ここのところ続けて読んでいる、平野啓一郎氏の著作。
あらためて、「分人」というのは気になる考え方だと思う。
で、先日読んだ『空白を満たしなさい』の約3年前に書かれたこの小説は、
その分人思想(?)の初期の著作と言えるのかもしれない。
(Wikipediaには、「分人主義3部作」という呼称があった)
でも考えてみれば、これって小説家にとっては迷惑な話かもしれない。
別に氏は分人の啓発活動をしている訳ではないし、
全部そのフィルターで読まれちゃうのも気の毒な気もする。
えーっと、全く荒唐無稽のそしりを免れないと思うのだけど、
読み終えてふと、『風と共に去りぬ』を思いだした。
時代も場所も価値観も異なる時代を舞台に
人間の「希望」を見出そうとする物語、
というのは苦しいこじつけかもしれないけれど、
何だかその壮大なスケールと(素直に凄いと思う)、
もうひとつピンとこない感じが似いる気がするのだ。
ただこの2作、設定が過去の分『風と共に』は有利かもしれない。
例えば「散影」といった架空の技術を風景として読むのは、
SF志向のない自分には辛かった(ま、そういう問題じゃないかも)。
といって小説としてグッとこなかったという訳ではなく、
ここで描かれている人の姿は魅力的だ。
大統領選挙をめぐる候補者の丁々発止や主人公と妻との会話は、
著者の聡明さと情感の豊かさを、これでもかと示している。
いや、ホント「うまいんだなぁ、これが」なんですよ(分かります?)。
なんだか、ちょっと素人には難解なオペラの楽曲を
歌のうまさで最後まで聴かせてしまう歌手のような。
美しくて少し切なく、そしてどこか釈然としない耳鳴りが残っている。
ドーン (講談社文庫) | |
クリエーター情報なし | |
講談社 |