原題は"Boyhood"。
リチャード・リンクレイターが12年の歳月をかけて撮り上げ、
2014年のサンダンス・フィルムフェスティバルを皮切りに
世界中で高い評価を獲得してきた一本。
テイストとしては穏やかなのに、読後感がずっと尾をひく映画だった。
見ている最中、「心地よい退屈」という言葉が浮かんできた。
100%賞賛の気持ちなのだけど、なぜに「退屈」?と自問自答。
思ったのが、「大きな川の流れを見ているようだ」ということ。
それは絵葉書になるような絶景の川ではないが、
ところどころに急流や危険な深みがあり、
また一方で流が緩やかで暖かい淵もある。
そしてなぜか、じっと見ていても飽きない。
そんな感じだろうか。
母親の3度の離婚や引越しなど
ある意味ドラマチックな要素は多々あるのだけれど、
その描き方は抑えか効いていて、
常に"Life goes on"なトーンが保たれている。
あるインタビューでのリンクレイター曰く、
「ここで事件が起こるだろう」と思わせるような場面も、
意図的にさらりとした展開で描かれている。
(建築中の空き家での集まりや、運転中のスマホシーンなど)
個々のエピソードの力に頼ることなく
主人公が生きる時の流れを軸としたストーリーテリングが、
見る人間に「自分の時間はどうだったのだろう」と
考えさせるのではないだろうか。
(少なくとも、私の場合はそうでした)
多くの人が指摘していることだが、物語の終わりでメイソンが
出会ったばかりの女性(ルームメイトの友人)と交わす会話は象徴的だ。
『どうして人は、一瞬をつかまえる、って言うのかな』
『わからないけど、僕は逆に、一瞬の方が
僕らをつかまえるんじゃないかという気がするんだ』
(うろ覚えです。実際には、
"You know how everyone's always saying seize the moment?"
"I don't know, I'm kind of thinking it's the other way around,
you know, like moment seizes us."かと)
誰もが、時間という川を泳ぐスイマーなのだろうか。
しかし息継ぎが下手なんだよなぁ、俺の場合……。
ま、見た後、いろいろと考えたくなるのも
映画の魅力のひとつだとすると、これは素晴らしい一本。
間に合えば、是非見て欲しいなぁ。
(日本の公式サイトは、こちら)
※付記
同監督の1995年の『ビフォア・サンライズ』には、
今回の父親役でもある、主演のイーサン・ホークが
列車で出会った女性(ジュリー・デルピー)に
テレビ番組の企画を話すシーンがある。
その内容は、こんな感じ。
「世界中から365人の人を集め、
それぞれの24時間をリアルタイムで撮影、
1年を通じて流す」
これももしかして、監督の時間への執着の現れなのだろうか……。