舞台は1490年のスペイン。セニョール・クリストバル・コロン、今は一般にはコロンブスの名で知られる男が新大陸を目指して策を巡らせていた時代だ。物語の重要なモチーフとして登場するライムンドゥス・ルルスや、その発明になる「円盤機械」の下りを読んでいて、これはAIのメタファーに違いない、と興奮していたら、あっさり後書きに記述があった……。ま、著者の背景を知る読者なら、皆んなそう感じても不思議はないよな、と最後は平熱に戻って本を閉じた。
でも、そんなことは関係なく、読ませてくれる一冊だ。著者の小説は、いわゆる文化人や知識人が試みとして書く「小説なるもの」とは全く違って、きちんと自分の足で立っている物語だ。西垣氏は、ある意味では「二刀流」なのかもしれない。ちょっと興味深かったのが、小説の本筋とはあまり関係ないけれど、時折スパイス的に描かれるセクシァルな描写。例えばルルスらの道中、廃墟となった街で出会った女や、ヒロインのマリアが意中の恋人アロンソを救うため、欲望の渦が巻いた男の視線を受ける様子など、なかなか「エロい」描写が文学的に成立している。これ、結構物書きとしては難しいことで、食と色をきちんと書ける力量のない作家は多い。例えば誰とは言わないが「ウルトラ・ダラー(って言ってるのと同じだ……)」の中のその手の描写は、いやー、読んでて赤面しちゃいました。
話を戻すと(何から?)、「普遍」という視点への考察や、冒頭で述べたAIが象徴する人間の知性に対する思いは、著者にとって重要なテーマのはずだ。それを小説というフォーマットに定着させる力は素晴らしい。ただ欲を言えば、もうひと膨らみがあれば……それはもしかしたら、脇役(といいつつ相当重要な位置にいるが)のロドリゴ・サンチェスや、周囲の人物の厚みと遊び(ハンドルの遊び、と同じニュアンスで)にかかってるのかもしれない。言ってみれば、計算式が向かう道筋とは異なる脇道が見せる世界観だろうか。こうなると「サイバーペット」も読んでおきたいなぁ。
でも、そんなことは関係なく、読ませてくれる一冊だ。著者の小説は、いわゆる文化人や知識人が試みとして書く「小説なるもの」とは全く違って、きちんと自分の足で立っている物語だ。西垣氏は、ある意味では「二刀流」なのかもしれない。ちょっと興味深かったのが、小説の本筋とはあまり関係ないけれど、時折スパイス的に描かれるセクシァルな描写。例えばルルスらの道中、廃墟となった街で出会った女や、ヒロインのマリアが意中の恋人アロンソを救うため、欲望の渦が巻いた男の視線を受ける様子など、なかなか「エロい」描写が文学的に成立している。これ、結構物書きとしては難しいことで、食と色をきちんと書ける力量のない作家は多い。例えば誰とは言わないが「ウルトラ・ダラー(って言ってるのと同じだ……)」の中のその手の描写は、いやー、読んでて赤面しちゃいました。
話を戻すと(何から?)、「普遍」という視点への考察や、冒頭で述べたAIが象徴する人間の知性に対する思いは、著者にとって重要なテーマのはずだ。それを小説というフォーマットに定着させる力は素晴らしい。ただ欲を言えば、もうひと膨らみがあれば……それはもしかしたら、脇役(といいつつ相当重要な位置にいるが)のロドリゴ・サンチェスや、周囲の人物の厚みと遊び(ハンドルの遊び、と同じニュアンスで)にかかってるのかもしれない。言ってみれば、計算式が向かう道筋とは異なる脇道が見せる世界観だろうか。こうなると「サイバーペット」も読んでおきたいなぁ。
1492年のマリア | |
西垣通 | |
講談社 |