TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

『ポルト』〜永遠の一夜の物語

2018年11月17日 | 映画とか
WOWOWで録画鑑賞。ジャームッシュ特集的な一連のシリーズのひとつだった。とはいえこの映画では「制作総指揮」、エグゼクティブ・プロデューサーで監督として変わっている訳ではなく、ちょっとこういうのには気をつけている。特に有名どころの(ま、ジャームッシュはいつまでたってもインディーズな立ち位置を崩さないけど)「肩書き参加」は要注意だなと、正直なところ少し思っていた。でもその予想は正しくはなかった。

ストーリーは、単純にいってしまえば、お互いの異国で出会った男と女の一夜の逢瀬。でもその一夜は時の流れから外れて、二人のなかに漂っている。たとえば川のなかの水草や藻の絡まり具合のせいで生じた渦につかまり、いつまでも流れていかない落ち葉のような記憶。そこでぐるぐると回り続けているその落ち葉は哀れなのか、あるいは幸せなのか、そんなことを考えつつ、つい目が離せない。そんな感覚が残った。

ところで異国という設定はありふれてはいるが、この映画の街(ポルトガルの第2の都市ポルト)は、登場人物たちのなかに深く根を張っている、ちょっとやっかいな異国でもある。

男(外交官だった父の都合で子どもの頃からポルトガルに住んでいるアメリカ人のジェイク・クリーマン。演じるのは昨年27歳の若さでこの世を去ったアントン・イェルチン)にとっては、住み慣れてはいるが、決して心を通わせられる街ではない。女(考古学を学ぶフランス人で、ポルトガル人の教授にプロポーズされてここに来た)にとって、ポルトは自分で選んだ街ではなく他者——かつては婚約者であり後には別れた夫、それから一夜を過ごしたアメリカ人——との接点としての場所でしかない。

この「異国」では、時間の流れがねじれて、あるいは凝縮されてしまうのだろうか。極めてシンプルな男と女の話が、この磁場のせいか一風変わった余韻を放っている。

いってみれば、ナイーブなお話なのだろう。でもそのナイーブさを構造的に昇華している——ときたま日本の映画で見かけるような雰囲気頼みの仕上げ方ではなく——ところには拍手したい。もしかしたら、この辺がジャームッシュの手腕だったのだろうか。あくまで推測だけど。

そしてもうひとつ、映像は美しい。「映像は」と書いたのは、どこか技法的な巧みさ——関連記事によると機材は8㎜、16㎜、35㎜のものを使い分けているそうだ——が目について、そこでお茶を濁しているような気もしたからだ。きれいな万華鏡を通して向こうを見ているような、そしてその向こうにある風景は意外に普通だったりする、そんなイメージもなくはない。ただ、これを『ストレンジャー・ザン・パラダイス』よろしくモノクロで撮ったら、ちょっとヒリヒリする作品になっていた気がする。

そんなこんなを、いろいろ考えさせてくれる一本。そしてそれは、割と楽しい行為でもありました。どこかで機会があれば、どうぞ。公式サイトはこちらです。

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