「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ヨハネス・フェルメール Long Good-bye 2021・11・30

2021-11-30 05:30:00 | Weblog


  今日の「 お気に入り 」 。

   「 顕微鏡を世界で最初に作り出したのは 、今から350年前のオランダ人です 。

    首都のアムステルダムから 、現在なら電車で1時間ほど南西へ向かった デルフト

    という小さな街で生まれ育った 、アントニ・レーウェンフック という人物 。

     17世紀ですから 、日本は江戸時代が幕を開けて間もない頃です 。

     デルフトの街は城塞都市のように周りを掘割で囲まれ 、端から端まで10分も

    あれば歩いていけるほどの狭い街でしたが 、17世紀のオランダは産業や貿易

    によって繁栄を遂げた経済の交差点であり 、芸術文化の交差点でもありました

    から 、アムステルダム や ライデン とともに デルフト も ヨーロッパ中の人

    々が行き交う街として 、さまざまな知識や技術が集約されていました 。  

     その デルフト で独自の顕微鏡を作り出した レーウェンフック は 、留め金の

    ようなかたちをした 板状の本体に 、自分で工夫しながら磨いた レンズ をはめ

    込み 、いろいろなものを観察していました 。

     レーウェンフック は 、高等教育も受けておらず 、大学の先生でもなく 、専

    門の科学者でもありませんでした 。デルフトの一市民だったのです 。にもかか

    わらず 、アマチュアとしてひたすら顕微鏡づくりに没頭し 、改良を重ね 、ミ

    クロの世界を人類史上初めて精密に観察することに成功しました 。

      ( 中 略 )

     この自作の顕微鏡を使って 、レーウェンフック は 、私たちの体が細胞という

    小さなユニットからできていることを発見しました 。それから 、血液の流れも

    観察し 、血管の中に流れているたくさんの粒子を見付けました。白血球や赤血

    球です 。さらに彼は街へ出て 、水たまりの水を少しだけ採ってきて顕微鏡で

    覗きました 。すると 、肉眼ではまったく透明に見える水の中に 、さまざまな

    かたちをした微生物が光りながら 、踊りながら 、泳いでいる様子を目にしま

    した 。すなわち彼は 、細胞の発見者でもあるし 、赤血球や白血球の発見者

    でもあるし 、微生物というミクロな世界の発見者でもあったのです 。

     もう一度言いますが 、レーウェンフック は 、学者ではありません 。デル

    フトという小さな街に暮らした商人です 。そこがまた素晴らしいところで 、

    アマチュアが非常に大きな生物学上の発見をなしたということに 、私は深く

    感動しました 。

     レーウェンフック の最大の業績のひとつに 、動物の精子を発見した

    ことも挙げられます 。精子が生命の「 種 」になっていることを突き止め

    たのです 。ただ 、卵子は雌の体の奥深くにある細胞なので 、そこまでは

    彼も気がつきませんでしたが 、雄の精子を発見し 、それが生命の種になっ

    ているということまで解明したのは凄いことです 。アマチュアが独自の工

    夫で学問の新しい扉を開いたという素晴らしさを 、私は顕微鏡の歴史をた

    どりながら感じました 。

     顕微鏡の発明者を追って17世紀の デルフト に時をさかのぼった私は 、

    そこで小さな発見をしました 。レーウェンフック の生家から200メー

    トルぐらいしか離れていないところに宿屋兼画商があり 、ここで レーウ

    ェンフック が生まれた1632年と同じ年 、そしておそらく同じ月に生

    まれた人がいました 。この人物は現在 、レーウェンフック よりもずっ

    と有名になっていますが 、実は同時代人としてデルフトの街で暮らして

    いたのです 。」

    ( 出典 : 福岡 伸一 著 「 最後の講義 ( 完全版 ) ー どうして生命にそんなに価値があるのか 」
        Shin - Ichi Fukuoka " The Last Lecture - Why life is so valuable " (株)主婦の友社 刊 )


   今から400年ほど前の オランダの人 。

   同じ1632年生まれの二人 。生まれた日もひと月ぐらいの違い 。

   Antonie van Leeuwenhoek さん と Johannes Vermeer さん 。

   同い年 、ご近所の誼みで 、親しい「 知り合い 」だったらしい 、かたや91歳の長命 、かたや40代半ばでの夭逝 。




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