国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

物語の主人公が口笛で奏でるメロディーは?

2012年02月21日 | マスターの独り言(ジャズ以外音楽)
高校時代に毎日のように本屋に通っていた。
ちょうど『少年マガジン』で「金田一少年の事件簿」を連載している時であり、
それに見事にはまってしまったのだ。
そこで終われば「ただのマンガ好き」なのだが、
名台詞「ジッチャンの名にかけて」の「ジッチャン」が気になってきた。
そのため角川文庫から出版されていた「金田一耕助シリーズ」を
毎日のように買い漁ったのだ。

時はちょうど本格ミステリーブームでもあり、
推理小説の虜になってしまった僕はある程度「金田一耕助シリーズ」を読み終わると
島田荘司、綾辻行人、京極夏彦などなど、とりあえず毎日読み続けたのだ。

その中で異彩を放っていたのが笠井潔の「矢吹駆シリーズ」である。
読んでみるも普通の推理小説と違って重々しい。
加えて推理の楽しみを味わうと言うよりも思想的な対決場面が多い。
主人公の矢吹駆は魅力的であるが、どこかニヒリズムも漂っている。
正直、書かれている内容がちゃんと理解できるようになったのは、
ここ数年前のことである。

さて、その主人公、矢吹駆は犯人と最後に対決する時に必ず出るテーマがある。
マーラーの交響曲『大地の歌』の第1楽章である。
「現世の寂寥を詠える酒宴の歌」という副題が付いているのだが、
これは中国の詩人である李白の詩から始まっている。
中国の詩がドイツ語となり、テナーが押しては寄せる波のようなメロディーにのる。

本を読んでから長らく忘れていたのだが、ふと思い出して買ってみたのだ。
矢吹駆はこの歌の中で何度も使われている
「生は暗く、死も暗い」という言葉をつぶやき、そのメロディーを口笛で吹く。
一体どんな曲なのかと思っていたのだが、
冷え冷えとした秋風が吹き、やがて冬の冷たさが襲ってきそうな夕刻に
たまらないほどの悲しみを覚えるような情景である。

こうした悲しみというのは唐突に襲ってくるものだ。
孤独の淵に立ち、先に進むことも苦しみに変わってしまう。
やがて待ち受けるは全ての人に訪れる死という当然の結果。

悲しいことは悲しいのだが、まぁ、そこに浸りきるわけにはいかないのが実状だ。
それでも時にこのアルバムを矢吹駆という主人公と共に思い出す。

僕は他にも持っているのだが、
このワルター盤はやっぱり心を打たれる悲しみがある。

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