ 、他の目的はないかのようであ

  る 。母もそれに近いところで死んだ 。五十歳であった 。

  そのような女の一生から 、いまの日本は 半ば 脱したのである 。

  女性が自分の人生を楽しむことを当然とし 、子どもではなく 自

  分のために生きることを目指して 臆することのない社会 をかなり

  のところまで手にしたのである 。それが少子化という現象の大

  きな意味であり 、仮に それにマイナスがあったとしても それは

  また 子どもをもっと産むということで解決することではなく 、

  少子化の現実の中でなんとか工夫すべきことだろうと思う 。

   理性は 、そう思う 。

   だから 、それでいいのだが 、しかし 、もしこの理性が 私の生

  まれた昭和初期の日本の社会で機能していたら 私はまず存在して

  いない七番目の子どもであり 、そういう人間が 、自分はうまく

  多産の時代に生まれて存在できたのをいいことに 、いま七番目に

  生まれる順番の子どものことなどまったく知らん顔で 少子化を肯

  定ばかりしていいのか 、という無茶苦茶といえば無茶苦茶 、極

  私的といえば極私的な気持ちの始末をつけかねている 。

  ( 後 略 )

  ( 『 婦人公論 』 2006年2月22日 ) 」

  引用おわり 。

  ( ´_ゝ`)

 

  毎年10月の最終金曜日は 世界キツネザルの日 ( World Lemur Day ) 。

  今年は今日 。

 

コメント
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