TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

6才のボクが、大人になるまで。

2015年01月12日 | 映画とか

原題は"Boyhood"。
リチャード・リンクレイターが12年の歳月をかけて撮り上げ、
2014年のサンダンス・フィルムフェスティバルを皮切りに
世界中で高い評価を獲得してきた一本。

テイストとしては穏やかなのに、読後感がずっと尾をひく映画だった。
見ている最中、「心地よい退屈」という言葉が浮かんできた。
100%賞賛の気持ちなのだけど、なぜに「退屈」?と自問自答。
思ったのが、「大きな川の流れを見ているようだ」ということ。

それは絵葉書になるような絶景の川ではないが、
ところどころに急流や危険な深みがあり、
また一方で流が緩やかで暖かい淵もある。
そしてなぜか、じっと見ていても飽きない。
そんな感じだろうか。

母親の3度の離婚や引越しなど
ある意味ドラマチックな要素は多々あるのだけれど、
その描き方は抑えか効いていて、
常に"Life goes on"なトーンが保たれている。

あるインタビューでのリンクレイター曰く、
「ここで事件が起こるだろう」と思わせるような場面も、
意図的にさらりとした展開で描かれている。
(建築中の空き家での集まりや、運転中のスマホシーンなど)

個々のエピソードの力に頼ることなく
主人公が生きる時の流れを軸としたストーリーテリングが、
見る人間に「自分の時間はどうだったのだろう」と
考えさせるのではないだろうか。
(少なくとも、私の場合はそうでした)

多くの人が指摘していることだが、物語の終わりでメイソンが
出会ったばかりの女性(ルームメイトの友人)と交わす会話は象徴的だ。

『どうして人は、一瞬をつかまえる、って言うのかな』
『わからないけど、僕は逆に、一瞬の方が
僕らをつかまえるんじゃないかという気がするんだ』

(うろ覚えです。実際には、
"You know how everyone's always saying seize the moment?"
"I don't know, I'm kind of thinking it's the other way around,
you know, like moment seizes us."かと)

誰もが、時間という川を泳ぐスイマーなのだろうか。
しかし息継ぎが下手なんだよなぁ、俺の場合……。

ま、見た後、いろいろと考えたくなるのも
映画の魅力のひとつだとすると、これは素晴らしい一本。
間に合えば、是非見て欲しいなぁ。
(日本の公式サイトは、こちら


※付記
同監督の1995年の『ビフォア・サンライズ』には、
今回の父親役でもある、主演のイーサン・ホークが
列車で出会った女性(ジュリー・デルピー)に
テレビ番組の企画を話すシーンがある。
その内容は、こんな感じ。

「世界中から365人の人を集め、
それぞれの24時間をリアルタイムで撮影、
1年を通じて流す」

これももしかして、監督の時間への執着の現れなのだろうか……。

ロボットデザイン概論/園山隆輔

2015年01月08日 | 読書とか
ロボットデザイン概論
クリエーター情報なし
毎日コミュニケーションズ



初版は2007年、ほぼ8年前の出版物だが、改めて示唆に富む一冊だと思った。

自分はロボットに関してはど素人だが(興味は凄くあるけど)、
述べられていることの本質は、コミュニケーションやマーケティングにも充分通じるものだ。
製作者とユーザー両方の視点からバランス良く語られる分析や見解は、
現実の仕事で凝り固まった脳みそを優しくほぐしてくれる気がする。

読んでいて思わず線を引きたくなる箇所がたくさんあるのだが、
その肝は「ユーザーとの関係性を作る」ということ。例も具体的で分かりやすい。

例えば、動物の形のロボットを作ったらなら、
ユーザーは無意識に目の部分で画像を認識すると思うはず。
もしそれに対するセンサーや反応箇所(振った手を認識したり、光ったり)が
別の部位に設けられていたら、それはディスコミュニケーションにつながるはず。

こういった基本的な文法を丁寧に踏まえていくことが、
作り手と使用者の両方のハピネスにつながるのだと思う。
あ、それから著者自身が描いたイラストもなかなかチャーミングですぜ。

久しぶりに本棚から出したのだけど、また何度も読み返したい。
で、皆さんも是非、とお勧めしようと思ったら、
なんとアマゾンでは中古が21,000円から。
やっぱり線引いたりするのはやめて、大事に扱います……。

著書の園山氏はパナソニック(旧松下電器産業)でプロダクトのデザインに携わったのち独立、
現在はロボットのデザインや大学での講師などをされている(ようです)。
素晴らしい著作に、感謝申し上げたいでございます。

中年の新たなる物語/デイヴィッド・ベインブリッジ

2015年01月05日 | 読書とか
中年の新たなる物語 (動物学、医学、進化学からのアプローチ)
クリエーター情報なし
筑摩書房


タイトルにドキッとして手にとった。
理由は自分自身のことが身につまされ(あるいは初期老年?)、
というのもあるのだけれど、
最近のマイテーマ(マイブームってのはあったけど、変かな?)として
「老いという未来」みたいなことを考えていたからだ。

この中で述べられていることと少し重なるのだが、
昔の40代と今の40代は(あるいは50、60)違う生き物だと思う。
良い悪いの話ではなく、科学的、社会的、心理的に異なる環境と文脈を経て
形作られてきた私たちには、ケーススタディに乏しいのだと思う。

つまり、生き続けること自体が一種の創造行為とならざるをえない。
でもそれはアートのような高次元のものではなく、
どちらかというと開拓者のような手探りの行程。
しんどいなぁ、と考えるか、オモロイやんか、と捉えるか。
昔々「新人類」という言葉があったけれど、
そういえば自分も「新中年(老年?)」だったりして。

あ、著者のデイヴィッド・ベインブリッジは
ケンブリッジ大学で教鞭をとる立派な研究者の方。
科学者の視点に英国人のシニカルなユーモアがほどよくブレンドされた
知的エンタメ本でもあります。
天気のいい土曜の朝、六本木の芋洗坂下のスタバで
濃いめのコーヒーなど飲みながら読んではいかがでしょう。