TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

東欧アニメをめぐる旅@神奈川県立美術館 葉山

2014年11月30日 | ♪&アート、とか

アニメ好きではないけれど、東欧アニメは気になっていた。
内容は期待以上で、クロアチア(旧ユーゴスラビア)の名作『ブーメラン』や、
シュールでどこかユーモラスな現代ポーランドの『イクトゥス(魚)』など、
刺激的な作品が多かった。

刺激的と書いたけれど、それは「斬新な」とか「エッジィな」という感じではなく、
「こんなところにも感性のツボがあったのか」という発見。
各々の作品は当時の政治や経済の影響も受けているのだろうが、
そういう視点をを超えて、クリエイティビティの放つ光がある。
映像やストーリーテリングに興味のある方は、是非見てください。

それから、美術館自体もとても素晴らしい。
というか、葉山の海辺というロケーションがずるいことこの上ないのだが、
併設のカフェレストランや、ちょっとした裏の散策コースも素敵過ぎるなぁ。
サイトはこちらです。

定期券(東京メトロ ショートストーリー佳作)

2014年11月22日 | 創作
定期券

くたびれた皮ケースに張りついた私の通勤定期を、妻は羨ましそうに見る。
自宅で翻訳の仕事をしている彼女にとって、電車に乗ることは、
その都度お金を払うことでもあった(実際はプリペイドカードだが)。

「入谷から上野経由で虎ノ門。だから上野、神田、日本橋、銀座、新橋
どこでも乗り降りできるじゃない。私だったら、真っすぐ帰る自信がないな」

街歩きが好きで、気に入った場所について綴った彼女のブログは、
結構人気があるらしい。
仕事の合間を縫って四時間足らずの旅人となる彼女には、
定期券がパスポートのように見えるのだろうか。

ただそのパスポートも、有効期限が迫っている。
来月で定年を迎える私には、今の定期券が最後の一枚だ。

「もう定期券なくなっちゃうのね。残念」
「でも別に俺、途中下車なんかしないし」
「知ってる。あなたそういう人だもの」

当たり前じゃないか、と思う。
特に用事でもない限り、サラリーマンは無駄な乗り降りなどしない。
でも、口にはしなかった。そう思いたくなかったのかもしれない。

定年までの一ヵ月は、音を消した映像のように黙々と過ぎていった。
もう私に、降りるべき駅はない。

「今まで本当にお疲れさま。これ、私からのお祝いです」

それは上品な艶を湛えた、皮の定期入れだった。

「これって、いまさら定期入れ?」
「よく見て」

内側には、地下鉄を自由に乗り降りできる全線定期券が入っていた。
また私に、降りるべき駅ができた。
東京中どこでも、というのは、いささか多過ぎる気はするが。



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※版権は東京メトロに所属しますが、公表されない佳作については
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